ちょっと一言

「猫と未来」6月号編集後記より

 動物が好きです。ふかふかのボディ,水晶のようにキラキラした瞳,丸い手足…想像するだけで思わず頬が緩みます。
 我が家には現在2匹の猫がいます。昨年梅雨の時期に一方の猫の呼吸が早くなり,すわ大病かと急いで病院に駆け込みました。診断は湿度上昇による熱中症で,適切な温度湿度管理の重要性を痛感しました。ものを言えない動物たちの体調不良をいかに迅速に察知するかが共に暮らすものとしての責務だと思っています。
 猫に多い病気の一つが慢性腎臓病であることをご存知でしょうか? イエネコの祖先は砂漠で暮らし,少ない補水で生きられる身体を得た代わりに,腎臓への負担がかかりやすいという弱点がありました。そして,現在のイエネコもこの体質を引き継いでおり,7歳以上だと実に30〜40%が慢性腎臓病と言われています。
 猫の腎臓病の原因は長年不明で,完治が不可能とされてきました。ところが,1999年にスイス・バーゼル免疫学研究所(当時)の主任研究員だった宮﨑徹さんが,体内のゴミを掃除するたんぱく質「AIM」を発見しました。さらに,東京大学大学院医学系研究科教授だった平成28年には,猫をはじめ,トラ,ライオンなどすべてのネコ科動物は先天的にAIMが機能しないため,腎臓内にゴミが蓄積し,腎臓病に罹りやすいことを明らかにしました。
 現在,宮﨑徹さんはAIM医学研究所を設立し,AIMネコ薬(AIMたんぱく質を直接薬剤としたもの)を開発しています。2025年2月には慢性腎臓病の猫の実態調査が始まっており,2027年春ごろには実用化を目指すとのことで,期待に胸が高鳴ります。
 ところで,この画期的なAIMが特許出願されているかどうか気になり,調べてみました。該当する最新の特許として「重度腎不全に罹患するネコ科動物における尿毒症の悪化を抑制するための剤(特許第7504490号)」が2024年6月に登録になっています。これは,ネコ科動物の尿毒症の悪化を抑制し,さらに血中尿毒症の濃度を軽減するとされています。さらに分割出願(特開2024-107119)でネコ科動物以外の哺乳動物(ヒト,ウシ,サル…)にも権利範囲を拡大して審査中となっています。
 猫だけでなく人の未来をも照らす技術,今後の発展に注視していきたいものです。
  • ニャルソック中の二匹

(Y.S.)

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