ちょっと一言

「我が家の椅子」2月号編集後記より

 我が家には,少し特別な椅子があります。20世紀を代表するデザイナー・建築家であるジャン・プルーヴェが手掛けた「スタンダードチェア」です。1934年に誕生したこの椅子は,前脚が細いスチールパイプ,構造上負荷のかかる後脚が幅広の三角形のデザインで,シンプルかつ機能的なモダニズムデザインの代表作です。夫が憧れて購入したこの椅子を初めて見たとき,私は「小学校の椅子みたい」と感じました。画像を検索していただくと分かりやすいと思いますが,一見すると素朴で,名作家具と言われてもピンとこないかもしれません。
 夫曰く,名作家具と呼ばれる椅子は,見た目に加えて「座る行為」がデザインされているそうです。例えば座面の高さが350,400,450mmと異なるだけで,座り心地は大きく変わります。スタンダードチェアは座面の高さが465mmと比較的高く,座面が後ろに傾斜しているため,緩やかにカーブした背もたれに身体を預ける構造です。座面と背もたれには木材が使われており,これが金属であれば座るときに冷たさを感じるでしょう。深く腰掛け,ゆっくりお茶をしながら会話を楽しむ場面を想定してデザインされているのではないでしょうか。一方,浅く腰掛け,作業に集中できるようデザインされた椅子が「ティプトンチェア」です。この椅子は前脚側に9度の傾斜が設けられ,体重移動に合わせて椅子が前傾します。骨盤と背骨がまっすぐ保たれることで長時間の作業でも疲れにくく,着座姿勢からの立ち上がりもスムーズです。軽いポリプロピレン製の素材ですが,これが例えば重い金属製の場合,椅子の動きや使い勝手は大きく変わるでしょう。
 このように,座面の高さ,角度,材質に少し気を留め,家具それぞれの個性を楽しんでみてはいかがでしょうか。自分に合う個性の家具は,居心地の良い住空間を生み出してくれます。また,名作家具という長く愛されてきた家具を使うと少し身が引き締まり,「座る」という行為そのものを大切にしたくなります。私自身,家具の魅力にすっかり惹かれ,それぞれの個性やデザイン背景を知りながら,少しずつ暮らしに取り入れていきたいと思っています。寒い季節こそ,温もりや使い心地にこだわった家具を選び,心地よい時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
  • 我が家の椅子

(H.Y.)

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