新刊書紹介

新刊書紹介

知財部員のための特許権行使戦術

編著 山内 康伸,山内 伸 著
出版元 経済産業調査会 A5判,525p
発行年月日・価格 2023年5月26日発行 5,720円(税込)
 出願明細書の作成や庁との中間応答をメインの業務としている知財部員の場合,権利化した特許が実際に権利行使を行う場面を想像できない人も多いだろう。紛争にあまり関わりのない知財部員であれば,なおさら権利行使のことを忘れてしまいがちである。当たり前のことだが,いざというときに行使するからこそ権利を取得する意味がある。本書は,権利行使の際の実務を裁判例や仮想事例をもとに説明している。
 本書は7章立てである。第1章の「特許権侵害」では,どのような場合に特許権侵害が成立するかを,消尽や先使用権の効力にも触れつつ説明している。第2章の「特許権侵害に対する請求」では,差止請求や損害額の算定方法等について解説している。
 第3章以降は,権利化を含めた紛争前の備え,紛争の始まりから解決までの時系列に沿った解説である。まず,第3章の「特許の成立を争う手続」は紛争の未然防止に役立つ他社の出願に対する情報提供や異議申立制度について説明している。
 続く第4章の「特許の有効性を判断する手続」と,第5章の「無効審判の審決に対する不服申立て」では,主に無効審判の請求を受けた場合,あるいは無効審判を請求する場合の手続きについて注意すべき点を説明している。日本では提起される無効審判の数がそれほど多くないため,実際に関わったことがない知財部員も多いであろう。この章は,無効審判を請求する場合,あるいは請求された場合の流れを把握することに役立つ。
 そして,いざ,権利行使となればその内容によって交渉,ADR(裁判外紛争解決手段),訴訟等の中から最適の手段を選択する必要がある。第6章では「紛争を解決するための手順とメニュー」として,それぞれの手続きのメリット・デメリットや手順を説明している。
 最後に第7章の「特許侵害訴訟当事者本人の役割」では,解決手段として侵害訴訟を選んだ場合の知財部(会社)としてやるべきことを説明している。実際に裁判の場において手続きを進めるのは代理人弁護士や弁理士であるが,知財部(会社)がどのように動くかで勝敗が左右されるのはもちろんである。私自身も訴訟の経験がなく,特に本章の内容は,訴訟の際にどう動くべきかその概観をつかむことができ,今後の業務に生かそうと思った。
 本書は図や表が多用され,知財経験の浅い新人知財部員でも苦痛なく通読できる。実際,本書を渡した新人に第1章の侵害論について感想を聞いたところ,わかりやすく,豊富な事例が参考になると好評であった。いくつか質問してみたが概ね理解してくれており,章立てに従って順次通読していけば,新人でも知識を大幅に向上させることができよう。また,普段業務が忙しく,判例アップデートが疎かになっているベテランは本書で最新の裁判例を追いかけることができる。このように,本書は新人からベテランにまで役立つ有用な一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 M.K.)

歴史のなかのEU法

編著 山根 裕子 著
出版元 有信堂高文社 A5判 336p
発行年月日・価格 2023年6月発行 4,620円(税込)
 新刊書紹介の担当として本書を受け取ったとき,これは欧州の「知財関連法」をより良く知ることができる好機と考えた。だが,読了後の達成感とともに感じたことは全く別物であった。理由は,端的に言って本書は知財法解説書ではなく欧州法史学書寄りだったからである。
 本書の構成は,EC創設からEUに発展していくまでの変遷を東西対立や域外隣国の歴史を絡めつつ詳述した第Ⅰ章,第Ⅱ章からはじまる。実は,この2つの章でいきなり躓いてしまったことを白状したい。それは登場する条約,法,規則の種類の多さに混乱してしまったからである。特に条約は都度改正されるたびに締結地が付された名称が追加されるため,前のページに戻ってどの改正条約か理解してから読み進めることを余儀なくされた。すでにこの時点で,自身の生活に直接影響する(と自認する)国際法がさほどない日本はなんとありがたい国なのだろうという稚拙な思いを何度も感じたものである。裏を返せば欧州ではこれほどまでに域内外との関係を意識した動きが当たり前ということなのだろう。
 第Ⅲ章では,前章までの変遷を踏まえて生じる対外関係を規定する法,いわゆる私法について解説される。
 だが私としては,第絃呂EU憲章とそれに基づき保証される基本権の解説,つまり公法の側面が非常に興味深かった。たとえ制定当時米国統制下にあったとはいえ,他国との利害調整なく制定できた日本国憲法を意識しつつ読むとその違いが見えてきたからである。特に「個」の保証や移民等保護という考え方が非常に強くでていることが特徴的に感じた。
 第江蓮ぢⅥ章はある意味自身が専門とする領域と重複するところが多いため,浅学知識とともに深い理解を持って読み進めることができた。ただ,種々の権利の基となる条約や法においても日本よりも一歩先を見据えた動きをしていることは痛切に感じた。よく弁理士試験勉強の際,先輩から「趣旨で困ったら『国際的調和』と書け」と冗談交じりに言われていたものだが,なるほどその通りであった。
 正直に申し上げて,大学時代,その単位取得困難さから法制史の履修を忌避していた不真面目な者としては,非常に難解な内容であったことは否定しない。ただ本書に触れることで,法制史の奥深さの片鱗が見えるとともに,自身が島国国家,つまり地続き隣国がない地にいることの安心さと競争意識の希薄さとを改めて痛感することになった。結果的に,本書は人間いつでも勉強する時機は存在することを改めて認識させてくれる貴重な一冊となった。

(紹介者 会誌広報委員 K.N)

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