新刊書紹介
新刊書紹介
最新 不正競争防止法概説 上巻,下巻
| 編著 | 小野 昌延,松村 信夫 著 |
|---|---|
| 出版元 | 青林書院 A5判 2025年3月発行 |
| 発行年月日・価格 | (上巻)452p,(下巻)480p (上巻)6,490円,(下巻)6,930円(税込) |
企業の知財担当者であっても,知財と関連する法域の全てに業務として携わる方は少数派で,多くの方は主として,特許,実用新案,意匠,商標のいずれかを取り扱う業務に従事されているであろう。そして自身の担当する法域以外の情報は,意識的に獲得しにいかないと容易には得られないものではないだろうか。
本書は,有斐閣社が発行する月刊誌「ジュリスト」誌の2021年11月号から2024年2月号に掲載された連載「実践 知財法務」を,最新状況もふまえてまとめたもので,第1部を著作権,第2部を特許,第3部を不正競争・意匠・商標,第4部を特別編とし,全部で28章から構成されている。第1部から第3部では,一部の章を除き,具体的な事例をCASEとして設定し,関連する法律や過去の判決・判例を紹介,解説し,第4部では,知財経営,知財デューデリジェンス,企業内法務組織に関して論じたものとなっている。連載企画をまとめたものであることから各章独立した構成となっており,読者自身が興味を持った法域やテーマに絞って読むこともできる。
各章とも,法律上または学説上あるいは判決・判例上の解釈を整理しており,CASEを設定した章においてはそれらの整理をもとに解説がなされている。したがって,設定したCASEとは異なる場合においてもどのようなアプローチで検討を行っていけば良いのかを考える一助にもなると思われる。前述のとおり,対象CASEの検討に必要な基礎情報を整理するにあたって,その情報が示された書籍や判決・判例を挙げているので,是非注釈にも注目していただきたい。特に普段携わらない法域における重要な基礎情報や,それが掲載されている書籍等が何なのかを知ることができる点,あるいはどのようなプロセスで検討をなしていくべきかを学ぶ点でも,初学者にとって非常に良い教材である。
また,本書は著作権法に関する章が比較的割合の多くを占めている。SNSの普及もあり,近年ではコンテンツ産業以外のメーカーが独自のコンテンツを制作する事例も多く,今後もこの流れは変わらないことが予想されるが,著作権法になじみのない方々にとってコンテンツを取り扱う業界の商流等も併せて学ぶことが可能である。
第4部の最終章での総括では,知的財産分野の特徴として変化の速さを挙げている。技術の進歩に合わせた法改正が他分野に比べてほぼ最速で対応されており,またその変化は知的財産分野の複数法域に及ぶものであると評されている。本書では1冊で複数法域にわたって最新状況も踏まえた解説が行われているため,大変有益な書籍である。初学者から経験を積んだ方まで,是非お薦めしたい。
本書は,有斐閣社が発行する月刊誌「ジュリスト」誌の2021年11月号から2024年2月号に掲載された連載「実践 知財法務」を,最新状況もふまえてまとめたもので,第1部を著作権,第2部を特許,第3部を不正競争・意匠・商標,第4部を特別編とし,全部で28章から構成されている。第1部から第3部では,一部の章を除き,具体的な事例をCASEとして設定し,関連する法律や過去の判決・判例を紹介,解説し,第4部では,知財経営,知財デューデリジェンス,企業内法務組織に関して論じたものとなっている。連載企画をまとめたものであることから各章独立した構成となっており,読者自身が興味を持った法域やテーマに絞って読むこともできる。
各章とも,法律上または学説上あるいは判決・判例上の解釈を整理しており,CASEを設定した章においてはそれらの整理をもとに解説がなされている。したがって,設定したCASEとは異なる場合においてもどのようなアプローチで検討を行っていけば良いのかを考える一助にもなると思われる。前述のとおり,対象CASEの検討に必要な基礎情報を整理するにあたって,その情報が示された書籍や判決・判例を挙げているので,是非注釈にも注目していただきたい。特に普段携わらない法域における重要な基礎情報や,それが掲載されている書籍等が何なのかを知ることができる点,あるいはどのようなプロセスで検討をなしていくべきかを学ぶ点でも,初学者にとって非常に良い教材である。
また,本書は著作権法に関する章が比較的割合の多くを占めている。SNSの普及もあり,近年ではコンテンツ産業以外のメーカーが独自のコンテンツを制作する事例も多く,今後もこの流れは変わらないことが予想されるが,著作権法になじみのない方々にとってコンテンツを取り扱う業界の商流等も併せて学ぶことが可能である。
第4部の最終章での総括では,知的財産分野の特徴として変化の速さを挙げている。技術の進歩に合わせた法改正が他分野に比べてほぼ最速で対応されており,またその変化は知的財産分野の複数法域に及ぶものであると評されている。本書では1冊で複数法域にわたって最新状況も踏まえた解説が行われているため,大変有益な書籍である。初学者から経験を積んだ方まで,是非お薦めしたい。
(紹介者 会誌広報委員 中山健太郎)
アメリカ著作権法
| 編著 | 安藤 和宏 著 |
|---|---|
| 出版元 | 弘文堂 A5判 410p |
| 発行年月日・価格 | 2025年5月27日発行 4,510円(税込) |
本書は,タイトルの通りアメリカ著作権法の本格的な概説書である。全16章から構成されており,各章において理論と実務の両面から制度の理解を深めることができる。
まず紹介したいのは,第7章「終了権制度」である。終了権とは,著作者またはその遺族が,過去に締結した著作権契約を一定の条件のもとで一方的に終了することができる権利である。この制度の立法趣旨は,著作者が著作物の価値に見合った正当な報酬を受け取る「第二の機会」を得られるようにする点にある。交渉力の弱い著作者を保護するために設けられたアメリカ独自の制度であり,日本の著作権法には存在しない。
本章を最初に紹介する理由は,著者の経歴に深く関係している。著者は音楽業界において法務を中心にキャリアを積み,自然人クリエイターや実演家が,交渉力で優位に立つレコード会社や音楽出版社との契約交渉において苦境に立たされる姿を数多く目にしてきた。こうした経験を通じて,著者は長年にわたり,自然人クリエイターおよび実演家の法的保護を研究テーマとして取り組んできた。第7章は,著者の問題意識と思いが最も色濃く反映された章であり,ぜひ読者に注目していただきたい章である。
自然人クリエイターや実演家の法的保護という観点からは,第12章「実演家の権利と保護」も重要である。アメリカでは,連邦憲法に根拠を持たない連邦法を制定できず,連邦憲法が著作者を保護の主体としているため,著作者以外の者を保護対象とする著作隣接権制度の整備が困難である。しかし,実演家の法的保護が全くないわけではなく,契約法,労働協約,連邦著作権法における録音物の著作者としての保護,コモン・ロー上の著作権,パブリシティ権,ランハム法など,複数の法的手段によって保護が図られている。エンターテインメント大国であるアメリカにおける実演家の保護の実態を理解する上で,第12章は必読である。
もっとも,本書は著者の研究テーマに偏ることなく,アメリカ著作権法の全体像を概説している点において,実用性が高い。判例を重視するアメリカの法制度に即して,各章では多数の判例が紹介されており,制度の背景や運用実態を具体的に理解することができる。
特に,第5章「権利の移転と未知の利用方法」,第8章「モラル・ライツ」,第10章「フェア・ユース」,第15章「DMCA」( Digital Millennium Copyright Act)などは,アメリカ著作権法の特徴的な制度を扱っており,第7章および第12章と併せて読むことで,より深い理解が得られるであろう。
まず紹介したいのは,第7章「終了権制度」である。終了権とは,著作者またはその遺族が,過去に締結した著作権契約を一定の条件のもとで一方的に終了することができる権利である。この制度の立法趣旨は,著作者が著作物の価値に見合った正当な報酬を受け取る「第二の機会」を得られるようにする点にある。交渉力の弱い著作者を保護するために設けられたアメリカ独自の制度であり,日本の著作権法には存在しない。
本章を最初に紹介する理由は,著者の経歴に深く関係している。著者は音楽業界において法務を中心にキャリアを積み,自然人クリエイターや実演家が,交渉力で優位に立つレコード会社や音楽出版社との契約交渉において苦境に立たされる姿を数多く目にしてきた。こうした経験を通じて,著者は長年にわたり,自然人クリエイターおよび実演家の法的保護を研究テーマとして取り組んできた。第7章は,著者の問題意識と思いが最も色濃く反映された章であり,ぜひ読者に注目していただきたい章である。
自然人クリエイターや実演家の法的保護という観点からは,第12章「実演家の権利と保護」も重要である。アメリカでは,連邦憲法に根拠を持たない連邦法を制定できず,連邦憲法が著作者を保護の主体としているため,著作者以外の者を保護対象とする著作隣接権制度の整備が困難である。しかし,実演家の法的保護が全くないわけではなく,契約法,労働協約,連邦著作権法における録音物の著作者としての保護,コモン・ロー上の著作権,パブリシティ権,ランハム法など,複数の法的手段によって保護が図られている。エンターテインメント大国であるアメリカにおける実演家の保護の実態を理解する上で,第12章は必読である。
もっとも,本書は著者の研究テーマに偏ることなく,アメリカ著作権法の全体像を概説している点において,実用性が高い。判例を重視するアメリカの法制度に即して,各章では多数の判例が紹介されており,制度の背景や運用実態を具体的に理解することができる。
特に,第5章「権利の移転と未知の利用方法」,第8章「モラル・ライツ」,第10章「フェア・ユース」,第15章「DMCA」( Digital Millennium Copyright Act)などは,アメリカ著作権法の特徴的な制度を扱っており,第7章および第12章と併せて読むことで,より深い理解が得られるであろう。
(紹介者 会誌広報委員 H.O.)

