新刊書紹介

新刊書紹介

自明性に関する米国特許重要判例

編著 佐々木眞人 著
出版元 発明推進協会 A5判 376p
発行年月日・価格 2025年4月発行 3,300円(税込)
  米国の重要な特許要件の一つである「自明性」(米国特許法103条)の判断枠組みについては,欧州の課題解決アプローチと異なり,わが国の進歩性と同様の総合考慮型が採られている。しかし,その各種考慮要素については,内容を正確に理解することが案外難しい。本書は,そのタイトルから明らかなように,「自明性」に焦点を当て,その制定以前から最新のものに至るまで,主要な判例を網羅的に紹介し,自明性の判断基準・考慮要素に係る諸概念について,具体的にイメージできるように解説している。米国特許制度を概観する有益な書籍はいくつか存在するが,自明性についてここまで深掘りしたものは珍しく,知財実務家にとって有益かつ貴重な一冊に仕上がっている。
 以下,本書が実務家にとって特に有益と思われる特長を,三点紹介したい。
 第一に,判例,制定法,その後の判例という流れを押さえた解説による,深い理解への導きを挙げることができる。本書は,「天才のひらめきテスト」,103条制定による緩和・安定化,自明性判断の枠組みを確立したGraham判決,「シナジー・テスト」等の登場といった流れを時系列的に丁寧に追う。こうした手法により,断片的な知識では獲得できない,「自明性」についての本質的・深層的理解へと,自然に読者を導いている。
 第二に,KSR判決以降,実務のよりどころとなっているMPEPの基準・考慮要素の解説が充実している点が挙げられる。自明性肯定の「7つの理論的根拠」と,これを否定する「二次的考慮要素」について,豊富な判例とともにそれぞれの内容が詳しく解説されており,実務に直結する情報・知見にあふれている。(米国において「二次的考慮要素」に位置付けられている)「予期せぬ効果」についての丁寧な解説を読むと,わが国の「予測できない顕著な効果」との親和性や細部での相違について,思索を深める契機となった。こうした詳解は,審査官の拒絶理由通知や訴訟での相手方の主張に対し,判例を根拠にした具体的・論理的かつ精緻な反論を立案する際,役に立つに違いない。
 第三に,近時の自明性に関する論点と,それに対する判例の考え方がわかりやすく紹介されている点を挙げることができる。すなわち,先行技術を組み合わせることの「成功の合理的期待」や,黙示的な動機付けを肯定する根拠としての「常識」,それを妨げる「阻害要因(Teach away)」,先行技術の適格性(実施可能性等)などの論点について,本書は主要な判例を分析しつつ米国の現状を紹介しており,「自明性」について説得力のある主張を展開するための知見・指針を読者に与えるものとなっている。
 本書は,米国特許法における「自明性」判断について,実務家が有効な戦略を立てるための羅針盤となるに違いない。米国特許にかかわる知財実務家の座右の書にふさわしい一冊として推薦したい。

(紹介者 会誌広報委員 K・B)

NEW 欧州特許出願実務ガイド

編著 弁理士法人酒井国際特許事務所 編
出版元 発明推進協会 A5判 284p
発行年月日・価格 2025年6月発行 3,080円(税込)
 欧州特許出願の実務に携わる方々にとって,最新の情報と実践的な知見を網羅した一冊が誕生しました。それが「NEW 欧州特許出願実務ガイド」です。本書は,2017年版から大幅な改訂を経て,2023年6月にスタートした単一効特許制度をはじめとする最新の制度動向を反映し,より実務に即した内容へと進化しています。
 まず本書の最大の特徴は,欧州特許出願に関する基礎知識から,実際の手続,審査,異議申立て,さらには単一効特許や統一特許裁判所(UPC)など,近年の大きな制度変更までを,体系的かつ実務目線で解説している点です。
 第1章は出願ルートや出願書類など欧州特許基礎情報がまとめて提供されています。そして第2章では,単一効特許制度について新たに章を設け,制度の概要や申請手続,留意点を最新情報に基づき丁寧に説明しています。第3章では,特許要件が基礎と特例に分けて整理されています。また,第4章「出願時の手続と方式審査」から第8章「審判手続」そして第10章「減縮と取消」までは,図表を多用し,複雑な手続や判断基準をできる限りシンプルに解説されています。実務担当者が現場で直面する疑問や判断に,目次から検索し,直ぐに役立つ実践的な内容となっています。
 さらに,審査請求やサーチレポート,許可通知などで求められる判断や対応についても,クリアで分かりやすい説明が盛り込まれています。前版(2017年版)と比較して,ページ数をスリム化しつつも,内容の充実度はむしろ増しているとも言え,持ち運びやすい「手頃なテキスト」としての利便性も向上しています。
 本書の編集には,多数の実務家や専門家が協力し,解説の正確性や読みやすさ及び最新情報を体系的にカバーすることを目指しています。例えば,分割出願の検討,許可通知受領時の展開国の検討,UPCの判例を読むなど日々の業務の中で疑問を感じた際には,特定のトピックを選んで熟読することで,欧州特許実務に関する知識を深めることができます。審査便覧,規則なども本文及び脚注に補足されているため,直ぐに原文に当たり,詳細を確認することもできます。
 奇しくも弊社において欧州特許制度のまとめを行っているところで,本書は,最新情報の確認に非常に役に立ちました。特に,単一効特許制度については,制度開始時のセミナー受講等を通じたインプットにより,日々の通常案件には対応できていましたが,本書をもって,改めて制度全体をおさらいすることができたことで,より自信を持って実務にあたることができるようになりました。
 また,新設されたUPCの動向には多くの注目が集まっていますが,日々アップデートされる情報を追うにあたって,その都度,基礎的な知識を確認することにも本書は大変役に立ちます。
 「NEW 欧州特許出願実務ガイド」は,欧州特許出願の基礎から応用まで,最新の制度と実務を体系的に理解するのに有用なため,欧州特許に関わる全ての実務家に,ぜひ手に取っていただきたい一冊です。

(紹介者 会誌広報委員 yh)

法律実務家のための特許の基礎知識

編著 城山康文 著
出版元 有斐閣 四六判 286p
発行年月日・価格 2025年6月発行 3,300円(税込)
 本書は,企業法務に関するテーマを中心としてコンパクトにまとめた法律実務家のための基礎知識シリーズの内,特許実務の基礎と対応のポイントを解説するものである。
 第1章で,知的財産の全体像と特許法についての概要が簡単に述べられている。分量は16ページと絞ってあり,第2章以降で早速,特許実務の解説が始まるため,実務で必要な知識を押さえたい読者がモチベーションを維持して読み進められる。2章以降の構成は,取り上げるテーマに関連する法律の解説,企業の法務・知財部員向けの対応ポイントの解説,参考となる判例紹介のセットで展開されており,ある程度実務を経験した中級者だけでなく初学者も十分理解できるよう工夫されている。
 第2章では,特許ポートフォリオの構築と題して,新規性・進歩性などの特許要件,出願書類の要件,拒絶対応など,権利取得までの実務が解説されている。出願公開のメリット・デメリット,オープン・クローズ戦略も触れられており,権利取得に加えて,有力な特許ポートフォリオ構築に必要な基礎知識が習得できる。
 第3章では,特許クリアランスがテーマであり,他社の特許/特許出願への対応手段として情報提供,異議申し立て,無効審判について解説されている。上記の対応手段をとるべきか,それとも静観すべきかといった点についても言及されており,制度の解説に留まらない点が面白い。
 第4,5章では,特許を受ける権利がテーマであり,職務発明や共同出願について解説されている。特に,特許権が共有に係るときの実施に関する注意点は参考になる。
 第6〜9章は訴訟交渉に関するテーマで構成されている。訴訟交渉は,権利取得と比べて経験することが少ないため,個人的に本書で最も参考となった。特に第7章の特許交渉では,権利者と被疑侵害者の対応,被疑侵害製品の部品などが購入品である場合の非侵害保証とその履行についても解説されており,内容が充実している。また,第9章の特許侵害訴訟では,実体面の特徴や定石,手続き面や実務慣行に重点を置いて解説されており,実務をイメージできるよう工夫されている。特に,充足論/無効論の審理から始まり損害論の審理に続く2段階審理について,進行の一例が詳細に解説されている点は,訴訟の流れがイメージでき大変参考になる。
 第10,11章は,ライセンス契約や譲渡・担保設定取引について解説されている。特許権だけでなく,ノウハウの供与もライセンス契約の対象とするケースも述べられており,参考になる。
 特許実務で重要となるテーマについて,著者の経験も散りばめながら,丁寧に解説されていた。この充実した内容を,これほどコンパクトにまとめられている点に驚嘆させられる。知財・法務担当の方々に,是非,本書を手元に置いて参考にしていただきたい。

(紹介者 会誌広報委員 T.M.)

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