ちょっと一言

ハーモナイゼーション

今年度、3極ユーザー会議PJに参加させていただきました。そして昨年の5月と11月に、米国ワシントンDCで開催された3極ユーザー会議に出席しました。11月の会合の際は、並行して3極特許庁会合も開催され、ここで3極統一フォーマットの導入が決定されました。このような場所に立ち会えたこと、大変光栄でありました。これまでのメンバーの努力に心から敬意と感謝を表します。

ところでハーモナイゼーションといえば、20年近く前にも、ハーモナイゼーションがブームでした。いや、ブームという言い方はおかしいのですが、WIPOハーモの専門家会合や、長官会合などが開催されていた頃でした。私や、周囲の人間は、そういった会合の報告を「特許管理」誌で読み、来るべき世界統一特許法について色々と話し合ったものでした。ということで、私の周囲ではブームでした、と言うべきでしょうか。

そんな中で、雑談として、「特許制度は遠い将来には無用の長物になるのではないか?」と言い出した人がいました。彼は非常なSFファンでした。彼によると、J.P.ホーガンの「断絶への航海」という小説を読めとのこと。そう言われて読んでみました。

ちょっと粗筋を紹介させていただくと、長く続く戦乱に疲れ果てた地球が、恒星間探査船を送り出します。その船が見つけた惑星で、遺伝子レベルから機械によって育てられる子供達。核融合技術の利用により、資源は無限に、無料で、供給されています。そのような世界では、他人を、その人が所有している物で間接的に評価する(この人は高価な物ークルマでも宝石でも六本木ヒルズのマンションでもいいですがーを所有している。→それだけの物を購入できる資力があるのだろう。→それだけの、すごい仕事をしているのだろう。→この人はすごい人なんだ)のではなく、もっとダイレクトに、その人の知識、知恵、技能といったもので評価する・・。そうしたユートピアに、後になって地球から移民団がやってきます。もちろん、旧態依然の価値観を引きずったままに。この移民団がひき起こすドタバタ劇と、その後の輝かしい未来について書かれています。

で、そのSFファン君は、「このような世界であれば、発明者は、発明をしたという行為それ自体が評価され、尊敬されるから、独占権という手段で間接的に保護する必要はない。だから特許制度は要らなくなる」と言うのです。そりゃ、そうだろうね。でも現実の地球では、まだまだ資源問題も解決されていないし、このユートピアのような人たちが住んでいるわけでもないし、とりあえず我々が生きている間には、特許屋が失業する心配はないだろうね。という妙に身近な所に話が落ち着き、当時は安心した(?)記憶があります。

むしろ、まあ戦争はイヤですけど、宇宙船を造るためには科学技術の進歩が必要で、科学技術の進歩と言ったら特許制度じゃないですか。むしろ、これからもっと特許屋が活躍するようになるんですよ。将来にスゴイ宇宙船のエンジンでも発明された時には、そのエンジンの特許出願は世界統一特許法に基づいて行われるんですよ。などと話し合っていたものでした(まだ、昔のことを懐かしむ年齢ではないと思っていますけどね)。

それから20年。まだ統一特許法はできていません。ようやく書式の統一が実現されたところです。今後、サーチの統一、審査の統一、そして権利行使(権利解釈)の統一と、まだまだハーモナイゼーションへの道は続きます。やはり、このようなことには長い時間がかかるのだなと思う反面、第1段階として書式が統一された今となっては弾みがついて、第2段階のサーチや第3段階の審査は、思ったより早く統一されるのではないかという気もしています。

どちらになるのか分かりませんが、今後も微力ながら貢献したいと思っております。とにかく、恒星間探査船の方が特許制度ハーモナイゼーションよりも先に実現されてしまうということにならないようにしないといけないですね。宇宙船には乗ってみたいですけれど!

しかし、本当に宇宙船に乗って、このようなユートピアに行った場合にドタバタ劇を起こさないように、昔やった楽器でも引っ張り出して練習しておきましょうかね。

特許第1委員会(K.S)

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