ちょっと一言

「進展(ベートーベンに倣え)」知財管理6月号編集後記より

 梅雨の季節となりました。読者の皆様におかれましては如何お過ごしでしょうか。

  と、ここで続きを書くのが嫌になってしまいました。時候の挨拶。書簡なら拝啓の次に季節に合わせた挨拶を適宜選択することになっています。一定の様式。 これならだれが書いても一定の品質を確保できます。書く方は便利なら読む方も「お約束」通りなので安心です。大げさに言えば、一定の様式が普及すれば、 これがしきたりとなり、伝統となり、文化となります。ここまで来れば日本には時候の挨拶という文化があると他国の方々の関心を惹きそうです。素晴らしいですね。 でも何か・・・。

 考えました。なぜ筆が止まったのか。筆者は日頃、研究員から発明届出があると「二番煎じは要らない、今までにないものが欲しい。 ここが違うと言って欲しい。」と求めます。発明者本人も、報告を受ける上司や知財部員も、皆新しい知見にこそ関心を持ち驚きと喜びを覚えます。 だから一知財員としてはその対極にある「定型」、たとえば時候の挨拶には興味も驚喜も抱きません。そういう訳で筆が止まったのです。

 ところでベートーベンは今日も愛される交響曲を8曲も編み出し、続く第9番でも素晴らしい楽章を3つ用意しました。それなのに、 第4楽章の冒頭でこのような調べはだめだとバッサリ切り捨て、歓喜の曲を提示しました。ベートーベンは作曲家として名声を得ていたのに、 これまでの業績に固執せず、更に新たな境地に挑みました。こうした弛まない姿勢で作曲に取り組んだからこそ、聴衆の共感を呼び、そして音楽界は 古典派の時代からロマン派の時代へと、時代が切り開かれました。

  伝統や格式を重んじることは大切なことです。しかしややもすると停滞を招き、時代の進展に取り残されてしまいます。未来を切り拓くには 現状の枠を 打破し新たな一歩を踏み出すことが必要です。打破する勇気と踏み出す行動力。自らを省みれば恥ずかしい限りですが・・・。

  さて進展といいますと、皆様ご承知のとおり協会は本年度より法人化されました。4月に本誌の表紙が刷新され、5月に総会も開かれました。 本誌は今後も協会の内外に有益な記事を提供致しますのでご期待下さい。

(M.M.)

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