ちょっと一言

「秋の熊野古道」9月号編集後記より

 まだまだ暑さが残りますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。秋の行楽シーズン、日常を離れて遠出の計画をされている方も多いのではないかと思います。

 9月といえば、昨年ランニングのイベントで訪れた熊野古道の風景が思い出されます。熊野古道は熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)へとつながる道の 総称で、5つのルートが紀伊半島に張り巡らされるように位置しています。古くは平安時代から人々の生活道路・参詣道として使用され、道中には当時の景観が今も残されて います。2004年には世界でも珍しい「道」の遺産としてユネスコ世界遺産に認定され、実際に足を運ばれた読者の方もおられるのではないでしょうか。

 昨年私が走った(歩いた)のは、高野山と熊野本宮大社を結ぶルート、通称「小辺路(こへち)」。 神道と真言密教の聖地を結ぶ道であり、随所に宗教・文化の融合された遺跡が残されていて、いかにも日本らしい文化的景観が楽しめます。また、1000メートル級の峠から眺める紀伊山地の景観も圧巻で、山を走ることの醍醐味を存分に味わうこと ができます。

 急峻な山道には石畳(といっても、大きめの石が粗く並べられているだけ)が敷かれているのですが、これは雨で道が流れてしまわないようにする工夫だそうです。 地元の方の話では、「2011年の水害で被害にあったのは昭和以降にできた道。小辺路は殆ど被害を受けなかった。」とのこと。決して歩きやすい道ではありませんが、 世界有数の多雨地域である紀伊半島で1000年以上も使われていることを考えると頭が下がる思いです。

 当日は、高野山金剛峰寺の壇上伽藍を出発し、峠を越え、つり橋を渡り、廃校となった小学校の教室を借りて一泊。翌日もゴツゴツとした石畳、木の根の張り出した 急斜面をひたすら進み、足の痛みに耐えること計11時間。ようやく辿り着いた熊野本宮はとても神聖なものに感じられ、当時の人が感じたであろう信仰心や熊野参詣の 有難味を少しは実感できたのではないかと思います。これからは紅葉を楽しめる季節。皆様も熊野古道を訪れられてはいかがでしょうか。

(H.I.)

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