ちょっと一言

「"おかげ参り"をやり遂げて」5月号編集後記より

 もうすぐ「伊勢志摩サミット」が開催される。日本開催は6回目で、前回は2008年の洞爺湖だ。知財が関わるテーマは、経済・貿易と気候変動・エネルギーといった所だろうか。
 さて伊勢志摩と聞いて真っ先に思い浮かべるのは伊勢神宮であろうが、実は外国人観光客には人気がないらしい。式年遷宮で20年毎に全てを新しくするという事で、建物に歴史を感じられないのが大きな要因という。今回、各国首脳が参拝されるのか、どう感じられるのか興味あるところだ。
 その伊勢神宮と出雲大社が揃って式年遷宮を迎えるという事で大きな話題となった3年前、TVを見ていて、ふと、伊勢参りに行こうと思い立った。
 どうせなら、歩いて行ってみようと思った。

 私が住む大阪府堺市は、古都奈良の玄関口として港が発展し、1500年前に置かれた日本最古の「官道」(現代で言う国道)である「竹内街道」が家の近くを通っている。かねてから、この道はどこに続くのだろうと思っていたが、調べてみると約20kmで奈良だ。1日歩いて奈良に行けるなら、歩いて伊勢参りが出来るのではないか、江戸時代には全国各地から 伊勢参り(おかげまいり)が大流行した事を思えば、大丈夫な気がする。奈良から「伊勢本街道」を120km、計150kmを歩けば伊勢神宮と分かると、やる気が漲る。
 決行はGW。メーカー勤務で10連休の私に対し、暦通りに出勤通学する妻子は、「ええんちゃう(無関心)」と賛同?してくれたので、テントやシュラフを背負って歩き始めた。

一日目。春の牡丹で有名な「当麻寺」の先まで25km歩く。お寺も牡丹も満喫した。
二日目。「長谷寺」まで27km。名物草餅などを楽しみながら参道を登り仁王門に到着。敷地図を見ると石段が399段もあるが、もう無理。本堂はまた今度、車の時にしよう。
三日目。30km。「室生寺」などの名刹も素通りしてひたすら歩く。足が痛い。温泉最高。
四日目。30km。辛い。少し回り道すれば温泉があるのだが・・・。力尽きて寝る。
六日目。気力を振り絞って30kmを歩き、伊勢の宿に到着。
七日目。全身が痛く、ひたすら寝る。
八日目。外宮、内宮の順に15kmほど歩き、ようやく伊勢参りを果たした。ただ道中想い描いていた充実感は全く無く、宿に辿り着いた時と松阪牛を食べた時の方が、むしろ感動は大きかった。
九日目。特急電車に乗り、わずか2時間ほどで自宅最寄り駅に到着。あっけなく、寂しい。

 ということで旅は終わったのだが、これで願いが叶ったとか煩悩が無くなったとか、人間的に成長したという事は残念ながら無い。ただただ文明の素晴らしさを強く感じ、科学技術を発展させてきてくれた先人への感謝の念を新たにしたのみである。
 あとは少し忍耐強くなったぐらいだろうか。
 さて、次はどんな旅をしようかな。  

(S.M.)

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