ちょっと一言

「幻の鍋焼きうどん」 5月号編集後記より

 例年、5月と言えば新入社員の研修が終わり配属になって歓迎会が行われているころと思います。歓送迎会とは別で,仕事帰りに会社の同僚と飲みに行くことも間々ありますが,そういうときは,積極的に幹事を買って出ています。店は事前に調べてピックアップしてあり,その中からチョイスすることが多いのですが,いざ予約を入れようと口コミサイトで 検索しなおすと,店名が変わっている,移転している,閉店してしまっているということが頻繁にあります。事情はそれぞれあるのでしょうが,一番残念なのが,やはり閉店して しまった場合です。そんな残念な出来事を一つ紹介します。

 3年前のとある暑い日に,クールシェアと,車を買い替えたばかりだったためドライブも兼ねて少し遠出をしました。行先も決めずに走っていましたが,昼も過ぎていたため,たまたま通りかかったうどん屋で昼食を取ることにしました。外気温は30℃を超えていましたが,入店すると店にエアコンはなく,扇風機が 唯一の涼をとる手段でした。普通の飲食店はエアコンが効いているので,夏場でも冷たいものは頼まないのですが,ここぞとばかりに冷やしうどんを注文しました。

 食後にくつろいでいると,店のお婆さんが話しかけてきて,「常連さんは鍋焼きうどんが美味しいと言ってくださるんです。鍋焼きうどんを,本当は『うどんすき』と言いたいんですけどね,美々卯さんが特許を持っているから,私らは『うどんすき』という名前は使えませんねん。」。3年前のこと,さすがにこんな関西弁風の言葉尻だったか,記憶が定かではありませんが,商標と特許を間違っているとはいえ,こんな田舎のお婆さんが,他人の知的財産はキチンと尊重しなければならないと理解していたことに少し驚き,好感を持ちました。

 少し時間が経ち,ふとこの店のことを思い出し,暑くなる前に,常連さんお勧めの鍋焼きうどんを食べに行こうと,場所の確認のため口コミサイトで調べたら閉店していました。
 早く行っておくべきだったと後悔しつつ,今となっては幻となった鍋焼きうどんに思いを馳せながら,本家のうどんすきを堪能したのでした。

(M.I.)

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