ちょっと一言

「三保の松原と天女伝説」2月号編集後記より

 皆さんは,最近,何かに感動したことはありますか。私は,先日,社業で静岡に出張した際,少し時間に余裕があったので,世界文化遺産にも登録されている景観地「三保の松原」に足を運んでみました。そもそも,日本史の教科書に載っていた歌川広重の浮世絵,富士山が背後に拝める風景,そんな程度の認識しかありませんでしたが,これはなかなかのものだぞ,と初めて見る景観の風情にすっかり魅了されてしまいました。松林の緑,打ち寄せる白波,海の青さと富士山が織りなす風景,という定番なコメントになってしまいますが,これ以上言い得た形容はないでしょう。
 出張に同行した同僚からは,「三保の松原には,天女伝説で知られる羽衣の松があり,能楽にも『羽衣』という演目があるよ。知ってる?」と聞かれました。もちろん,返事は即答で「いいえ」。能楽と無縁で過ごしてきた私としては,何のことやら・・・。
 日本各地に存在する羽衣伝説の発祥の地がこの三保の松原であり,『羽衣』は能楽でも有名な謡曲の一つだそうです。実は,同僚は,能楽鑑賞を趣味とし,かつ稽古事としても地謡を習っているとのことでした。何とまぁ高尚な趣味でありますこと…。
 『羽衣』の概要を少しだけお伝えしておきますと,前半は,バカンス?で地球にやってきた月の満ち欠けを担当する天女の一人が,松の木枝に羽衣を掛けたまま遊んでいたところ,地元の漁師がその羽衣を家宝として持ち帰ろうとしたので,天女が月へ戻るためにその羽衣の返却を懇願したというものです。後半は,漁師が羽衣を素直に返さなかったため,天女が「舞」を舞うことを条件に何とか羽衣を取り戻し,無事月に帰ることができたというものです。
 「この漁師って,窃盗あるいは占有離脱物横領なんじゃないの?」,「返してもらえなければ,宇宙的な大事件となってしまうよね?」などと能楽ファンを敵に回すような突っ込みを入れる私を前に,同僚は意に介さず,この能楽『羽衣』の良さをこれでもかと言わんばかりに解説するのでした。
 この謡曲には,漁師と天女との返す返さないのやり取りに醍醐味があるようなのですが,そう言われてもこの作品を一度鑑賞してみないと正直判るものではありませんよね。ということで,同僚が貸してくれるという能楽DVDで三保の松原の風景を思い出しながら,この謡曲の醍醐味とやらを味わってみたいと思います。
  • 三保の松原

(M.I.)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.