ちょっと一言

「自然に依るところ」5月号編集後記より

 海の街に暮らしていながら自宅は山の手にあるので,遠くの高い山や近くの小高い山を眺めながら日々を過ごしています。
 山には毎日毎刻変化があり,飽きることがありません。春の花咲く山々は見て楽しく,皐月のころには風に乗って小鳥の声が聞こえてきます。夏に近づくにつれ緑が濃くなる様は目に新しく,秋の紅葉する木々に圧倒され,冬の雪景色の美しさには息をのみます。
 とりわけ早春の,木々が芽吹く一日前の景色が好きです。山は長い冬の間寒さに耐えながらも少しずつエネルギーを貯め,準備を進め,もう明日には春を体現するというときは,枝という枝の先端が白く膨らみ,山全体がおだやかに,しかし力強く喜びにあふれています。その自然のエネルギーで満ち満ちた景色を見るのが毎年の楽しみです。また,夏の夕立の後,むせかえるような熱気が洗い流され,山々の稜線がくっきりと見える時の美しさも格別です。
 さて,読者のみなさまもご存じのように,特許法第1条は,特許法の目的を表しています。「この法律は,発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とする」。そして第2条第1項は発明の定義です。「この法律で「発明」とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」。
 人間は昔,山で採った木の実や魚を火であぶって食べて生きていました。やがて自然の法則を応用して果樹園を作り,魚を養殖するようになりました。今は品種改良の進んだ食材が飛行機で運ばれてきて,様々な調理技術を駆使したおいしい食事を楽しむことができます。それは自然の法則を利用した技術的思想のうち高度なものを「発明」と呼び,発明を保護し,利用して産業の発達に寄与し,社会を豊かにしていくという特許法があったからです。
 わたしが毎日眺め,エネルギーに圧倒され,そこに不変があるように感じている山々,という自然が特許法の礎となっている。わたしはそこに大きな信頼を寄せています。そして,知的財産にかかわる楽しさと誇りはその信頼に基づいている,と思っています。
 これから先も特許法は社会を守りつつ,人類を正しく導いてくれるものと信じてやみません。
  • 春の里山

(M.Y.)

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