新刊書紹介

新刊書紹介

工業所有権登録の実務

編著 特許庁 出願支援課登録室編著
出版元 経済産業調査会 A5版 784p
発行年月日・価格 2004年10月10日発行 定価7980円(税込)

本書はその名の通り、特許権・実用新案権・意匠権・商標権といった登録により発生する種々工業所有権について、その登録の実務を詳細に解説した手引書である。

特許法を始めとする工業所有権法は、本来直接支配に馴染まない技術思想や標章の選択行為に対して物権類似の排他的権利を設定することで保護を与えようとするものである。 それゆえにこれら権利の登録と公示は工業所有権制度の根幹を成すものといえよう。蓋し、営業活動を制限される同業者にかかる強力な権利の現状を知らしめることが権利の利用促進に直結するからである。 我々企業知財担当者も特許査定後の登録料納付や年金支払いはもちろんのこと、調査を経て発見した類似技術に関する特許権について存続状況等を把握すべく特許原簿の閲覧請求を行うことが間々ある。

しかし、特許原簿への登録関連事項は特許登録令という我々に馴染みのない政令に規定されていることもあり、その詳細手続きに精通することは非常に困難である。 特に自社特許の設定・移転等登録時は懇意の外部弁理士に一切の手続きを依頼することが多いから、そこでどのような手続きがなされているか、我々は通常気に留めない。 外部弁理士とて実際は事務担当者に頼り放しで複雑に過ぎる実務手続きの全体を把握していないかも知れない。

本書はこのように重要さに比してクローズアップされない工業所有権登録の実務を詳細に解説する。関連実務をすべて記憶しておく必要こそないが、知財部署に1冊は備えておく価値がある。 会社合併時等の特許権名義変更手続きをどのように行うか、特許原簿の閲覧請求はどのように行うか、すぐに答えることができる実務家は少ないはずだ。

本書はまず第1章にて登録制度の意義や原簿の種類、順序、周辺手続き等の概要が解説される。ここでは登録制度の全体像を感じ取って頂きたい。 第2章では特許等権利の設定登録と存続の手続きが詳細に解説される。 登録のいわば開始地点ともいえる設定登録手続きと権利維持に不可欠な年金・更新登録料の支払いは当り前の手続きであるがいざ問題が起きると大慌てする典型的場面ではなかろうか。 第3章は移転登録に関する手続きについて名義人の表示変更、移転登録、実施権・質権の設定等、手続きの詳細が解説される。 信託や代位の登録など、企業人生において出会う確立が低いと思われる手続きまで抜かりない。 第4章では近年話題のマドリッド協定に基づく商標の国際登録について解説が加えられる。 続く第5章では登録の実例が紹介され、いわゆるケース・スタディができるよう配慮されている。 巻末第6章では登録実務Q&Aと題して質疑応答形式の手続き解説が行われ、我々知財担当者に未知な領域の早期習熟を助ける配慮がなされる。

再言になるが本書は端から通読する類の書ではなく知財部員の手元において都度参酌するに適した書である。いわば辞書的な使い方をお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 大野義也)

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知財・特許業務必携マニュアル

編著 知的財産活用研究所著
出版元 全日出版株式会社 A4版 547p
発行年月日・価格 2004年11月12日発行 定価55000円(税込)

本書はマニュアルである。そのことは本書がバインダー装丁となっていることや、一般に高額である知財関係専門書籍を大きく超える値段設定がされていることからも明らかであろう。

本書のタイトルには副題が付されている。『強い特許で強い会社を作る』。これは企業に勤務する知財担当者のみならず、経営者にとっても永遠のテーマであろう。 本書はこのテーマに沿って特許業務の概要とノウハウが解説される、まさに知財担当必携の書である。

本書は大きく3つの部から構成され、それぞれが『特許管理実務の基本』(第一部)、『実践で役立つ特許業務のコツ・裏ノウハウ』(第二部)、 『研究・技術者も知っておきたい特許情報活用、発明提案書作成などのノウハウ』(第三部)と題される。

第一部では特許管理の概要の解説に始まり権利取得活動、紛争処理、契約管理、発明補償、特許教育に至る知財マンの行動指針が各種統計データとともに示される。

本書がマニュアルであり単なる専門書と異なるのは、あくまで企業戦略という視点から解説が加えられる点にある。 審査請求を一例として挙げると、審査請求の要否検討時期について出願時、外国出願検討時、国内優先出願時、審査請求期限直前等が挙げられ、なぜそのタイミングで審査請求要否を検討すべきなのかまで説明がなされる。 これは実務活動をしていれば当然に行き着く帰結かもしれないが、これまでマニュアルとしてこのようなノウハウを開示した書はなかったのではないか。 我々は、種々特許制度の内容のみではなく、それをいかに有利に活用できるか、どうすれば実態に沿った利用ができるか、という点に興味がある。本書はまさにこの疑問に答えたマニュアルとなっている。 他にも代理人活用における行動指針などが日本企業の代理人活用状況データとともに解き明かされる。

第二部では、秘密情報やノウハウの保護に始まり、特許権利化における手続き上の対策が解説される。 さらに、共同開発や実施契約など、頭の痛い問題や他者特許のつぶし方、特許事務所の選び方といった誰も教えてくれないノウハウが惜しげもなく開示される。 共通するノウハウはあれど、さらに各社独自の考えを加えたい場面もあろう。そのためのA4バインダー形式なのだ。各社資料を追加して頂きたい。

第三部では知財部門の域を超えて開発における知財情報の活用法が詳細に述べられる。

特許調査技法やパテントマップ作成は知財担当のみに求められる能力ではなく、開発部隊にこそ必要であって、これに基づく筋のよいテーマを見つけるためには知財情報をいかに活用すべきか、そのノウハウが語られる。 さらに、強い特許明細書の前提たる発明提案書についても新たな提案がなされる。 発明提案書を起点として始まる権利取得業務において、技術者と知財担当の役割分担はいかにあるべきか、従来の問題点を指摘する一文一文に深く首肯させられること請負である。

以上、知財担当者に求められる業務ノウハウがぎっしり納まった本書を自信をもってお勧めする。 なお、ここで紹介した新刊書はサンプルを協会事務所に陳列しているので、ぜひとも一度手にとってご確認頂きたい。

(紹介者 会誌広報委員 大野義也)

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