新刊書紹介

新刊書紹介

英和対訳 アメリカ著作権法とその実務

編著 エリック・J・シュワルツ 著
高林龍 監修 安藤和宏 今村哲也 訳
出版元 雄松堂出版 B5版 406p
発行年月日・価格 2004年12月18日発行 定価18,900円(税別)

本書は、LexisNexis社刊行の「International Copyright Law & Practiceシリーズ」のアメリカ編を対訳したものである。原書は加除式書籍であり、序文によるとアメリカ著作権法の概況を詳細に解説した書として世界中の研究者、実務家に利用されている書籍であるらしい。

そもそも訳者が本書を対訳のターゲットとして選択したのは、今後の日米間における著作権取引の増加に伴い、米国著作権法の理解が急務と考えたことに端を発している。また、米国著作権法を学ぶ法科大学院生の研究素材としても最適であろうとの配慮にも基づく。

つまり言いたいことは、本書が米国著作権法を学ぶ上で基本ともなるであろう、米本国での基本書である、ということだ。例えてみれば日本の「特許法概説」(吉藤幸朔著)を外国の研究者向けに英訳したようなものといえよう。書籍のイメージとしては、パリ条約に関する基本書「注解パリ条約」(ボーデンハウゼン著)(弁理士試験を経験された方であれば一度は目にされたことがあるかもしれない)に近いと思っていただければ間違いないであろう。

内容としては、米国著作権法制度を各観点から解説したものであり、その項目は以下の通りである。

  • 第1章 序説
  • 第2章 著作権の対象
  • 第3章 保護期間
  • 第4章 権利の帰属形態と移転
  • 第5章 形式的手続
  • 第6章 外国著作物の保護
  • 第7章 モラル・ライツ
  • 第8章 侵害と救済
  • 第9章 その他(著作隣接権等)

以上の通り、本書では著作権法制度の詳細が網羅された内容となっている。

本書の価値をさらに押し上げているのは、序文にも指摘がある通り、引用判例、参照判例、そしてロー・レビューの多さである。各ページ平均してもおそらく1/3程度はこれら引用で埋められているのではないか。このような引用、参照は学問研究にはもちろん、実務においても関連判例や論文を知ることができる点で非常に有用なものとなろう。つまりは本書を起点としてハイパーテキストの如く有機的に情報が結合するのだ。

本書の翻訳対象となった原書は2003年1月15日現在の著作権法であり、コンピュータソフトウェア保護やオンライン・サービス・プロバイダーに関する問題など、最新の問題についても漏れなく解説が行われている。

以上、本書の概要を簡単にご紹介したが、本書は端から通読する類の書ではないと思う。むしろ、生じた疑問に対して辞書的に活用する利用法が最適であろう。かかる意味で手元に常備しておきたい書であることは疑いない。

(紹介者 会誌広報委員 大野義也)

新刊書紹介

知的財産マネジメントの真髄:理論と実践

編著 京本 直樹 編著
出版元 神鋼リサーチ A5判 308p
発行年月日・価格 2004年12月15日発行 4,500円(税別)

本書は、平成15年度MOT教材開発ブログラムの成果として東京工業大学などが開発した教材「R&D戦略と知的財産戦略」をさらに充実させたものである。

教材として利用することを目的としていたこともあり、非常に多くのデータが紹介されている。これが本書の最大の特徴である。

また、東京工業大学では国内の有力企業ならびに知的財産マネジメントで先進的な活動を展開しているとされる企業44社に対しアンケート調査を行っており、これにより明らかとなった各社の知的財産活動の実態が本書に纏められている。

これらの素材を住友重機械工業、富士ゼロックス、オムロン、オリンパス、富士通、住友化学などで知財業務経験を積んだ執筆者陣が解説することにより、学生から実務者まで多くの人に役立つ書籍となっている。特に、企業において知財教育を担当する者にとっては各種データと実例を交えた嬉しい1冊ではなかろうか。

次に、本書の具体的な内容について、紹介したい。

本書は、以下のような6章構成となっている。

  • 第1章 「知的財産の戦略的マネジメント」
  • 第2章 「知的財産活用のマネジメント」
  • 第3章 「知的財産のリスクマネジメント」
  • 第4章 「職務発明のマネジメント」
  • 第5章 「知的財産の価値評価と情報開示」
  • 第6章 「産学連携と知的財産」

第1章では、ビジネスモデルが多様化する今日、「企業価値の最大化」に貢献するため、知的財産の防衛的活用から武器としての活用へ、さらには経営資源としての活用が重要性を増していることが説かれている。

第2章では、闇雲に資本投下するのではなく、事業としての将来像を持った開発、製品としての出口を想定した開発が重要であること、また、その開発成果を知的財産として権利化し活用することなど、R&D戦略と知的財産戦略の連携の重要性が説かれている。

第3章では、知的財産にまつわるリスクを認識し、コントロールすることの重要性について述べられており、第4章では、職務発明への企業の取り組みにつき過去の判決例をもとに解説が加えられている。職務発明の問題は取り組み方次第で、従業員からの訴訟提起というリスク要因となる一方、従業員へインセンティブアップとそれに基づく企業価値の向上という戦略的要因でもあり、重要な論点である。

そして、第5章では、これらの知財活動の成果を経済的価値としていかに評価するのかについて解説されており、第6章では、重要性を増す産学連携についても触れられている。

以上のとおり、本書では知的財産の創造、保護、活用のサイクルが企業の実例を交えて紹介されており、企業内研修などに大いに活用することができるのではないか。自社の事例、研修担当者の経験をプラスし独自の企業内研修などをプロデュースすることも可能だろう。

(紹介者 会誌広報委員 A.H)

新刊書紹介

新・知的財産権侵害物品の水際取締制度の解説[2004年改訂版]
-模倣品・海賊版の輸入はどうすれば阻止できるか-

編著 日本関税協会 知的財産情報センター
出版元 B5版 268p
発行年月日・価格 平成16年12月発行 3,000円(税別)

我国の知的財産権侵害物品の水際取締りに関する法制度が、TRIPS協定に基づき整備されたのは平成7年のことである。その後、政府が平成14年に発表した「知的財産戦略大綱」を受けて、平成15年、”育成者権を侵害する物品の輸入禁制品への追加”、

”特許権・実用新案権・意匠権及び育成者権についての輸入差止申立制度の導入”等を内容とする関税定率法の大幅な改正が行われ、水際取締りの一層の強化・充実が図られた。

さらに、平成16年の関税定率法の改正により、認定手続開始時に権利者・輸入者双方に相手方の氏名等を通知する制度が導入され、同年4月1日より施行されている。

本書は、TRIPS協定に基づき関税定率法等が整備された後の通達の改正等と、平成16年度の関税定率法等の改正を踏まえた、2003年刊に次ぐ2004年改訂版であり、税関における最新の知的財産権侵害物品の水際取締制度について解説されたものである。

本書は4章で構成されており、第1章「税関の組織と役割」、第2章「知的財産権侵害物品の水際取締り」、第3章「Q&A」、第4章「税関へ提出する書面の記入方法」及び資料1乃至7となっている。

本書の特徴は、水際取締りに関係する制度、手続き等について、Q&A形式で解説されていることにある。Q&Aの内容は、「知的財産権の概要」なる基本的なものから、「税関における知的財産権侵害物品の水際取締りの体制、状況」、「輸入差止申立て制度及び輸入差止情報提供制度」、「認定手続」、「申立担保制度」、「特許庁長官意見照会」、「認定手続取りやめと通関解放金」等にまで亘っている。以上のような難解な制度、手続き内容がQ&A形式で詳しく解説されていることにより、読み易く理解し易いものとなっている。

実務担当者は、必要に応じて選択的に利用することが可能であり、大変実用的である。

また、巻末資料として、TRIPS協定、関税定率法等、関係法令・通達の条文や、税関様式とその記載要領、さらに、近年の関税法等違反事件の概要も掲載されており、役立つ情報が随所に盛り込まれ、参考になると思われる。

本書は、知的財産権侵害物品の水際取締制度を理解し、有効に活用する上で有用な一冊である。

なお、平成16年5月、政府の知的財産戦略本部が決定した「知的財産推進計画2004」に沿って、平成17年も関係法令の改正が行われる予定である。

(会誌広報委員 T.K.)

新刊書紹介

座談会 不正競争防止法をめぐる実務的課題と理論

編著 牧野 利秋  監修 飯村 敏明 編集
出版元 青林書院 A5判 384p
発行年月日・価格 2005年1月25日発行 定価 3,300円(税別)

本書は、下記に紹介する知的財産権分野で経験豊かな方々が、一同に会して、不正競争防止法をめぐる論点について、さまざまな観点から、忌憚のない意見を交換した座談会の記録である。

その内容は、第I章の「はじめに」からはじまり、第II章の「2条1項1号(周知表示)関係」では商品表示性の問題点について、第III章の「2条1項3号(形態模倣)関係」では商品形態の問題点と請求人適格の問題点、第IV章の「営業秘密に関連する問題点」では営業秘密の保護要件の中の「管理性」「取得」などに絞り込んで、意見が述べられている。そして、第V章の「品質誤認表示に関連する問題」、第VI章の「損害論」、第VII章の「今後の展望」と議論が続いている。さらに加えると、参加者の方々の熱心な議論と貴重な意見、さらに不正競争の今日的な状況が良く反映された論議を伺うことができる。

以上のように、本書は貴重な書籍である為、知的財産に携わる方であれば、精読すべきであろう。

【参加者(順不同、所属・肩書は座談会当時)】大野聖二(弁護士 大野総合法律事務所)/尾崎英男(弁護士 大場・尾崎・嶋末法律事務所)/片山英二(弁護士 阿部・井窪・片山法律事務所)/寒河江孝允(弁護士 寒河江・矢野法律事務所)/嶋末和秀(弁護士 大場・尾崎・嶋末法律事務所)/島田康男(弁護士 島田法律特許事務所)/末吉亙(弁護士 森・濱田松本法律事務所)/芹田幸子(弁護士)/滝井朋子(弁護士)/田中成志(弁護士 青木・関根・田中法律事務所)/中島和雄(弁護士 中島法律事務所)/中田朋子(弁護士 北星法律事務所)/牧野利秋(弁護士 ユアサハラ法律特許事務所)/松尾和子(弁護士 中村合同特許法律事務所)/松村信夫(弁護士 松村信夫法律事務所)/松本直樹(弁護士 松本法律事務所)/美勢克彦(弁護士 松本・美勢・秋山法律特許事務所)/光石俊郎(弁護士 光石法律特許事務所)/宮川美津子(弁護士 TMI総合法律事務所)/三山峻司(弁護士 三山峻司法律事務所)/毛利峰子(弁護士 ユアサハラ法律特許事務所)/安江邦治(弁護士 安江法律事務所)/吉田和彦(弁護士 中村合同特許法律事務所)/吉原省三(弁護士 吉原特許法律事務所)/青木孝之(東京地方裁判所判事補)/飯村敏明(東京地方裁判所判事)/今井弘晃(東京地方裁判所判事補)/上田洋幸(東京地方裁判所判事補)/榎戸道也(東京地方裁判所判事)/大須賀寛之(東京地方裁判所判事補)/神谷厚毅(東京地方裁判所判事補)/佐野信(東京地方裁判所判事補)/東海林保(東京地方裁判所判事)/瀬戸さやか(東京地方裁判所判事補)/髙部眞規子(東京地方裁判所判事)/永井紀昭(東京地方裁判所長判事)/松岡千帆(東京地方裁判所判事補)/三村量一(東京地方裁判所判事)/宮崎拓也(東京地方裁判所判事補)/吉川泉(東京地方裁判所判事補)/君嶋祐子(慶應義塾大学法学部助教授)/高林龍(早稲田大学大学院法務研究科教授)/土肥一史(一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授)

(紹介者 会誌広報委員 佐々木通孝)

新刊書紹介

米国特許実務マニュアル
-判例とキーワードにみる米国特許の重要ポイント-

編著 小西恵 著
出版元 工業調査会 A5版 256p
発行年月日・価格 2004年12月25日発行 定価 2,500円(税別)

本書は、米国特許制度を数多くの図解入りで、なおかつ平易な文章で詳述した良書である。

ご存知の通り、米国特許制度は世界にも類のない特殊な制度となっている。先発明主義をはじめ、ベストモード開示要件、情報開示義務、ヒルマードクトリンなど、数えればきりがない。

しかし、米国訴訟多発の現状を踏まえれば、我々企業知財担当者は(時として理解に苦しむ)これらの制度から逃げるわけにはいかない。何とかして米国特許制度を短期間で理解してしまうことはできないものか。頭の痛い問題である。何を隠そう、私自身過去に米国特許法の勉強会など開催し、世にある解説本を輪読などした経験がある。しかし、はたせるかな、全くと言ってよいほどに身についていないのだ。その原因はなぜか、つまるところ1つの事実に突き当たる。米国法体系、つまりは米国人の法律の考え方を理解できていないのだ。根本を理解せぬまま特許制度の枝葉末節を追い求めたところでその場限りの知識は左の耳から湯気の如く立消えよう。本書はこのような私の知識の穴を見事に埋めてくれた。

本書では、米国特許各制度についてその制度趣旨と米国法体系における位置付けが詳細に語られている。例えばベストモード要件は衡平法上の考えに由来することが示唆される。このような指摘は、各制度趣旨を越えて米国法体系を司る根本的な考え方を理解する上で非常に有益である。筆者が米国駐在中に相当深く米国法、ひいては米国人の考え方を学ばれた賜物である。

本書はまず第1章にて米国特許制度のストラクチャーが解説される。具体的には米国憲法と連邦法の関係に始まり、判例法の意義や特許付与手続きフロー、裁判制度が大局的に述べられ、読者に米国特許制度の理解に不可欠な根幹知識を教えてくれる。第2章では新規性、非自明性等の実体的特許要件が、続く第3章では実施可能要件やベストモード要件といったいわゆる形式的特許要件が解説される。いずれも根拠となる判例と用いられるテストが具体的に解説されており、実務知識の習熟にもってこいである。

第4章では仮出願や継続出願といった特殊な特許出願制度が、第5章ではIDSや限定要求など、出願後の手続きが解説され、続く第6章では特許後の手続きとして再発行、再審査制度が解説される。

次いで第7章ではディスカバリーとその例外としてのアトーニー・クライアント守秘特権が、1章を割いてその具体的適用対象の検証とともに詳述され、最後、第8章では侵害訴訟におけるクレーム解釈手法が、均等論、ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームの各観点から詳細に解説される。

読み終えて、小難しい米国諸特許制度をよくぞここまで平易に、取っ付き易く解説してくれたものだとある種感動を覚える。難しい制度を難しく解説することよりも、簡単に説明することこそ骨の折れる作業だったはずで、この試みに成果を収めた筆者に拍手を送りたい。

知財管理誌読者諸氏の中でも特に米国法初学者に、または米国法に少し距離感を感じる方に是非ともこの書をお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 大野義也)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.