新刊書紹介

新刊書紹介

はじめて読む特許の本

編著 井上 勝雄 著
出版元 工業調査会 A5判 208P
発行年月日・価格 2005年3月1日発行 2,200円(税別)

平成14年12月、わが国産業の国際競争力の強化のために知的財産基本法が制定されたことを契機に、知的財産に関する国民的関心が大きく高まっている。今まで特許とは企業の知財部員など限られた世界の話という意識もあったが、今日では研究開発部門の技術者のみならず営業、企画等々通常のビジネスマンにとっても、知的財産についての用語だけでなく、その基本的な知識を持つことが求められている。

本書は、弁理士等の知財の専門家ではなく、企業の研究開発部門に在籍経験を持ち、その立場で知的財産権と関わった筆者が、主に特許について初めて接する方でも理解できるように執筆した著書である。以下に章立てに沿って内容を紹介する。

第1章、第2章にて知的財産権、発明と特許についてのポイントを図表豊富に、またところどころ研究開発技術者の観点に立って例を引きながら平易な言葉で説明している。

第3章〜第5章では実際の技術者が発明から出願書類を作成するまでのプロセス及び出願から登録に至るプロセスさらに権利の戦略的活用についてを筆者の経験に基づき、技術者が「知財担当者らとの円滑な二人三脚の作業が出来る範囲」(著書引用)の知識について順を追って説明しており、大変読みやすい。とくに、身近にある携帯電話インタフェースについての事例の説明は、当時の担当者であった筆者自らが経験に基づき説明しておりユニークであるといえよう。

また、第6章では職務発明について最近の訴訟について紹介し、第7章で国の知的財産政策について概観してまとめている。

読後感としては、初心者向けに執筆された意図としてところどころ物足りない箇所は存在するものの、これから知的財産について知ろうと言う者には、概ね網羅された良い著書と感じた。

最後に、前書きに記載された著者が想定している読者イメージを以下に引用する。該当される方は一読してみては如何であろうか。

  1. 知的財産および特に特許に関心のある企業の方で、とりわけ、はじめて知的財産の本を読みたいと考えている方
  2. いくつか特許関係の本を読んだが、よく理解できないと感じている方
  3. 仕事の関係から特許出願を控えていて、すぐに特許について知りたいと考えている方
  4. 知的財産の全体像を理解したいと考えている方
  5. これから大学で知的財産について学ぼうとしている学生

(紹介者 会誌公報委員 T.M.)

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解説 特許法―弁理士本試験合格を目指して―

編著 弁理士 江口 裕之 著
出版元 財団法人経済産業調査会 A5判 627p
発行年月日・価格 2005年3月22日発行 定価6000円(税別)

内容の濃い本である。

著者の江口弁理士は、私が当協会研修委員をしていた折、2001年度研修委員会合同委員会で副委員長として退任の挨拶をされたことを覚えている。「私は、引き続き講師として協会研修に携わります。」とのことだった。その後、著者の講義について「人を引きつける話し方、興味深い内容に講義中はしーんと静まり返る。協会研修の素晴らしい講師のお一人である。」との評判が、研修委員を続けた私の耳に入ってきた。江口弁理士が特許法についての本を執筆されたとのことで、早速、拝読させていただいた。

本の目次を以下に示す。

  • 序章
  • 第1章 特許法の法目的
  • 第2章 特許要件
  • 第3章 特許出願から特許権発生までの手続き
  • 第4章 特許権発生前の保護
  • 第5章 特許権
  • 第6章 特許権の存続期間及び延長登録制度
  • 第7章 特許発明の技術的範囲
  • 第8章 特許権の侵害
  • 第9章 特許権の共有
  • 第10章 実施権
  • 第11章 審判制度
  • 第12章 特許法における行政処分に対する不服申立
  • 第13章 再審制度
  • 第14章 パリ条約に基づく優先権制度
  • 第15章 特許協力条約に基づく国際出願の特例
  • 第16章 総則

内容については、著者が本書の前書で「特許法の専門書は難解なものが多く、特許の実務家を目指す者が平易に、しかも、かなり本質的なレベルまで特許法の理解を深めることができるものは少ないように思われる。そこで理科系の人間も含め特許の実務家を目指す者が容易に特許法の内容及び実務上の重要点を理解でき、さらに、弁理士受験生が弁理士本試験レベルの知識を十分に習得できるようにすることを目的として本書を執筆した。」と記されるとおり、実務家が高いレベルの知識を得ることを目的とされる。最後まで読み終えたところ、随所に目的に対する配慮が窺えた。

章の最初に、学習の指針、法目的が示され、読者の理解を深めるために図を多用した詳しく平易な文章による説明があり、最後にまとめが示される。要所に「実務の話」「判例チェック」などが挿入される。特許法をできるだけ平易に解説するスタイルの本で法解釈論ではないので、特に理科系出身の実務家が特許法の知識及び理解を深め易いと思える。理科系出身の著者ならではの気配り、心遣いを大変ありがたく感じた。

著者は、前書において「本書はかなり重厚な内容となっているが、特許実務家の方には、特許法の内容を確認、或いは理解する上での辞書代わりとして、また、弁理士を目指す方には、弁理士本試験合格レベルまで特許法の理解を高めるための書籍としてご活用頂ければ幸いである。」と結ばれるが、辞書代わりというよりは、実務書として使用すべき本であると感じた。

(紹介者 会誌広報委員 山内拓)

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