新刊書紹介

新刊書紹介

企業人・大学人のための知的財産権入門―特許法を中心に―

編著 廣瀬 隆行 著
出版元 東京化学同人 A5判 204p
発行年月日・価格 2005年6月20日発行 定価2500円(税別)

本書は、内容簡潔に無駄がなく纏められ、入門書として読み易い。

通常、入門書には、著者の得手不得手による分野別の膨らみ縮小が加えられるが、本書にはそれが微塵も感じられく実務に必要なことが簡潔に纏められており、解りやすい順序に構成されている。

まえがきにおいて廣瀬先生は「知的財産権法に関する書物が多数出版されています。しかしながら、その多くは法学者によって執筆されたもので、一般の人にとっては難解で何が大切か理解しにくい内容となっています。また、法学者は法律的事項に精通していますが、多くの場合、自ら出願書類を書く機会がないのはもちろん、公報すらほとんど読むことはありません。よって、実際に知的財産権を活用する人にとって何が大切か、知っておくのが望ましいことは何か、こういったことをきちんと説明した書物は少ないのが現状です。」と記載されている。

そのメッセージ通り、実務の解説に入る前の“第1章 知的財産法を学ぶために”にて、知的財産関連法のみならず憲法などの一般法、条約、判例に加え、法律用語の解説があり、知財実務に必要な法知識の基礎が示される。

特許は技術的思想の創作であり、明細書は技術文書としての役割を果たすがゆえに、知的財産の実務者は理系出身が多いのが実情である。

これから実務を始める理系の人に対して、法学者の詳しすぎる法解説は混乱が生じるおそれがあり、かといって実務のベテランが、自分が得意とする実務をこと細かに説明した本は入門書として要点がつかみにくい。このことを念頭に入れられた内容である。

要点のつかみやすさが考慮され、入門書として必要な基礎的な法知識が最初にきちんと説明されて、その後“実際に特許出願しようとした場合どうすればよいのか”、“特許請求の範囲はどのように書けばよいか”、“特許出願の費用はどの程度なのか”など、実際の知財現場で特許の実務を行うに必要な説明に移る。

本の目次を以下に示す。

  • 第1章 知的財産権法を学ぶために
  • 第2章 特許権を取得する
  • 第3章 特許公報の読み方、出願書類の書き方
  • 第4章 特許の利用
  • 第5章 特許侵害訴訟
  • 第6章 外国出願
  • 第7章 知的財産権法

まえがきにおける「知的財産を扱う現場で必要となる基本的な考え方と具体的知識を、その人たちが理解しやすい表現で、わかりやすく解説した本があってもよいのではないか」の言葉通りの簡潔な入門書を高い完成度で著された広瀬先生にお礼を申し上げたい。

購入しやすい価格であり、実務を始めて間もない企業、大学の知財の入門者に読んでいただきたいし、経験をつんだ実務者も基礎知識の穴を埋めるために読む価値があると思える。また、特許出願の発明者たる研究者、技術者を含め、知的財産に興味を持つ人にも是非お勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 山内拓)

新刊書紹介

英和対訳アメリカ商標法とその実務

編著 イーサン・ホーウィッツ著
荒井俊行    日本語訳
出版元 (株)雄松堂出版 B5判 357p
発行年月日・価格 2005年6月13日発行 18900円(税込)

知的財産関係の書籍が飽食状態になっている今日この頃である。かつては、ほんの少数の知財書だけしかなく、ある意味でこれらの書を座右にしておけば事足りたのであった。

米国の1980年代のプロパテント政策の発動以来、知的財産に関する情報をより求められるようになってきているのも事実である。

現在は数多ある知財書の中で、自らが求める知財情報を明確に意識しなければならない時代である。どのような知財分野の情報を欲するのか、どの程度の掘り下げた情報を欲するのか、ハウツー書か実務書か理論書か?

本書は商標のプロ向けの書である。例えば知財協のCコース「商標」を修了された方以上のレベルの読者層を想定した書である。商標の初心者におすすめできるようなしろものではない。しかし商標のプロには、よりそのプロ度を高めることができる書である。

特許については、米国・欧州・アジアの情報も多く、各国の「特許の保護対象」「審査基準」「特許発明の保護範囲」の違いなどが比較言及され、多数国に出願する場合の「クレーム」の記載方法についても気を使うというのが常識になっている。特許の各問題が、各国の産業政策と強く結びついているゆえに、その各国での違いを認識するのも容易である。

商標については、模倣品対策の必要から情報の多い中国商標情報に比べ、この知財書飽食の時代にあっても、欧米の商標に関する情報は少ない。商標はマークを中心とする知的財産にあるだけに外見上あきらかであり、素人目にも簡単なようにみえるのである。商標についてまず素人目によく誤解される点は、商標はマークと商品又は役務が結びついたものであるということを知らないことである。従って、自社の商標と他社の商標が同じであることに対し、あれは侵害ではないかという意見がでてくる。また、商標というものが各国の地域文化に根ざしたものであり、例えば商標の一般的な拒絶理由である「ありふれた名称、図形」であっても必ずしも一致しない。さらに商標の「同一・類似」の解釈についても各国で異なっている。また、日本の商標制度にないような「コンセント制度」「権利不要求制度」といったものもある。商標の各国の違いは相当なものである。

本書は米国商標法についての体系的な実務書のかたちをとっているが、理論書的な側面も強い。米国商標法が連邦法と州法の二重構造をもち、さらに判例法に対しても十分に配慮しなければならない。その結果米国での商標の保護をうけるためには連邦法による登録を受けている場合と、連邦未登録であってもコモンロー上の保護を受けえる場合ある。日本でいえば商標法分野と不正競争防止法分野が統合されたようなものである。

ブランド力強化の叫ばれる今日、各国の商標制度に精通することは、より一層求められるものである。

本書を一読した実感として、同じことを繰り返すようではあるが、まさに商標のプロ向けの書である。特に米国商標を担当するもの、米国商標を研究するものには必携の書である。また、他国法を知ることにより、より自国法を知りえることにもなると思う。本書が出版された意義は大きい。

(紹介者 会誌広報委員 M.N)

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