新刊書紹介

新刊書紹介

要約 著作権判例212

編著 本橋光一郎・本橋美智子 編著
出版元 学陽書房 A5判 286p
発行年月日・価格 2005年6月17日発行 3,200円(税別)

いうまでもなく、法を知るにあたって、判例を無視することはできない。特に、知的財産法のようなビジネスと深い関わりを持つ法分野においては、実際に生じた事件において法がどのように発現してきたかということを、判例を通じて学ぶことが必須である。しかし、知的財産法に関する裁判例は、その大半において事案が複雑であるがために、重厚長大なものとなりがちであり、忙しい日々にあってすべてに目を通すのは困難であるというのが、残念ながら現実であろう。かくして、裁判例の要旨をコンパクトにまとめた書籍に、大きな期待が寄せられることになるわけである。

著作権法の分野において、そのような役割を担う書籍として『著作権判例百選』がすでに一定の評価を獲得していることは、周知のことである。該書は、著作権に関する117の裁判例について、「事案の概要・判旨と、判旨ならびに関連する論点についての解説」を集めたものであるが、事案の概要よりも解説の方に重点がおかれていて、ある程度学習が進んでいないとその魅力を完全には活かしきれないという問題をはらむものであった。裁判例の要旨のみを集めた書籍に対する需要は、該書をもってしても、いまだ完全には満たされていなかったということができる。

そのような状況のもと、登場したのが本書である。本書は、2人の著者の手になるもので、『判例百選』の倍近い数の裁判例について、その概要を提供するものである。要約は、事案の概要と判旨、ならびに当該裁判例についての簡単なコメント(論点等の解説がなされており、これが読者の理解を助けてくれる。)からなり、1つの事件について原則として1頁、長くて2頁におさめられている。判例雑誌では19頁の長文であったファイル交換ソフトに関する判決が2頁にまとめられていることを知ったとき、読者はその有難さを実感するに違いない。かくして、本書を用いれば、著作権に関する判例の要点をさほどの時間をかけることなく掴むことができ、著作権法の全体像をうかがい知ることができる。

しかしながら、本書の効用は上記したような判例の要点をコンパクトにまとめたという点にとどまらない。すなわち、本書では、裁判例が論点ではなく、「出版」、「音楽」、「映画・舞台」、「美術」、「地図」、「写真」、「コンピュータ・プログラム」、「建築」、「肖像」という、著作物の利用場面、種類に応じて区分けされ、まとめられているのである。このことは、判例があくまで個別具体的な事件を通じて形成されてゆくものであることを考えるとき、大きな意味を持つ。読者は、論点を意識することなく事件と向き合うことで、実際の事件における法の発現形態を学ぶという判例学習の目的を達することができる。そうして、初学者にあっては、フィルタリングテストなどの技法が個々の裁判例においてどのように利用されているのかを無意識のうちに理解してゆくことができよう。一方、ある程度学習の進んだ読者にあっても、かつて学んだ論点が、本書で紹介されている裁判例において思わぬ形で姿を現すのを目の当たりにして、改めて判例学習の重要性に気付かされるのではないだろうか。初学者と実力者の双方にとって、意義深い1冊である。

(紹介者 会誌広報委員 J. I)

新刊書紹介

知的財産マネジメント 創造プロセスの経営管理ツール

編著 財団法人知的資産活用センター
新日本監査法人 監修
二村隆章 編著
出版元 商事法務 A5判 166p
発行年月日・価格 2005年7月1日発行 定価2400円(税別)

本書は、新日本監査法人代表社員、公認会計士、二村先生が企画されたものである。

先生は「企業の持っている知的財産に関する経営管理上の課題を抽出したうえで一般化し、これらの課題に対するソリューションについての経済的、財務的、資金的な議論を体系化することにより知的財産ビジネスを発展させたい」との主旨に基づき、知的資産活用センターで行なわれた研修会の成果を本書に纏められた。研修会には、わが国を代表する実務家・研究者である大津山秀樹氏((株)インテクストラ)、小林誠氏(NTTコミュニケーションズ(株))、山路銀一(三菱電機(株))、峯尾佳幸氏(三菱電機(株))、伊東克容氏(成蹊大学助教授)の方々が参加され本書に執筆されている。

本書は、企業経営戦略を知的財産権のみからでなく、「(体系化するには)知的財産にかかわる議論が優先的、支配的でその他の知的財産の存在を見落としてきた問題があると思われる。実際には、優良企業の持っている知的財産は権利だけでなく広汎なのである。」の理念に基づき知的財産マネジメントをとらえなおし、知的財産事業化シナリオ作りのために、知的財産を取り扱う実務担当者、経営者、管理者、知的財産の価値評価に関心を寄せるの方々に対して出版された。

本書の構成は以下のとおりである。

  • 第1章 企業経営における知的財産の重要性とエンティティ・ワイド・マネジメント
  • 第2章 知的財産概念の明確化と経済的特徴
  • 第3章 知的財産マネジメントの現状と課題
  • 第4章 知的財産事業化シナリオ作りのための基礎知識と技法

第1章で、広い視点の全社的知的財産管理の必要性(エンティティ・ワイド・マネジメント)が示され、第2章で、企業の持つ知的財産は知的財産権のみでなく総括的に管理すべきものであることが示され、知的財産の経済的特徴が述べられる。第3章で、製造業、サービス業に分けて、知的財産の成長過程の把握・分析、知財部門に求められる役割等が問いかけられ、第4章で経済的価値評価、事業評価の手法に移る。

中でも、第3章において、製造業を細かく分け、更にサービス業を加えての経営、事業戦略に応じてのマネジメントのあり方が、以下の手順でプロセスの解析がなされた後に具体的に示されておりわかりやすい。

「経営戦略;企業の経営者がどのように企業価値の創造をして行きたいか示す ⇒ 事業戦略;経営戦略を具体的な事業という形で実現するためにどのような事業をするか示す ⇒ 研究開発戦略;事業戦略を実現するために必要な新たな製品やサービスを創造するための方向を示す ⇒ 知的財産戦略;以上の各戦略それぞれとリンクした知的財産権の取得や権利維持を行なう方向を示す」

読者の属する企業・業種に当てはまる解説がされ、知財マネジメントを考えるのに大いに参考になると思える。

(紹介者 会誌広報委員 山内 拓)

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