新刊書紹介

新刊書紹介

判例に学ぶ特許実務教本

編著 三好秀和 監修
崎邦高久浩一郎・原裕子 著
出版元 日刊工業新聞社 A5判 252p
発行年月日・価格 2005年7月30日発行 2,400円(税別)

本書は、日常の特許実務という観点から選んだ判例をわかりやすく整理して紹介すると共に、特許実務能力の基礎づくりを目的としたテキストである。日常の特許実務において必要とされる知識が一通り修得できるよう構成されている。

一般に特許事件の判決文はボリュームが大きく難解であって、全体を熟読して多岐にわたる判例を完全把握することは困難であるが、本書は判例の法的見解の判示部分のみを中心に紹介することで要点が把握しやすいようにしている。

本書では、発明の産業上の利用性、新規性、進歩性、出願分割、特許発明の技術的範囲など、特許の主要カテゴリーごとに判例を分類して紹介しており、対応条文や解説などを併記することで、裁判所の考え方や条文解釈を把握しどのように実務を進めていくべきかを具体的に把握することにつながるものと思われる。

本書の内容を抜粋して紹介する。

第2章「発明の新規性」では、新規性判断や新規性喪失の例外規定の適用等について、時系列フローを用いながら判例を紹介している。

第3章「発明の進歩性」では、最高裁リパーゼ判決をはじめ数多くの判例を取り上げ、発明の進歩性判断を多方面から把握できるよう紹介している。

第7章「明細書の補正」では、補正の可能な範囲および限定的減縮に関して、具体的な適用事例を用いながら詳しく紹介している。

第8章「出願の分割」では、侵害訴訟時の分割の適法性に関する判例紹介をしており、出願分割の戦略的活用についても述べられている。

第11章「特許無効審判と訂正」では、特許有効性や訂正要件について論ぜられた審決取消の判例を紹介している。

第12章「実用新案」では、実用新案技術評価の取消訴訟や権利行使上の注意義務に関する判例を紹介している。

第13章「特許発明の技術的範囲」では、均等論最高裁判決で有名なボールスプライン軸受事件の地裁、高裁、最高裁それぞれの判断に関する紹介や、間接侵害、利用発明、消尽などが争点となった侵害訴訟関連の判例を中心にした紹介をしている。

特許実務は、法令を学習した上で、実際に相当数の事案をこなし経験を積み重ねて修得していくのが一般的かと思われるが、実際には、想定されるあらゆるケースを実務で経験できる人は稀ではなかろうか。また、あらゆるケースを実務で経験できたとしてもそれに要する時間は相当なものであろう。本書は、現時点で想定されるあらゆるケースの実務を、多岐に渡り短時間で学ぶことができる点で、実務経験が少なく実務能力の基礎づくりが必要な方は勿論、相当の実務経験を積んだ上で実務能力の更なるレベルアップを図りたい方にとっても有用と思われる。また、裁判所での判断を理解しておくことで、訴訟に耐えられる特許権を創出するにはどうすべきかを考える上でも有用と思われる。全ての特許実務担当者に一読をお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員会 T.K)

新刊書紹介

知的財産 管理&戦略ハンドブック

編著 杉光一成、加藤浩一郎 編著
出版元 (社)発明協会 A5判 391p
発行年月日・価格 2005年9月16日発行 2,800円(税別)

知的財産に関する書籍は数多く出版されているが、制度の一般的な説明に終始する書籍が多く、一方、実践的な知的財産の管理や戦略に関しては、一部の書籍・雑誌などに大量に出願を行う大企業の知的財産部が行っている管理や戦略が取り上げられているだけであり、出願件数の少ない中小企業や大学等に向けたものはなかった。

このような中にあって、本書は、主として人材・経費の観点から知的財産部を置いていない、あるいは小規模な組織しか持たない中小・ベンチャー企業や大学・TLO等の立場から、知的財産の管理や戦略において外部の弁理士等の知的財産権の専門家をどのように活用するかという視点で書かれたものであり、各企業が遭遇する機会が多いと思われる実践的なケーススタディとして記載されている。執筆者は、第一線で活躍する弁理士・弁護士等の実務家36名である。

本書の構成を紹介する。

本書には、全部で92テーマがケーススタディとして記載されているが、それらが基礎編・実践編・戦略編の3部構成に分類されている。

第1部「基礎編 知的財産法の知識」では、特許法等の基礎や出願から登録までの流れ、外国特許制度、特許調査等、知的財産に関する一通りの知識が得られるように構成されている。

第2部「実践編 知的財産権管理」は、知財管理法務と紛争管理に分かれる。知財管理法務では、情報管理や契約書のチェックポイントの他、一般的な時系列に沿って、先行技術調査の必要性、明細書等のドラフトのチェック、拒絶理由通知への対応等が、また紛争管理では、侵害警告を受けた場合や訴訟を提起された場合の対応等がテーマ設定されており、企業内における知的財産の管理について学ぶことができるように構成されている。

第3部「戦略編 知的財産戦略」では、パテントマップ、ブランド戦略、特許権の価値評価等の戦略法務、特許事務所の選択や外国出願等の出願戦略、知的財産の証券化や侵害物品の輸入差止等の事業戦略についてテーマ設定されており、知的財産の戦略的活用について学ぶことができるように構成されている。

前述したように、本書はケーススタディ別に記載されているため、基本的に調べたい事項をテーマ・索引から探して読むという方法がオーソドックスな利用方法であろう。実践的なテーマが多く、本書が対象とする知的財産部を持たない中小・ベンチャー企業の担当者や、実務経験の浅い読者にとっては大いに参考になると思われる。また、本書のケーススタディは多岐にわたっているため、既に実務経験を積んだ読者にも参考になる点が必ずあるものと思われる。是非、手元に置いておきたい一冊である。

なお、本書は、(社)発明協会からの新刊書であるが、2002年11月にソフトバンクパブリッシング(株)から発行された「知的財産 管理&戦略ハンドブック」に、その後の法改正や知的財産をめぐる状況変化を反映して、版を改めたものである。

(紹介者 会誌広報委員 H.S)

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