新刊書紹介

新刊書紹介

不正競争防止法による知財防衛戦略

編著 奈須野太 著
出版元 日本経済新聞社 四六判 299p
発行年月日・価格 2005年11月16日発行 2,200円(税別)

平成17年6月に改正され、同年11月より施行された不正競争防止法は、営業秘密に関する刑事的規律が増強されたこともあり、従前の15箇条から22箇条へと大幅にボリュームアップしたものであるが、それでもなお他の知的財産法に比すればコンパクトな印象を与えるものといえよう。しかしながら、このコンパクトな不正競争防止法が、今日、ブランド・デザイン・営業秘密といった企業にとっての重要な知的資産の保護防衛をはかっていくうえで大きな役割を担いうることについてはもはや疑問の余地はあるまい。本書は、この不正競争防止法を用いて、企業がその知的資産を保護防衛していくにあたって留意されるべき点について解説するものである。

本書では、不正競争防止法2条1項に列挙されているもののうち、15号に定められているものを除く14の不正競争行為が、「ニセモノからブランド価値を守る」(第2章)、「コピー商品からデザインを守る」(第3章)、「産業スパイからノウハウ、顧客名簿を守る」(第4章)、「競争秩序を乱すものを排除する」(第5章)という章立てのもと分類されている。第2章では(著名な)商品等表示の冒用(1号・2号)について、第3章では商品形態の模倣(3号)について、第4章では営業秘密の不正取得(4号)・不正開示(7号)・二次関与(5号・6号・8号・9号)について、第5章では誤認表示(13号)、信用毀損(14条)、ドメインネームの不正利用(12号)、コピーコントロール・アクセスコントロールの回避(10号・11号)について、それぞれ対応する刑事的規律(これがない場合もあるが。)とともに解説が加えられている。

本書の特徴は、著者自身が表明する通り、方の解釈というよりもむしろ、知的資産の保護防衛を担当する企業の実務者によって防衛策の理解がなされることを目的としているところである。そのため、記述は全体的に平易であり、図表が多く利用されている。また、「譲渡」などの文言に該当する場合、周知性・著名性が認められた場合などの事例が多く紹介されており、日々発生するさまざまな態様の事件と向き合う上で参考となるところが大きいと思われる。特に図表の効果は無視することができず、本書を読解してゆくにあたって助となるところ大であると、紹介者は感じた。

また、内容面においても、類書では法解釈に重点がおかれるがゆえに記述が薄くなりがちな刑事規定について、民事規定と同様といっても差し支えないくらい厚く解説されている。実際に企業が自社の知的資産を防衛するにあたっては、民事訴訟を提起してはいけない相手方が現われることもあり、民事的規律以上に刑事的規律の活用が必要となる場合もあるところでるので、この点についての解説の厚さは有用であろう。

なお、本書の序章は、冒頭に述べた平成17年改正に関する解説となっているが、著者は当該改正法案の立案担当者であり、立法者サイドからのコンパクトな改正解説が展開されている。改正に対する立法者の意図を伺い知ることのできる序章の存在のみをとってみても、本書の有用性を指摘することは許されよう。

(紹介者 会誌広報委員  石井純一)

新刊書紹介

産業財産権者の権利行使の制限

編著 村林 隆一 著
出版元 経済産業調査会 A5判 179P
発行年月日・価格 2005年11月7日発行 2,400円(税別)

本書は、(1)特許審査の迅速化などのための特許法の一部を改正する法律と、(2)裁判所法等の一部を改正する法律において議論され新たに規定された特許法第104条の3(特許権等の権利行使の制限)について、著者の50年の経験に基き、法改正の趣旨、判例・学説などの考察を加えて解説し、最後に私見を述べているものである。

本書の紹介の前に、昭和30年に弁護士登録をし、平成17年3月をもって弁護士生活50年を迎えられた著者について簡単に紹介したいと思う。著者は、知的財産の呼称がなく工業所有権といわれていた時代から特許弁護士として活躍されている。知財事件としては昭和43(ワ)3288に始まり多数の事件を取り扱っておられる。また、「知財弁護士50年」(平成17年3月31日発行、経済産業調査会近畿本部、非売品)の記載によると著書が13冊、執筆論文245本あることが記載されている。

著者は現在でも侵害事件を取り扱う場合に特許明細書を自ら読み、公知事実(公知資料)について対応を検討されているという。侵害訴訟における公知事実についての裁判所の対応を一番良く知っておられると思われる著者が、50年間の裁判所の対応を説明しながら、今回の改正の問題点と思われる解説をされている。

本書の主な目次を紹介すると、第2章:特許権等の権利行使の制限の規定、第3章:手続法的解釈、第4章:実体法的取組、第5章:問題点、第6章:所論 キルビ−事件、第7章:従来の最高裁判決、第8章:立法の動き、第9章:第104条の3の立法経過、第10章:第104条の3についての学者の意見、第11章:私見となっている。

内容を簡単に紹介すると、まず第2章で特許法104条の3についての裁判官の発言を紹介している。第3章で、大審院大正6年4月23日判決により「特許は無効審判の審判が確定しない以上有効である。」ことの説明、第4章では、特許制度の観点からは特許庁が特許を与えた以上、侵害訴訟について裁判所がこれを制限することは許されないことになるが、かかる硬直的な見解を採用すると具体的な事案について不合理な結果を招くことになり、裁判所はその運用において様々工夫をしてきたことを具体的に判例で紹介している。第6章では、キルビ−事件の詳細について解説をしている。第9章で立法過程における意見として、立法関与者の意見の意見を解説している。

第10章では、キルビ−判決、これまでの最高裁判決、立法過程の意見等を踏まえて著者の私見を述べている。

侵害訴訟において、公知事実について裁判所がどのように対応し権利行使の制限を運用してきたか、および今回の法改正を理解するためには過去の判例・論文を読むことは重要なことであるが、いざ調べようとすると膨大な資料を集めることになり時間がかかる。本書では最低限必要な判例は資料として添付されており、著者の解説もあるので短時間で理解するのに非常に便利である。

侵害訴訟では、権利行使の制限について理解しておくことは知財・法務部員などの知財関係者として非常に重要なことであるので、一読されることをお勧めする。

(紹介者 会誌広報委員 T.Y)

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