新刊書紹介

新刊書紹介

商標法(第1次改訂版)

編著 著者 平尾 正樹
出版元 学陽書房 A5判 605p
発行年月日・価格 2006年3月24日発行 6,300円(税別)

初学者に最適な商標法の体系書として本書を紹介いたします。その理由は、本書には下記の3つの特徴があるためです。尚、本書は、2002年9月26日に初版された同名の書籍の改訂版であります。

  1. 民法等の基本法の理論から説き起こして説明している点。
  2. 多くの判決、審決を、その事件に関する商標(文字、図形等)と共に紹介し、解かり易く解説している点。
  3. 論点について、田村先生の「商標法概説」、網野先生の「商標」に記載の説を簡便に把握し得る点。

本書の筆者は、基本法の理解がなければ、商標法も理解しにくいと述べています。それは、憲法を頂点として民法、刑法等の基本法があり、それから無数の法律に枝分かれし、その枝の一つに商標法があるためです。本書には、随所に民法、民事訴訟法等の解説がされています。特に侵害に対する民事的救済の項では、総説として民法709条から説き起こし、関連する民法、民事訴訟法をわかり易く解説し、初学者にとって商標権の効力について理解が深まる叙述となっています。

次に、抽象的な理論だけを学んでも、真の理解に到達することは困難なため、多くの判決、審決を紹介し、解り易く解説しています。一例を挙げると、商標「初恋」と商標「First Love」の類否が争われた審決を紹介し、「「初恋」と「First Love」が相互交換的に頻繁に使用されているとはいえず、「First Love」から直ちに「初恋」の観念は想起しない。」と、その類否判断を短く、且つ解かり易く解説し、商標法上の観念類似について、どのように解釈され、運用されているか容易に理解できる記述となっています。

更に、はしがきを引用させて頂くと、「田村善之教授の「商標法概説」、弁理士の網野誠先生の「商標」から有益な示唆をうけました。」と記載されており、本文中にも引用されています。例えば、商標法4条1項6号の立法趣旨について、工業所有権法逐条解説より引用すると共に、前記2つの書籍からも引用し、複数の説を掲載しています。又、同法4条1項8号についての解説の項に、「反対、田村・概説219頁」、「同旨、田村・概説220頁」、「反対、網野・商標331頁」のように記載されています。即ち、本書に記載している説について、前記2つの書籍おいて同旨又は反対の説を唱えているかを示すと共に、その記載頁まで示してあります。これにより、前記2つの書籍を精読しなくとも、論点について如何なる説があるかを、簡便に把握することが可能になると思います。

商標法は特許法に比べると、論点が多く存在し、重要と思われる体系書も数冊存在するため、ある程度の理解に到達するまでには、時間と労力が必要となります。そのような状況を考慮すると、上述した特徴を持つ本書は、初学者にとって最適な体系書としてお勧めできます。

更に、追記すると、弁護士・弁理士として20年以上の実務経験を持たれている平尾先生が、実務家の観点から執筆されていることも、前記の2つ書籍と異なる特徴であるため、商標法を十分に理解されている方にとっても、有益な体系書でもあると云えます。

(紹介者 会誌広報委員 佐々木通孝)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.