新刊書紹介

新刊書紹介

化学特許の理論と実際

編著 佐伯とも子 吉住和之 著
出版元 朝倉書店 A5版 167p
発行年月日・価格 2006年4月25日発行 定価3200円(税別)

本年3月に発行した「知財管理」誌の臨時増刊号において、「吉野会長と業種担当理事・委員長会議メンバーとの意見交換」という特集記事を掲載したことをご記憶のことと思う。この特集記事の中で、知的財産協会 業種担当理事の方々に、各業界の知的財産の特徴や問題点などをご説明頂いたが、一口に知的財産権と言っても、各業界において、その状況が大きく異なっており、その戦略や実務上の対応など、業界それぞれの考え方があることを、再認識させられた方も多かったのではないだろうか?

このような背景にあって、企業に就職して知的財産部門、或いは研究開発部門に配属され、特許などの知的財産について学んでいこうとする場合に、どの入門書を手に取るべきか迷うことも少なくないだろう。特に医薬、化学、バイオといった技術分野と特許との関係は、一般の特許の入門書、専門書では説明のつかないことも散見される。こういった分野の知的財産に携わる方にとっては、一般の特許の入門書、専門書とは別に、分野に特化した知的財産に関する書籍は、知的財産を学ぶ上で、また実務を行っていく上で有用な一冊となると思われる。

本書は、そのタイトルからも明らかなように、化学分野に特化した内容になっており、いわゆる入門書的な内容から、実務上有用となる内容まで、化学分野特有の考え方を理解できるような構成となっており、上記の要望に応える書籍としてひとつの選択肢となる一冊といえよう。

本書の前半部分(第1章、第2章)は、知的財産とは何か、特許出願から登録、権利行使まで等の、一般的な知的財産の解説となっており、いわゆる入門書的な内容となっている。後半部分(第4章以降)では、化学分野に特化した知的財産の解説となっているが、前半部分と後半部分を結ぶ第3章として、化学物質とは何か、といった説明や、化学物質特有の専門用語の解説等、知的財産とは直接関係のない化学物質についての一般的な解説がなされているのが本書の特徴のひとつといえよう。

化学分野に特化した知的財産の解説部分である、第4章、第5章では、化学分野に特徴的ともいえる物質特許や用途特許を中心として、その特許要件について詳細に解説している。化学物質特許及び用途特許の新規性、進歩性の要件は、一般的な特許の新規性、進歩性の要件の解説だけでは、なかなか理解し難い部分も多いため、化学分野の知的財産実務に携わっている方にとっても、参考になる部分は少なくないと思われる。

さらに第6章、第7章においては、化学物質特許、用途特許の特許明細書の記載について、事例を挙げながら詳細に解説されており、知的財産部門だけではなく、研究開発部門で明細書をドラフトする立場の方々にとっても極めて有用な内容であると思われる。

以上のように、本書は、これから化学分野において、研究開発担当者、或いは知的財産担当者として知的財産を理解するための入門書として一読するに値する書籍であると同時に、現在、化学業界で知的財産実務に携わっている方にとって、その実務に参考となる内容をも盛り込んだ一冊といえるであろう。

(紹介者 会誌広報委員 S.I)

新刊書紹介

合衆国特許クレーム作成の実務
−審決・判例分析からみた明確化要件−

編著 アイラ・エイチ・ドナー 著
友野英三 翻訳
出版元 経済産業調査会 A5判 505p
発行年月日・価格 2006年5月20日発行 5,600円(税別)

特許明細書を作成する際に、同義・類義の用語のうち何れを用いるべきか、悩んだ経験を持つ知的財産担当者は、少なくないだろう。

本書は、このような悩みを解決してくれる、特許クレーム作成に関する幅広い知識習得のための実務書である。

欧米の多くの特許事務所でも教科書として必携されている「特許実務大系:法律・実務・手続(Patent Prosecution: Law, Practice and Procedure)第4版」の第10章(合衆国第35法典第112条第2パラグラフに規定される明確化要件)の翻訳本である本書は、合衆国特許弁護士である著者が10年以上にわたり蓄積してきた判例、審決例の分析の成果であり、実際に合衆国において裁判上、審査・審判上争われた事例を分析したものである。すなわち、実際に争われたクレームを具体的に挙げ、争点を明示し、地方裁判所、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)等の論理を提示した上で、分析・考察を行う形式で議論を進めるといった方式を用いて特許クレーム作成のポイントを明確化したものである。

実例でもあるため、終始臨場感をもって読み進めることができ、結果として、実務に直結するノウハウ、すなわち、実際のクレーム記載に「使える」用語と「使えない」用語を把握することができる点で、極めて実践的な実務書といえる。併せて、各事例に関連する判例も紹介されており、知識の応用にも役立つものと考えられる。

例えば、本書の主な内容を紹介すると、第4章「一般的クレーム文言と明確性要件について」では、特定の句(A、About等)等が多数取りあげられており、それら用語、句が与える影響が考察されているため、辞書を調べるだけでは得られない特許解釈上のポイントを掴むことができる。

第5章「明確性およびクレームに関連する特殊問題」では、クレームの前提部の解釈、別のクレームの構成要件の引用の問題等について延べられており、クレーム構成を検討する上で有用な知識を得ることができる。

第7章「第112条第2パラグラフと第6パラグラフとの関係」では、ミーンズ・プラス・ファンクション(機能付手段)のクレームを中心に述べられており、「means(手段)」という用語を用いた場合のクレーム解釈と明確化要件の基準を把握することができる。

第8章「第112条第2パラグラフに規定される明確性要件とRegards(〜であると考える)要件との関係」では、出願人が自己の発明であると考える主題が、権利範囲に如何なる影響を及ぼすかを知ることができる。

本書に提示されているような、争点ポイントを予め把握しておけば、冒頭で述べたような特許明細書作成時の判断が容易になり、特許クレーム作成能力は数段向上するものと考えられる。恐らく、本書を読み終えたあとには、これまで以上に深く特許明細書の検討をすることができるようになっているだろう。

特許クレーム解釈をめぐって、将来的に無用な紛争を回避するためにも、本書を活用して得た知識を用い、十分に吟味を重ねた出願を行いたいものである。

(紹介者 会誌広報委員 M.E.)

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