新刊書紹介

新刊書紹介

最新判例からみる商標法の実務

編著 小林十四雄、小谷武、西平幹夫
出版元 (株)青林書院  A5版  412p
発行年月日・価格 2006年8月発行   3,900円(税別)

商標の実務に携わる者にとって、判例を読み続けること、そして、判例を通して商標の本質、その実際の取扱いを学ぶことが、いかに重要であるかは誰もが認識していることであろう。

本書の特徴の1つは、3部構成にして、最後に座談会の様子を掲載していることである。
まず、第1部「最近の商標事件判例の傾向」では、最近の商標事件判例の骨格や基礎をその傾向として解説している。
次に、第2部「商標実務ゼミナール」においては、商標判例を7つのテーマで体系・分類化し、総論〈テーマの本質的議論〉と、各論〈最新の判決を体系的に研究〉に分けて解説している。

なお、第2部を構成する7つのテーマとは、

  1. 商標と識別性
  2. 商品と役務
  3. 商標の類似
  4. 公序良俗と不正の目的
  5. 商標権侵害と損害賠償
  6. 権利の濫用
  7. 並行輸入

である。

そして、第3部は「座談会 判決を見る三つの眼−弁護士・弁理士・企業の視点から−」という、独特の構成となっている。
特徴の2つめとしては、判例を研究して実務に役立つ工夫がなされていることである。
第2部の各論において、判決の内容に加え、その事件から導かれるテーマ、判決に対するコメントが詳述されており、これらを通して、商標の現代的問題点を指摘し、解決策を与えることで商標の正しい理解が得られるように構成されている。

また、取り上げた判決は、平成10年以来最近8年間の商標関係の事件を中心に、それ以前の重要な判決にも触れ、全体で194の判決となっている。これらを通して、商標の現代的課題や判例動向を読みとることができる。

特徴の3つめは、座談会である。第3部では、関心の深い3つのテーマ「商標としての使用」、「商標の類似」、「商標権の消尽」について、弁護士・弁理士・企業のそれぞれの立場から、徹底的に議論がなされ、専門的な意見、或いは実務上の観点からの意見等率直な発言から商標実務の諸相がうかがえるという非常に有益なものとなっている。商標の実務書として、座談会の様子が掲載されたことが斬新で非常に興味深い。

本書は、商標法を全体的に網羅したい人も、ある論点について選択的に利用したい人も、各々の要望にかなった活用が可能である。
実務担当者にとって、一読の価値のある一冊である。

(会誌広報委員 T.K.)

新刊書紹介

新・拒絶理由通知との対話

編著 株式会社エイバックズーム 編著
著者 稲葉慶和
出版元 A5版、374p
発行年月日・価格 2006年7月31日発行 3,800円(税込)

1989年に発行された「拒絶理由通知との対話」を実務に生かされた知財マンは数多くいることでしょう。かくいう私も、拒絶理由通知に対して思うように特許査定が得られず、苦労した経験を持っており、何度も本書を読み直した経験を持っています。

その「拒絶理由通知との対話」が、15年ほどの時を経て再登場しました。本書には、新規性や進歩性、記載不備について指摘する「拒絶理由」に対応するためのノウハウが散りばめられています。さらに、旧版の内容に対して、これまでの法律改正を踏まえた修正が加えられるとともに、一時話題になったビジネスモデル発明、生物関連発明などについて、「特許されるための要件」を認定する上での詳細なロジックが追加されています。

本書は、単なるQ&Aによる教科書ではありません。井草審判官の語り口調で記載された講話や、審査官との面接事例(良例・悪例)といった具体的な話を交えて、知財実務者が身に付けるべき知識を、初心者の方にもわかりやすく解説するものです。

もちろん、旧版に引き続き、亜土弁理士がI教授の発明を解きほぐす話も掲載されており、未経験者にとっても楽しめる内容となっています。さらに、プロローグとして追加された「意地悪な目覚まし時計」は、知財の経験の浅い実務者への教育にも利用可能ではないでしょうか。

以下に、本書を構成する各章を紹介します。

  • その1 意地悪な目覚し時計
  • その2 「先行技術がある」拒絶理由を受けたとき Q&A
  • その3 「明細書不備」の拒絶理由に応答するには
  • その4 一風変わったI氏の明細書
  • その5 「成立性なし」の拒絶理由に応答するには
  • その6 「その他の拒絶理由」について
  • その7 審査官との面接
  • その8 書類の様式のことなど拒絶査定された後のQ&A
  • あとがき 特許理由との対話

これらの中で、知財の実務者にぜひ目を通してもらいたいのが「あとがき」に記載された「特許理由との対話」です。

優れた発明には“ピカピカッと光る”何かがある、という考え方には大いに賛成です。知財の実務者としては、発明者が為した発明を如何に広く権利化するかが仕事であり、発明者からの説明から如何に“ピカピカッと光る”ものを抽出するかが知財マンとしてのスキルであるといっても過言では無いと思います。

実務に追われ、仕事の意義を見失いつつある昨今、今一度本書を読み直すことで、自らの仕事の価値を再確認できるのではないでしょうか。

(紹介者 会誌広報委員会 S.MO)

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