新刊書紹介

新刊書紹介

技術・知財契約実務の要諦

編著 梅澤 邦夫 著
出版元 株式会社産業科学システムズ A5判 315p
発行年月日・価格 2006年8月28日発行 6,000円(税別)

本書は、40数年間特許の世界一途に歩まれ、日本知的財産協会の研修コースの中で技術契約コースの講師としても10年以上活躍されている著者が、これまでの豊富な契約関連業務に関する知識や経験を実務者の観点から解説をこころみた筆者の集大成とも言うべき実務書である。

ライセンス契約等技術・知財契約について論じた書籍はあるが、知財部門の契約実務担当者が直面する世界に即した解説、すなわち相手側と自分側の立ち位置を踏まえ、どのような技術・知財契約の選択肢が有りえるかというアプローチを本書は試みており、実務者にとって非常に理解の進む内容構成となっている。

本書は、次の3編で構成されており、ソフトアライアンス時代に対応する技術・知財契約実務等のあり方について、順序だてて、また契約書の雛型を紹介しながら解説されている。

  • 第I編 ライセンス契約総論
  • 第II編 ライセンス契約各論
  • 第III編 職務発明規程

第I編では、ライセンス契約における契約交渉当事者が心得ておくべき基本理念やライセンス契約における対価の発生事由とその意味合いについて、著者が経験された事例を紹介しながら、読者の理解が進むよう構成されており、ライセンス契約締結交渉にあたり、必要な心構えの要諦を学ぶことができる。

また、第II編では、ライセンス契約について、代表的な条項それぞれについて、具体的な用語や表現の例が、その意味合いを添えて丁寧に解説されており、実際の契約書作成にあたって大いに活用できる内容となっている。加えて、産・官・学連携を推進していく上で重要となる共同研究開発に関する契約内容の各エッセンスについて、それぞれの立場に踏み込んだ解説がなされており、相互納得性の高い契約締結に向けて大変有用である。

そして、第III編では、職務発明における発明者への対価及びそれを規定する各企業等における職務発明規定に関する昨今の問題点を踏まえ、著者としての考察を論じながら職務発明規定の策定・運用に関する留意点が解説されており、実務的にも参考となる。

本書は知財契約実務担当者にはもちろんのこと、研究者・技術者の方にも、技術・知財契約書の中にある条項の持つ意味合いについて実例を豊富に紹介した実務書・基本書として、有効な1冊でありおすすめしたい。

(紹介者 会誌広報委員会 S.K)

新刊書紹介

特許翻訳の基礎と応用 高品質の英文明細書にするために

編著 倉増一
出版元 著講談社 A5判 262p
発行年月日・価格 2006年10月10日発行 3,500円(税別)

特許の外国出願件数の増加に伴い、特許翻訳の重要性はますます高まっています。英語翻訳者にとっても、安定した需要が見込める特許翻訳の市場は魅力的なものであると思います。そんな中、「技術翻訳について書かれた本はあるけど、特許翻訳の参考になる本がなくて困った」という経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。特許翻訳は技術的な文章としての側面と、特許の権利行使を行うための権利書的側面を含み、それが特許翻訳を「取っ付きにくい、難しそう」という印象を与える要因にしていると思います。そんな中、特許翻訳における重要な要素および翻訳の技法について、実際の特許から訳例を用いて分かりやすく解説しているのが本書です。

第1章「翻訳者のための特許法と翻訳の基本的考え方」では、特許明細書の役割や、日米明細書の構成の違いなどについて触れながら、特許明細書の翻訳において重要な要素とは何かを解説しています。

続いて第2章では、「明細書各項目の翻訳ポイント」として、主に米国出願用の明細書を念頭におきながら、明細書に必須の構成要素について詳しく解説しています。従来技術、発明の概要、図面の説明など、特許明細書には独特の言い回しが数多く存在します。慣れるまでは戸惑うことも多いため、多様な表現に触れて慣れることが大切です。

第3章「クレーム翻訳の基礎と応用」は、特許明細書の核であり、翻訳においても最も神経を使うクレーム翻訳について書かれています。クレームの翻訳は、単に書いてある日本語をそのまま翻訳するのではなく、明細書の技術内容を熟知した上で、発明の範囲を正確に訳す必要があります。本章では単純な構成のクレームから非常に複雑な構成のクレームまで、順を追って翻訳の技法が解説されており、クレーム翻訳の約束事を学ぶことが出来ます。

「日本語独特の表現」について触れた第4章では、日本語明細書でよく見かける日本語特有の表現について書かれています。特許明細書翻訳の際、しばしば翻訳者を悩ませる曖昧な表現が数多く取り上げられており、長年の悩みが解消されました。

最後に、第5章「よりよい翻訳のために」では、翻訳明細書の質を高めるために何をすべきかについて触れられています。

以上、各章のポイントについて簡単に触れましたが、本書は、特許翻訳の基礎が分かりやすく解説されており、これから特許翻訳を始めたいという方に最適です。また、特許翻訳者が日頃抱いている疑問に対する解決方法が的確に示されており、特許翻訳に携わっている初級、中級者にとっても、実務上多くの示唆を与えてくれる内容だと思います。更に、特許翻訳に直接携わる方だけではなく、外国特許実務の担当者や日本明細書の担当者にも是非読んで頂きたい内容です。本書でも指摘されている通り、翻訳者だけで優れた翻訳明細書を作成することは、容易なことではありません。翻訳者が特許明細書の翻訳をする際に直面する問題の多くは、日本語明細書を作成する時点で修正が可能な場合が多いからです。高品質の翻訳明細書を作成する最も確実な方法は、良い日本語の明細書をもとに、翻訳をすることです。そういった意味で、日本明細書の作成者から翻訳者まで、外国特許に携わる方々に幅広くお勧めしたい一冊です。

(紹介者 会誌広報委員 A.M.)

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