新刊書紹介

新刊書紹介

国際知的財産紛争処理の法律相談

編著 ワシントン大学ロ−スク−ル
先端知的財産研究センタ−(CASRIP)編
竹中 俊子、山上 和則 監修
出版元 青林書院 A5版 612p
発行年月日・価格 2006年12月7日発行 5,400円(税別)

本書は、ワシントン大学ロースクール先端知的財産研究センター(CASRIP)により編集されており、国際的な知的財産紛争の際に論点となる問題について、Q&Aの形式で簡潔に論じている。CASRIPでは、毎年夏に開催される3週間の集中講義にて、米国特許法での特許侵害、日米欧の特許法比較について研究を行っており、本書でも各国の特許法の相違点を比較しながらわかりやすく解説されている。
本書は6章で構成されている

  • 第一章 条約
  • 第二章 知的財産管理
  • 第三章 米国における特許紛争処理
  • 第四章 米国における特許以外の知的財産紛争処理
  • 第五章 欧州における知的財産紛争処理
  • 第六章 アジアにおける知的財産紛争処理

まず第一章で基礎となるパリ条約、特許協力条約(PCT)、欧州特許条約、TRIPs協定など、また各々の各国法との相関について解説している。第二章では、特許の保護対象、特許要件、出願や審査の手続きなどを各国法を比較しながら解説している。第三章では、訴訟提訴国の選択、弁護士の選任など一般的な話題を始め、ディスカバリー、マークマン・ヒアリングなど、米国特有の制度に関して解説している。さらに第四章では米国の商標権、著作権などに関して解説している。第三章、第四章は「訴訟大国」と言われる米国において、知的財産紛争において遭遇するあらゆるケースを想定した想定問答集となっている。特に第三章は本書の約半分の頁数が割かれており、非常に充実した内容となっている。本章に対する監修者の力の入れ様が伺えるボリュームとなっている。

第五章では、欧州主要国の特許制度の比較や異議申し立てなど欧州特有の制度について解説している。第6章ではアジア諸国での知的財産紛争に関する問題について解説している。近年、新聞等で頻繁に話題になっている、中国での模倣品対策、研究開発と職務発明制度、知的財産権行使、韓国における知的財産権行使などに関して解説している。中国に関しては、日本各企業が生産拠点としてのみならず、研究開発拠点として注目しつつある現状を鑑みると、各企業の知財担当者にとっては一読の価値のある内容と思われる。

本書全体を通して、各設問(Q)が非常に具体的に設定されており、訴訟等の知的財産紛争経験のない実務者が初めて国際的な知財紛争に対応する際に実際に疑問として感じられる点を列挙している。また、設問(Q)に対して簡潔な回答(A)が述べられ、その内容は非常に実務的で具体的である。さらに設問に関する詳細な解説が続く形式となっており、必要な情報を必要に応じて得ることができる、まさに「かゆいところに手が届く」構成となっている。

経済のグローバル化に伴い、日本企業が米国を始めとする諸外国で知的財産係争に遭遇することも少なくなくなっている。知的財産関連の係争、訴訟の経験に乏しい実務担当者にとっては、いざという時頼りになる一冊と思われる。是非お手元に常備されることをお勧めする。

(会誌広報委員  N.T)

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