新刊書紹介

新刊書紹介

パテントプール概説
技術標準と知的財産問題の解決策を中心として

編著 加藤 恒著
出版元 (社)発明協会A5判328頁
発行年月日・価格 2006年11月30日発行定価2,400円(税別)

十九世紀末から現在に至る通信・交通技術の著しい進歩によって、地球は日々、時間感覚においても、実際の距離においても小さいものになってきている。
この小さくなった地球の上で、産業社会はグローバル化を急速に進展させており、これにともなって技術開発競争は、自国のみならず外国をも相手にしなければならないという熾烈を極める状況を見せ始めた。

そして、競争の舞台が世界に広がったことから、ある先端技術が実用化された場合にそれを実施しようとすると、世界中に特許権者が存在するということが頻繁に起き始めている。
さらに、現代社会において人に益をもたらすと思われる先端技術は標準化されて利用に供されているのだが、それに関する知的財産権をどう処理するのかという難問も産業社会に浮上してきている。
この難問に特効薬や万能的解決方法が存在しないことは歴史が物語るとおりであるが、昨今、パテントプールが一定の解決策となりえることが実証されつつあり、これに注目が集まり始めた。

筆者は、1990年代以降、いくつかのパテントプールの創設と運営に関わってきた実務家であるが、社会の関心が高まるなかで、パテントプール全般をできる限り易しく、実例も踏まえながら解説した著作が見受けられないことに疑問を抱き、大きな二つの目標を掲げて本書を著した。
一つめの目標は、パテントプールを理解する上で知っておかなければならないであろう全般的な関連事項を、多少底が浅くても一通り知ることができるような体系的な教科書を目指すということである。

加えて、パテントプールの歴史を振り返ることはその本質的課題を知る上で役立つものであり、他方パテントプールも技術と同様に進歩するものであるから、その歴史と将来像についてもできるだけページを割くこととしている。
二つめの目標は、読者によるパテントプール実施の一助となるように、パテントプールの具体的事例をできる限り紹介しながら、実務の中で生じた問題と、問題解決にどのようなアプローチがとられたかの説明を試みることである。

後半の付属資料を除くと約180ページの著作であるが、中身は濃く、ページの端々に著者のパテントプールに対する熱意が感じられる。
二つの目標は十二分に達せられており、読者は本書を通してパテントプールの可能性・将来性を垣間見ることができるのではないだろうか。

さらに後半の付属資料は、日米欧各当局のパテントプールに関する当該ガイドライン(米については、司法省ビジネスレビューレター)であり、パテントプールが常に避けては通れない独占禁止法の視点を、当局サイドの視点で見直すという意味で価値あるものとなっている。

(紹介者 会誌広報委員会 H.T)

新刊書紹介

必読 特許実務ガイド

編著 弁理士 三枝 英二編著
出版元 財団法人経済産業調査会 A5判 400p
発行年月日・価格 2006年12月10日発行 定価4000円(税別)

この本は、三枝国際特許事務所の弁理士の先生方が執筆された各章を三枝先生が編集されたもので、特許実務に必要な事項が網羅されている。
読んで、おわかり頂けると思えるが、特許実務に関する種々のテーマを漏れがないようにわかりやすく読者に伝えたいという編集者および執筆者の熱意が伝わってくる内容である。

特に、技術者・研究者が自己の発明について出願しようとしたときに、特許実務についての知識を得るために勉強する場合を想定して実務に即して纏められており技術者・研究者の特許に対する向学心を損なわないよう、従来の特許法の解説主体の本とは一線を引くことを目的とされる。

そこで、特許法の解説をできるかぎり避け、特許実務における様々な場面におけるテーマが25章に分けて平易な文章で説明され、順序よく纏められる。
始めに、1〜3章で日本の特許動向、次いで特許出願の意義および目的について説明された後、4章以降、先行技術調査、出願の流れ、拒絶理由通知との対応等、実際の特許実務について説明されており、特許実務で遭遇する様々な課題が紹介され、非常に充実している。
例えば、5章ではアイデアの着想から特許出願までが、化学、バイオ、機械、電気・電子ソフトウェアなど各技術分野に分けて詳細に説明されており各技術分野の理解が進む。また、21章以降、ベンチャー企業の知的財産戦略、特許の価値評価、産学連携および外国出願と最近注目されるテーマについて説明されるなど、多岐にわたるテーマが実務に即して説明および考察されており、大変充実した内容である。

昨今の研究者・技術者の方の、知的財産への関心・興味が高まり、知財教育の重要性が問われる風潮の中で、本協会の研修における入門コースおよび初級コースにおいて、数年前より、発明者たる研究者・技術者の方の参加数が多くなっていると聞き知った。
このような状況下で、この本は時代の趨勢を捉えた待望の1冊であるのではないかと思われる。

技術者・研究者の方が特許出願とは何かを知り、実際に特許出願し、特許出願後の対応を行うなど、基本的な特許実務について学ぼうとする際に特に有効であり、また特許実務全般における様々な場面で参考となると思える。本書の狙いである、技術者・研究者の特許に対する向学心を損なわない配慮は十分行き届いていると考える。

また、知的財産部員にとっても、知的財産における最新の話題も豊富に記載され特許実務に即して内容が充実しており特許実務に役立てられる1冊であろう。

(紹介者 会誌広報委員 山内 拓)

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