新刊書紹介

新刊書紹介

知財最前線からのメッセージ
〜知財プロフェッショナルが語る実務の真髄〜

編著 知的財産プロフェッショナルを考える研究会編
出版元 経済産業調査会 A5判 440p
発行年月日・価格 2007年2月28日発行 定価3800円(税別)

この本は、東京理科大学専門職大学院総合科学技術経営研究科知的財産専攻と日本弁理士会による共同研究講座「知財プロフェッショナル論」の講義内容を本にしたものである。もう少し詳しく言えば、知財プロフェッショナルを育成するための新たな教育手法を開発するために平成18年に共同研究を開始し、編者である「知的財産プロフェッショナルを考える研究会」が中心になりその成果をとりまとめ、知財プロフェッショナルに求められる知識とスキル、その養成に資するアイデアを記録したものである。

内容は、実務上の今日的課題を10回に分けて設定し、各回の講義を各章に対応付けて編集されている。各章は、第1部が「講義」、第2部が「質疑応答」にて構成(但し、第1章のみ「トップ対談」も有り)され、講義で使用されたパワーポイントの図・表・レジュメの他、配布資料も織り込まれており、まさに受講している臨場感を味わいながら読めるようになっている所が面白いと感じられる。

一部の章について、その内容に触れてみることにする。まず、第I章「トップが語る〜道先案内役として」では、本専攻修了生が将来企業における知財プロ、あるいは弁理士になった時のことを考え、その心構えを説いている。何年か企業の知財部門で仕事に励んでいる方々が読んでも共感できる内容である。また、この章だけ、「講義」と「質疑応答」の間に「トップ対談」が入っている。第II章「法的発明への昇華」は、クライアントの技術発明を法的発明に仕上げていく過程、発明創生〜権利化・活用まで、発明者とのかかわり方、知財戦略の立て方、知財部門と弁理士の役割分担等について言及している。どちらかと言えば、弁理士の立場での講義のように感じられるが、知財部の方々が読んでもそのまま当てはまる内容である。この本の1つの山である。

次に少し飛んで第V章「特許事務所のリスクマネジメント」は、将来弁理士になり特許事務所を開設した時の備えとして、リスクマネジメントに関する講義である。まるで、自動車教習所で、運転実技や交通法規といった表舞台の講習でなく、安全講習を受けた時にことを思い出した。確かに、明細書作成や権利活用と言った表舞台の事項ではないが、事務所経営に関する知識や知財品質の事柄まで含んでおり、重要な部分と感じた。同様な内容として第VII章の「知財プロフェッショナルのCS」も記載されていることも付加えておく。参考にされたい。

最後に、第X章「知的財産のプロフェッショナル」は、総括として共同オープンセミナーが開催され、その内容が紹介されている。パネリストとして、本講座(共同研究)のメンバーである日本弁理士会と東京理科大学の他、企業側の立場から知財協会員企業の3名の方が出席しており、議論の内容が興味深い。

以上、紹介しましたように、学生時代に講義ノートをコピー屋で調達したような、いや、先生の講義内容(喋った内容)まで収録されているので、それ以上の内容で、専門職大学院の生の講義を味わえる貴重な1冊と言えるものである。本書を自信をもってお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 M.S)

新刊書紹介

知財紛争の経済分析

編著 NERAエコノミックコンサルティング 編
出版元 (株)中央経済社 A5判 398p
発行年月日・価格 2007年3月1日発行 4,800円(税別)

産業革命に端を発し、種々の技術革新や時代の変化と相俟って各国で固有の発展を遂げてきた資本主義社会において、経済成長の原動力としてその発展を支えてきたのは、付加価値を持つ商品という有形の資産を造る第二次産業であった。しかしその趨勢は、20世紀末に起こった「パラダイムシフト」とも呼ばれる画期的な方向転換により、企業の創造的活動によって生み出される、知的財産という無形資産の保有・活用へと推移しつつある。

このような潮流の中で、早くから知的財産の保護に積極的に取組んできた欧米諸国のみならず、世界中の国々において、無形資産の商業化が推進されている今日、その権利を保護し、活用する手段は複雑化して多岐に亘り、知的財産に関する紛争は増大の一途を辿っている。

特許を例に挙げると、一般にその技術を利用した製品が結果として市場で産出する利益の増分によって価値が算定される。逸早くプロパテントを推進したアメリカでは、市場における価格決定のメカニズムに基づいて、知的財産の価値を特定するための様々な要件が、経済学的な観点から規定されている。今や経済学を抜きにして、知的財産をめぐる諸問題を論じることができない時代になったのは明らかである。

本書は、このような現状に鑑み、知財紛争における経済学的問題の解決に取組んできたNERA(ナショナル・エコノミック・リサーチ・アソシエイツ)の人達によって編纂された。

以下に目次に沿って内容を紹介する。

  • 第I部 知的財産権の経済学的考察
    発明や研究開発の不確実性を知識と情報の経済学的見地から考察すると共に、特許政策に関する最新の経済分析について述べている。
  • 第II部 知的財産権に関する損害の基礎知識
    知的財産訴訟における損害額の算定について、判例に基づいて裁判所の考え方を解説し、逸失利益や適正なロイヤルティの算定基準となる経済原則について説明している。
  • 第III部 知的財産訴訟と損害の経済分析
    企業合併におけるシミュレーション手法、アンケート調査の活用、ヘドニック特性やイベント分析等、損害賠償額の算定に関する手法を紹介し、その利点と問題点について論じている。
  • 第IV部 反トラストと知的財産権の交叉
    業界標準と市場支配力の関係や、反トラストで論争の的になっているパテントプールの問題について分析している。
  • 第V部 日本および中国における知的財産権保護
    アメリカ経済に及ぼす影響が大きい両国において、知的財産の考え方や法制度が異なる現状と将来的に起こり得る問題を分析する。
  • 第VI部 知的財産ポートフォリオの管理問題
    DCF法やリアルオプション等、知的財産ポートフォリオに関する問題を取上げ、研究開発や設備投資の意思決定時において、知的財産への投資を評価する手段として解説する。

総勢20名を越える経済学者、法律家や実務家で執筆され、損害賠償の評価に関するパンデュイット基準やジョージア・パシフィック基準など、知的財産法と反トラスト法に経済学を応用した実例について詳しく紹介されており、知財紛争に関するアメリカの事例を勉強したい人にお勧めの一冊である

(紹介者 会誌広報委員  K.K)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.