新刊書紹介

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知的財産契約の理論と実務

編著 大阪弁護士会知的財産法実務研究会 編
出版元 発行 商事法務  A5判 813p
発行年月日・価格 2007年6月25日発行 7,800円(税別)

知的財産に関する契約としては、権利行使場面としてのライセンス契約が、おそらくもっとも認知度の高いものであろうと思われる。しかしながら、当然のことであるが、ライセンス契約が知的財産契約のすべてではない。知的財産の創造、保護、活用というサイクルに即して考えるならば、創造・保護の場面においては、共同研究や、一方当事者は研究開発に関与せず資金のみ提供する研究・開発委託が契約上問題となり、さらには研究・開発の結果成果として生み出されたものを権利化するための共同出願契約が締結される場合も大いに考えられるところである。

ライセンス契約は活用の場面のみに関するものであるのだから、見た目の華々しさほどには、知的財産契約において主流を占めているということができないのかもしれない。さらにいえば、以上は産業財産権について当てはまるとしても、著作権が関わる契約にはこれとまったく異なる形態のものが存在すると言っても過言ではないかもしれない。一口に「知的財産契約」と言ってもその中身は実にバラエティに富んでいると言わなければならない。本書は、そのようにバラエティに富む知的財産契約を概観するとともに、しかも理論的に検討を深めることも可能にしてくれるものであるということができる。

本書で取り扱う契約をその構成に即して紹介する。まず、「開発にかかる知的財産契約」として一つの章が設けられており、ここでは上述したサイクルのうち、創造・保護の場面に関する共同研究・開発契約、研究・技術開発委託契約について論じられている。また、これら概観するものとは別に、ソフトウェアの開発をめぐる問題点(開発委託・共同開発の双方)について特に厚く検討が加えられているというのが、本書の特徴のひとつである。本書がこのような構成をとるのは、ことソフトウェアの開発については、他の技術分野以上に開発手法・開発段階というものを念頭に置いた上で契約を考える必要があるという考えに基づくところも多くあるであろうが、それ以上に、ソフトウェアに関しては、特許法による保護と著作権による保護が重畳的に存在しうるのであり、しかも両者間に(特に組織内における創作行為に関する法規整に関して)少なくない差異があるという視点が、大きく作用しているのではないかと思われる。

そこで、通常契約時には所与の前提としてさほど重視されることはないのかもしれないが、それぞれの企業内における従業者の活動の成果がいかなる仕組みによって企業に帰属することになるのかということが、企業間の契約において成果に関する権利帰属について定める前提として問題になってくるはずである。本書のいまひとつの特徴である「職務上の創作」の一章において、特許法・著作権法の規整の差異とそれに応じた契約・勤務規則のあり方について理論的検討が加えられているのは、契約実務を考え直す上で役立つところが大きいのではないだろうか。

このほか本書では、「実施・使用許諾・ライセンス契約」の一章(もちろん商標ライセンスの特殊形態としてのフランチャイズ契約にも言及がある。)、さらに「特殊型契約」として、演劇に関するもの、映画に関するもの、キャラクター・パブリシティに関するものについて、検討が加えられている。特に後者は、本書前半の技術系契約とは別個の進化を遂げたと言っても過言でなく、一冊の本を通読して双方の契約類型に関する知見を得られるというのは、貴重なことではないだろうか。一読をお勧めしたい。

(会誌広報委員  J. I)

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