新刊書紹介

新刊書紹介

ライセンシング戦略−日本企業の知財ビジネス−

編著 高橋伸夫・中野剛治 編著
出版元 有斐閣 A5判 262p
発行年月日・価格 2007年10月5日発行 2,300円(税別)

出願人にとって特許権を取得する目的とは何だろうか。防衛出願や営業目的の出願等を除き、一般的には権利化し、活用によりビジネス(= 事業等)において利益を獲得することではなかろうか。そして特許権等を取得しても、それ自体では財産的価値を発揮することは困難であ り、ビジネスにおいてライセンスを含めた活用により初めて利益獲得しうるものであろう。ライセンスに関していえば、最良のライセンシン グ戦略を策定・実施することが、より大きな利益を獲得する上で重要と考えられる。

本書は、東京大学大学院経済学研究科の高橋伸夫教授及び東洋大学経営学部専任講師の中野剛治氏他3名による執筆を、同高橋教授及び中 野氏が編著したものであり、ライセンシング戦略においては「ライセンス・ビジネス」の視点が重要であるとのテーマのもと、この視点に主 にフォーカスをあてた書である。
「第1章 ライセンス・ビジネス概論」では、青色LED訴訟を題材に、知的財産権の財産的価値について、「ライセンス・ビジネス」の視点か ら捉えた枠組みの可能性について述べている。
「第2章 経営戦略としてのライセンシング」では、ライセンスに関連する諸問題の基本的な考え方(ライセンス定義、交渉プロセス、事業 連携、限界と可能性等)について述べ、ライセンスを戦略的ビジネスとして展開する考え方の必要性と留意点が明らかにされている。
「第3章 技術移転の考え方」では、特許件数やロイヤリティ収入額に目が行きがちな大学の産学連携と技術移転の現場を「ライセンス・ ビジネス」の視点から捉え直している。「マーケティング」が技術移転を成功させる上で重要であること、「技術移転とは、単なる特許等の 移転ではなく、特許を作り出せる技術を持った人の移転である」として人材の重要性が強調されている。
「第4章 ライセンス紛争とLinuxの奇跡」及び「第5章 ソフトウエア・ライセンスと開発スタイル」では、Linuxが成功した経緯と、 その成功の本質について述べるとともに、オープン・ソースとバザール型ソフトウエア開発モデルについて、著作権との関係を踏まえながら 説明がなされている。

企業によっては発明発掘から権利化迄を担当する「知財屋」、特許権を含む技術ライセンス契約及び侵害警告時の交渉・解決を行う「ライ センス屋」の組織上・機能上の区分が存在し、ライセンシング戦略策定と実施には、「知財屋」「ライセンス屋」の違いを超えた大きな視点を 持った人材の育成と社内のチームワークは大きな課題であると本書では述べている。どちらかと言えば「知財屋」である小職にとって、本書 での「ライセンス・ビジネス」の視点はとても新鮮であった。無論、ラインセンス業務に携わっている方等にも十分参考となる内容である。
「ライセンス・ビジネス」の実態の全体像を知る上でも良書であり、是非ともご一読されてはいかがであろうか。

(紹介者 会誌広報委員 M.S)

新刊書紹介

米国特許法−判例による米国特許法の解説−

編著 山下 弘綱 編著
出版元 経済産業調査会 A5判 682頁
発行年月日・価格 2008年4月8日発行 6,800円(税別)

米国は、日本企業にとって最も重要な市場のひとつである。従って、特許実務担当者の多くが米国特許実務を行っている。多くの特許実務 担当者は、米国特許制度を知ってはいる。しかしながら、米国特許制度を理解している米国実務担当者は数少ないのではなかろうか?

本書は、米国特許制度の内容に加え、制度の根本をなす原則や考え方、つまり「何故そのような制度になっているのか?」ということを判 例を通して解説している。本書は、個々の制度の考え方をよく表している判例と共に、制度の内容が分かりやすく解説されており、米国特許 制度の基本がよく理解できる内容となっている。しかも米国特許実務にかかる制度を網羅していると共に、新しい判例も紹介されており、 実務に大いに役立つものである。
また、特筆すべきは、索引である。特許法、規則、和文、英文の索引だけでなく、判例からも検索できるようになっている。これにより判例をキーワード として、関連する制度の内容を照会することができ非常に便利である。本書は、米国特許制度をこれから学ぶ者だけでなく、米国特許実務担当者にもおすすめしたい。

本書の構成は次のとおりとなっている。

  • 第1章 米国の法制度と特許法
  • 第2章 主な特許関係の訴訟の流れ
  • 第3章 米国特許法の基本的考え
  • 第4章 発明の特許性
  • 第5章 明細書の記載要件
  • 第6章 特許商標庁とのやりとり
  • 第6章の2 出願に際しての不衡平な行為(情報開示義務違反等)
  • 第7章 特許後の手続き
  • 第8章 特許商標庁の行なった手続きに対する訴え
  • 第9章 所有権と譲渡
  • 第10章 特許侵害
  • 第11章 特許侵害に対する抗弁(特許権の不行使)
  • 第12章 特許侵害に対する救済、その他
  • 第13章 権利の消尽
  • 第14章 特許法と州法との関係
  • 第15章 ライセンス
  • 第16章 CAFCの裁判管轄権

ちなみに、紹介者は、特許実務担当者らによる勉強会を定期的に開催している。今回、本書を本誌で紹介する機会を得たことを契機とし て、本書を勉強会で取り上げたところ、非常に好評であった。現在では本書を勉強会での参考書として活用している。

本書は、米国特許制度の基本を学ぶという目的だけでなく、実務の参考書としても大いに役立つ実用的な一冊であり、おすすめしたい。

(紹介者 会誌広報委員 T.O)

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