新刊書紹介

新刊書紹介

全面改訂 特許侵害訴訟の実務

編著 関西法律特許事務所 編
村林隆一、松本司、岩坪哲、井上裕史、田上洋平
出版元 経済産業調査会 A5判 682頁
発行年月日・価格 2008年6月6日発行 6,500円(税別)

この度、田倉整外2名の「特許侵害訴訟の実務」の改訂版として発行された「新 特許侵害訴訟の実務」(平成12年(2000年)8月)が全面改訂された。

思えば、近年、法改正が立て続けにあり、急激に様変わりしているため、どの書籍もその勢いについていけず、読者として安心して読める 書籍が年々減ってきているのではないかと感じていた。即ち、読者が読み進めながら自己判断で「これは旧法だから参考としない」と取捨選 択していかなければならないことも少なくなかった。

しかしながら、自己判断にも限界がある。本書の「はじめに」を読むと、前回の書籍出版から8年の間に16回の改正があったと紹介してい る。改正回数はともかくとして、確かに目立つところでは、特許法104条の3(特許権者等の権利行使の制限)が新設され、知的財産高等裁 判所が設置されたことなどはすぐに思いつくところである。また、職務発明訴訟という言葉にも随分慣れてしまった。

このような状況の中、単なる一部改訂ではなく、あえて全面改訂という形で生まれ変わった本書は、特許侵害訴訟に関して問題とされる各 種トピックスを実にシンプルに説明しており、初心者だけでなく、実務者の確認書としても十分活用できる一冊となっている。

本書は、まず特許侵害訴訟のベースとなる基本事項(特許法、裁判所、訴訟形態、訴状等)から説明し、侵害論・損害論での必須事項と問 題となる各トピックスを挙げた上で、最後に訴訟手続きや訴訟準備について述べており、初心者にとっても混乱することなく読みすすめてい きやすい構成となっている。構成もさることながら、特におすすめな点は、実務者の視点から記載されていることである。「旧版」「新特許」の精神を受け継ぎながら、法 解釈および訴訟手続の問題点を平易な文章でシンプルに説明されているため、大変読みやすく頭に入りやすい。大変心強い書籍である。

以前に比べて、特許訴訟が着実に増加している中、実務面で直接関与する者はまだまだ少ないと感じる。一部関与していたとしてもトータ ルでは見えていないかもしれない。既に「知らない」とは言えない立場の方も多いのではないか。頭を整理するためにも是非お勧めしたい書籍である。

(紹介者 会誌広報委員 S.O)

新刊書紹介

発明の進歩性〜判断の実務〜

編著 西島 孝喜 著
出版元 東洋法規出版 A5判 571p
発行年月日・価格 2008年7月18日発行 5,600円(税別)

発明の進歩性は、特許法に規定されている基本的な特許要件であって、かつ実務者にとって日常業務で出会う頻度が最も高いものであると いっても過言ではない。しかし、その対象となる判断は、「発明が容易かどうか」という極めて主観的な命題である。さらに、その判断は過 去に遡って「出願当時『発明が容易だったかどうか』」という、いわば仮想状態での事後的判断を強いられるため、不可避的に不確実な命題を持つ。

一方、日本では平成16年に無効理由を含む特許権の権利行使の制限にかかる第104条の3の規定が導入され、裁判所が無効理由としての進 歩性を直接判断するケースが増え続けている。また、海外に目を向けると、米国では2007年のKSR最高裁判決、欧州では2007年の進歩性に 関する審査ガイドライン改定といったように、欧米においても進歩性の判断基準が変化している。このような状況を踏まえると、進歩性の動 向について今一度考えてみることは、実務上、大変有意義であると考える。

本書は、日本における進歩性を検討するに当たり、最近の審決取消訴訟の判決、とりわけ審決を覆した判決に注目し、特許庁と裁判所の判 断の違いが考察されている。また、判決の引用にあたっては、判決内容を直接検討できるように判決文が可能な限りそのまま引用されている。

ここで、本書の内容について紹介すると、第2章の「進歩性判断の手法」では、進歩性判断の前提、特許庁における進歩性判断基準、進歩 性判断作業のあり方、について記述されている。第3章の「進歩性判断の動向」では、本件/引用発明の認定や引用例の組合せといった基本的 な部分だけでなく、選択発明や数値限定発明における進歩性といった特殊な部分についても記載されている。第4章の「知財高裁における審 決取消判決の検討」では、全34件の判決について、それぞれ分かりやすく纏められている。また、第5章の「米国における進歩性判断」では、 米国における進歩性の基本的な判断基準に加えて、KSR最高裁判決を踏まえた米国の最新動向についての解説が掲載されている。さらに、 第6章の「EPCにおける進歩性判断」では、欧州の進歩性に関する改定ガイドラインの概要の他、本ガイドラインの原文と和訳が対比されて掲載されている。

以上、紹介したように、本書は、抽象的で掴みにくい進歩性について具体例を挙げて丁寧に解説されており、理論と実務の両方を兼ね備え た有用な一冊である。今一度進歩性について見つめ直してみたいと思う企業の知財部や特許事務所で働く実務者に、ご一読することをお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 Y.D)

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