新刊書紹介

新刊書紹介

民法でみる知的財産法

編著 金井 高志 著
出版元 日本評論社 A5判 284p
発行年月日・価格 2008年4月発行 2,700円(税別)

企業の知財部門は量的にも質的にも、圧倒的に《特許・技術系》の職場であるように思う。
私のような《法律・事務系》の人間は「肩身が狭い」とまでは言わないものの、少数派であることは明らかで、自分の存在意義なり強みなりをどう発揮していけばよいのか、多少なりとも立ち位置に迷うことがある。反面、同僚や上司からは「法学部出身だよね?」という期待の言葉(?)とともに、よろずの法律相談が降ってくる。
知財法については同僚・上司も長年の知識・経験があるため、私のところに降ってくる相談は、専ら法の制度趣旨や条文の根本理解を問うような問題だったりする。「難しい問題ですねぇ、あはは…」と笑ってごまかしてばかりだと、それこそ存在意義が薄れるので、どうにかこうにか回答するが、民法等の一般法の理解が足りないため、うまく回答し切れず、後味の悪いことが多い。
一念発起して「民法の勉強を始めよう!」などと思うのだが、単に通勤カバンが重くなるだけのことだったりする…。そのような、同じ悩みを抱える方にお勧めしたいのが本書である。

本書は私にとって3つの点で重宝した。
1点目は、取りも直さず「民法・知財法の復習」である。学生時代のノスタルジーとともに民法の三大原則や物権と債権の基本的な話などをフムフムと読み進めるのは、思いのほか楽しかったし、知財法に関する記述についても、実務とは別の広い視野から眺め直すのは新鮮だった。
2点目は「民法と知財法の比較」である。通常実施権と専用実施権の関係が民法の賃借権と地上権設定の関係に似ているなぁ、というのは素人の私でもなんとなく感じていたことではあるが、それは結局、「なんとなく…」の域を脱するものではなく、単なる思い付き以上のものではない。この点、本書は、どこが同じでどこが違うのか、その相違点を丁寧に手抜きなく解きほぐしてくれる。
3点目は「不法行為の理解」である。昨今、著作権法での保護は否定しつつ、不法行為での保護や救済を図る裁判例が散見される。加えて、パブリシティ権や人格権の重要性も増しており、不法行為の基礎的理解は欠かせない。本書はこの点においてもしっかりとフォローがなされており、まさに至れり尽くせりである。

法律の勉強は筋力トレーニングと同様、とかく退屈でつまらない道のりになりがちであるが、本書は「法律筋」を鍛える上で、必ずや良いコーチ、良いトレーナーになってくれるはずである。

(会誌広報委員 M.Y)

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