新刊書紹介
新刊書紹介
知的財産の経済・経営分析入門 ―特許技術・研究開発の経済的・経営的価値評価―
編著 | 石井 康之 著 |
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出版元 | 白桃書房 A5判 356p |
発行年月日・価格 | 2009年3月26日発行 3,800円(税別) |
その解決策の一つを与えてくれるのが本書である。タイトルを一見すると臆してしまうが,しかし,一旦読み始めれば,わかりやすくまとめられ素直に読み進むことができる。
特に技術部門出身の知財部員は,経済・経営分析に関する内容を学ぶ機会もほとんどないだろう。しかし,アメリカ経済やGDPに関する説明,さらに技術者ならどこかで目にする回帰分析,最小二乗法,多重共変性などの考え方がうまくまとめられ,躊躇することなく読むことができる。数式の概念や導出も丁寧に説明してあるので,文科系出身者でもとまどうことはないだろう。さらにExcelを利用した分析例も多用され,試してみたくなる。
第1章から第7章までは解析のための準備の説明部分,第8章以降が知財と経済・経営の関連を述べたいわば真骨頂に相当する部分の大きく二つのパートに分かれると思われる。
前半部分では基本的な考え方が説明される。データ選択,モデル式設定,モデル検証,検証を踏まえた考察,といったフローである。まさしく,科学,技術の根本的な考え方であり,経済・経営分析も科学であると認識できた。
後半部分は多くの解析例が挙げられ圧巻だが,決して難解ではない。前半と同じ分析フローが用いられ,いっそう詳細な解析が行われている。海外出願と対外経済活動の関連,企業の生産性・収益性と知財の関連,株価データと研究開発収益性など,知財との関連で興味深い題材を掘り下げている。最終章では職務発明対価の評価もなされ,このような課題までモデル化して考察することが可能なのかと驚かされる。
本書の読後,適切なデータの選択と,モデルが当てはまらない場合の考察,の二点が重要と考えさせられた。データ項目を増やすだけが得策ではなく,有効な寄与をしているデータ項目の抽出が重要であるとわかる。データの出所やデータ取得の背景の説明にも注意が払われ,参考にすべき点である。また,モデルが当てはまらない場合,その限界を見極め,モデルが合致しない理由を考察することがさらなる精密なモデルの発展につながっていくのである。
知的財産が経済・経営と切り離せない関係にあるのは誰もが認めるところであろう。知的財産と経済・経営との関連を本書のようにわかりやすく,定量的に,しかも広範囲の問題に対して解説しているものは希少と思われる。知財部門の新入部員はもちろん,ベテラン部員も一読 されてみてはいかがだろうか。
(会誌広報委員会 A.N.)
新刊書紹介
歴史のなかの特許 ―発明への報奨・所有権・賠償請求権―
編著 | 石井 正 著 |
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出版元 | 2009年4月30日発行 3,300円(税別) |
発行年月日・価格 | 2009年3月26日発行 3,800円(税別) |
本書は,特許制度が目的としている発明の保護のために,「発明報奨」,「所有権」,「損害賠償請求権」の3つの思想が存在しており,それらが各時代の産業や技術の変化とともに形を変えながら発展してきているという歴史的変遷を,膨大な資料を用いて分かりやすくまとめたものである。
本書の構成は以下の通りである。
第1〜2章では,ヴェネツィア特許法の成り立ちから周辺諸国へ与えた影響などについて述べられている。
第3章では,英国の産業革命を支えた発明と特許の関係や,明細書による発明公開の始まりなどについて述べられている。
第4〜5章では,当時技術後進国であったアメリカがどのようにして技術先進国に変貌を遂げたのかについて,当時の特許制度の特徴を交えながら述べられている。第6〜8章では,産業革命以降の,周辺国(フランスからロシアまで)の特許制度の変遷について述べられている。
第9章では,19世紀の特許制度廃止論の大論争から国際特許制度の提起及び合意に至るまでの経緯などが述べられている。
第10章では,明治時代の日本における発明保護の考え方や近代特許制度への発展について述べられている。第11章では,発明への保護,所有権,賠償請求権について,それぞれの時代でどのような措置が採られて発展してきたのかについて述べられている。
本書では,その時代の歴史的背景や地域性,技術状況,経済事情が,各国の特許制度にどれほど大きな影響を与えていたのかを窺い知ることができる。
例えば,世界で始めての特許制度が,ヴェネツィアという特殊な地域で確立されることとなった理由や,アメリカが先願主義ではなく,先発明主義を採用した理由などが非常に丁寧に解説されている。
また,特許制度というものは,各国特許の保護から始まり,特許廃止論,そしてグローバリゼーションやハーモナイゼーションへと要求が変化しているが,その都度,先人が様々な苦労を重ねて築き上げてきたものであるということを感じ取ることができる。
以上,特許制度の歴史を俯瞰したいという全ての特許担当者にお勧めしたい一冊である。
(会誌広報委員会 N.A.)