新刊書紹介

新刊書紹介

理系のための法律入門 ―技術者・研究者が知っておきたい権利と責任―

編著 井野邊 陽 著
出版元 講談社 新書判 349p
発行年月日・価格 2009年4月20日発行 1,140円(税別)
学生から社会人に至るまで理系を貫いてきても,法律知識が必要な状況に遭遇するだろう。 知財管理システムの開発担当が仕様を検討するには知的財産法を理解しなければならないし,メーカーの技術者が自社製品の安全確保や賠償 責任を自覚するには製造物責任法を理解しなければならない。また,管理職となれば,契約や労務の知識を持っていた方が心強い。

本書は,理系出身の弁護士・弁理士である著者が,理系の観点で法律を分かり易く解説している。今年施行した裁判員制度も紹介されてい て,あらゆる読者層にとって有用な一冊となっている。

本書は,3部構成になっており具体的な章立ては以下の通りとなる。
<第1部 基礎知識編>
・第1章 法律と裁判の基礎知識
・第2章 契約と民事責任の基礎知識
<第2部 知的財産に関する法律知識編>
・第3章 知的財産法とは何か
・第4章 特許権
・第5章 著作権
・第6章 デザインと商標の保護
・第7章 技術情報の漏洩禁止(不正競争防止法)
<第3部 技術に関する法律知識編>
・第8章 製造物責任法(PL法)
・第9章 商品などの表示に関する規則(不正競争防止法など)
・第10章 内部告発

第1部では,まず裁判の流れや法律の基礎を説明し,各種契約や民事責任について触れる。 もし架空請求を受けたり,裁判員に選ばれたらどうしたら良いのかといった,身近に起こり得るケースを用いて説明しているので,興味を持って読むことが出来る。

第2部では,知的財産について,堅苦しい概論を書き記すのではなく,初学者でも難なく理解出来るような,具体的な題材を取り入れて解説する。例えば,職務発明に関して,社会的に注目された「青色発光ダイオード職務発明事件」の事例を挙げて説明している。更に,退職時の守秘義務のような情報管理についても網羅している。

第3部では,あらゆる分野の技術者が留意するべき法律として,製造物責任法を解説した後,原産地の虚偽のような,誤認表示に関する規制の説明をする。最終章では,内部告発について紹介している。

理系の読者が知っておきたい法律の基本を適切に教示している。とにかく分かり易い。「法律」へのハードルを低くして,読者を温かく迎えてくれるような,有り難い入門書である。

(会誌広報委員会  Y.A.)

新刊書紹介

M&Aを成功に導く 知的財産デューデリジェンスの実務

編著 TMI総合法律事務所/デロイトトーマツFAS株式会社編
出版元 中央経済社 A5判 448p
発行年月日・価格 2009年6月23日発行 4,200円(税別)
デューデリジェンス(以下,DDという)という言葉に馴染みのない知財部員も多いのではなかろうか。かくいう私もそうであった。DDとは,簡単に言うと企業買収等(以下,M&Aという)に先立ち,主に買収側企業が実施する,対象企業に関する情報の調査・査定をいう。

DDの調査範囲はビジネス,財務,法務,技術,人事,IT等の多岐に渡るが,昨今,技術確保を目的としたM&Aが増加しており,この種のM&Aを成功に導くため,知財面からのDDの重要性が高まっている。

本書はこの知財D Dの実務に焦点をあて,TMI総合法律事務所の弁護士・弁理士,デロイトトーマツFAS社の公認会計士等の複数の実務エキスパートにより執筆・編集された書である。多面的な角度から執筆されており,知財DDの全体像から,実務上の深い内容まで網羅されている。

以下,簡単に構成と内容を説明する。
・第1章 知的財産DDの概要
・第2章 法律面からの調査
・第3章 ビジネス・技術面,財務面からの調査
・第4章 価値分析
・第5章 スキーム,契約上の留意点

第1章では,知財DDの意義,目的,実施時期,作業内容の概要について,分かり易く説明がなされている。

第2章では,知財DDにおいて法律面から調査すべき内容・手順・留意点について詳しく説明がなされている。特に権利関係の確認,移転手続き,チェンジ・オブ・コントロール条項への配慮,職務発明上の留意点,権利侵害・紛争の有無,社内の知財管理体制について述べられている。

第3章では,ビジネス・技術・財務情報の調査計画,分析手法及び留意点について詳細な説明がなされている。

第4章では,知的財産の価値分析・評価方法について具体的事例を交えて説明がなされている。

第5章では,調査した内容をM&Aのスキーム(合併,会社分割,事業譲渡,株式譲渡等)においてどの様に考慮し,契約にどの様に手当てすべきか説明がなされている。 本書は,知財DDに関する情報を俯瞰的にも詳細にも知ることができ,知財DDに関与している人,又はその可能性のある人にとって必携の書といえるのではなかろうか。

特にDDにはスピードが要求されることから,事前に勉強をしておくための教科書としても良書といえるかもしれない。

また,オープン・イノベーションのような外部の企業等から知的財産を調達する場面においても知財DDの知識が活用できると考えられ,そういう点においても参考となる書であり,多くの方にお勧めしたい1冊である。

(会誌広報委員会  M.S.)

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