新刊書紹介

新刊書紹介

中国知的財産権判例評釈―判決全文の翻訳付き―

編著
出版元 日本機械輸出組合 B5判 825p
発行年月日・価格 平成21年5月20日発行 8,000円(税込)
中国といえば自社製品を低コストで生産するための国,という認識が多くの日本企業にあったのではないか。しかしながら,近年の中国の経済発展には目を見張るものがある。現在の中国は,日本を含む世界各国の企業にとって自社製品が消費される一大市場に成長し,また着実に技術力を獲得しつつある地元中国企業と激しく競合する事態も生じている。その一方で,模倣品流通国のイメージは未だに消えず,多くの企業が悪質な模倣品業者に手を焼いているというのも実情であろう。

知的財産制度の整備を進めつつある中国ではあるが,日本企業にとってその実態はあまり知られていない。近年,中国での特許出願手続など,権利取得を中心とした事柄を日本語で解説する書籍をしばしば見かけるようになってきた。しかし,実際の紛争において司法がどのような判断を下したか,すなわち司法による法の運用という側面に関し,その実態を伝える情報は少ない。

まさにそのような要望に応えるのが本書である。特許権,実用新案権,商標権,著作権,不正競争,技術ライセンス契約,そして営業秘密に至るまで,さまざまな法域から集めた27もの判決を,日中のエキスパートが解説・評釈している。

本書では,各事件について「はじめに」「事案の概要」「争点の解説」「人民法院の判断」「評釈」「判決の全訳文」という項目を共通に用いて紙面を構成している。「はじめに」では,事件の意義が簡潔にまとめられている。「事案の概要」には,当事者の関係,事件の経緯が分かりやすく記載されており,争点を理解する前提となる事実関係を容易に把握できる。同様に「争点の解説」「人民法院の判断」も,事案に即して簡潔にまとめられている。「評釈」では,裁判所の判断に対する解説,判断の適否,その判決が後の判決に与えるであろう影響についてなど,詳細な考察が加えられている。日本企業としての留意点についても適宜指摘があり,大変有用である。

そして何より特筆すべきは,「判決の全訳文」として当該判決全文の日本語訳が盛り込まれていることである。これまで,判決中の主要箇所のみピックアップした翻訳文を用いた解説では,裁判所がそのような判決を下すに至った過程が分からず,判決の射程を判断しかねることもあったが,本書では心配無用である。

このように,これまで得ることの難しかった中国での知的財産関連訴訟における判決及びその解説,さらに判決の全訳文まで盛り込まれた本書は,中国でのビジネスを重要視する多くの企業にとって有用なものであると考えられ,是非ともお薦めしたい。

問合せ先:日本機械輸出組合 通商・投資グループ TEL03-3431-9348

(会誌広報委員会   D.T.)

新刊書紹介

世界52カ国の商標実務家の寄稿によるQ&A 商標の使用

編著 深見特許事務所 編
出版元 経済産業調査会 A5判 450p
発行年月日・価格 2009年5月7日発行 4,400円(税別)
商標権侵害訴訟などの際,争いにかかる標章が「商標の使用」に該当されているかどうかということが,争点のひとつとなることが多い。 また,商標を巡る争いは,経済活動のグローバル化やインターネットの普及に伴い,日本のみならず海外でも生じる可能性がある。

本書はこれらの点に着眼し,世界52カ国の特許・商標・法律事務所の商標実務家に対して「商標の使用」に関するアンケートを行い,その回答を翻訳して,まとめたものである。

世界52カ国の構成であるが,北米2カ国,ヨーロッパ21カ国および欧州共同体商標,アジア13カ国(日本も含む),オセアニア2カ国,中東6カ国,アフリカ4カ国,中南米3カ国となっている。多くの企業が進出をしている,あるいは進出を検討しているアメリカ,ヨーロッパ,BRICs諸国はもちろんのこと,南アフリカ共和国やイスラエルなど,セミナーなどが開催されることが少なく,情報を得る機会があまりないと思われる国などもカバーしているのは,ありがたい。

これらの国の商標実務家への設問は,大きくは「商標権侵害における商標の使用」と,「不使用取消審判における使用」の二つに分類されている。

「商標権侵害における商標の使用」に関しては,例えば次のような事柄に関する質問が設定されている。

  • 商標権の侵害に該当する行為とは何か,および真正商品の並行輸入は商標権侵害に該当するか
  • 商標権の行使をする際,商標権者が当該「商標の使用」をしていることが要件となるかそして「不使用取消審判における使用」については,商標が表示されたウェブサイト上の広告が「商標の使用」に該当するか否かに焦点をしぼって設問が練られている。例えば次のような設問である。
  • 販売実績が当該国においてなくとも,当該国で見ることができるウェブサイトに掲載された広告があれば,当該国において「商標の使用」されているとみなされるか,
  • 販売実績が当該国においてない場合で,ウェブサイトの広告をみて,当該国に居住する消費者が個人輸入をしたという事実を立証できれば,当該国において「商標の使用」がされたと見なされるか

設問全てに対し,全ての国の商標実務家から回答が得られているわけではなく,また,「事実次第により回答が異なる」など留保の回答も多く見られるが,52カ国それぞれの「商標の使用」に関する考え方の一端をこの1冊で簡便に見ることができる。その点で,本書は,企業の商標担当者にとって,手元にあると便利な1冊といえるだろう。

(会誌広報委員会  U.E.)

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