新刊書紹介

新刊書紹介

知的財産法で見る中国

編著 長沢 幸男・古谷 真帆著
出版元 発明協会 A5判 240p
発行年月日・価格 2009年6月20日発行 1,200円(税別)
近年,特許権,商標権,著作権などといったさまざまな知的財産権に関するニュースを,新聞やテレビで見るようになってきた。特に,中国においては,経済成長率に合わせたように特許出願件数は急激な増加に転じており,特許権,商標権,著作権においては無法地帯といったイメージがあったが,WIPOに加盟してからは一定の秩序が見られてきている。

本書はそういう中で「知的財産法で見る中国」と題して著者らは,関係法令の規定を分析しただけではなく,具体的な裁判例を通して,中国知的財産法の現状を解明している。本書は,裁判例を踏まえて法令を解釈,説明するもので,著者が拠としている法解釈の手法によって中国知的財産法を分析し,本分野における従前の著作とは一線を画するものと思われる。また,「知的財産法で見る中国」の中には,これまでの直感的ないし実務的な,既存の中日知的財産法研究の枠を超えた,新たな比較研究の手法を見ることができる。

本書の内容は,第1部の講演録,第2部の比較知財法研究,第3部の中国法研究からなる。

第1部の講演録は,中国の知的財産において著名な4名の方の講演録が記載されている。概して,中国の知的財産法制度の現状,憲法との関係を説明し,次に中国特許法での特許要件,職務発明,クレーム解釈,特許の無効について論じている。さらに最後に特許侵害訴訟についても説明されている。

第2部の比較知財法研究は,中国知的財産法制度の概説を行い,日本と中国特許法を比較検討している。特に,クレーム解釈と均等論についてふれられており,中国特許法の特異性にふれることができ新鮮である。

第3部の中国法研究では,中国の統治機構からはじまり,中国における法概念,中国の司法制度にまでふれられており,歴史面から知的財産法を眺められる点では興味深い。

最後に本書の特徴として最高人民法知的財産権判例50選が載せられており判例に興味のある方は重宝されると思われる。さらに,最終頁には中国特許法新旧条文対照表が載せられており条文に触れながら中国特許法を眺められるので大変便利であると思われる。

以上紹介したように,本書は,中国の知的財産権法を横断的かつ体系的に学ぶ上で,初学者だけでなく,ブラッシュアップしたい実務家にとっても,有益な一冊であると思われる。中国の知的財産権の本質について学びたい方に,一読することをお勧めしたい。

(会誌広報委員会   S.K.)

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改訂6版特許明細書の書き方−より強い特許権の取得と活用のために−

編著 伊東忠彦監修 伊東国際特許事務所 編
出版元 経済産業調査会 A5判 554p
発行年月日・価格 2009年7月7日発行 4,500円(税別)
知財部員の皆さん,特許明細書を書いていますか?今勉強中という若手の方もおられるでしょうし,100件以上書いたというベテランの方もおられるでしょう。自分では書かずに社外の先生に書いてもらっているという方が多いかもしれません。私も自分で書いた案件は数えるほどで,ほとんどは社外の先生にお願いしています。

勉強中の若手のあなたへ:あなたにとって本書は間違いなくバイブルとなるでしょう。本書は八つの章と巻末資料から成っています。あなたが最も興味を持つのはおそらく第3章「特許明細書作成」でしょう。特許明細書は多くのパートに分かれていますが,それぞれのパートの意義,書くにあたっての注意事項が丁寧に説明されています。また,巻末の参考明細書は,お手本にするにふさわしいものです。その他,国内優先権主張出願等の注意事項(第4章),中間処理(第5章),審判請求(第6章)にもページが割かれていて,出願担当者の業務のかなりの領域が網羅されています。何か1冊と言う場合に本書は第1の候補となりそうです。

旧版をお持ちのベテランのあなたへ:オレは旧版持っているからいい,と思っていませんか?そう即断はできないと思いますよ。版が重ねられるのにはそれだけの意味があります。平成20年の改正,頭に入っていますか?出願の様式も変わりましたよね。もう少し前,平成18年改正で導入されたシフト補正の禁止に係る部分も出願担当者が忘れてはなりません。その他,改訂6版では外国出願を念頭に置いた明細書等の書き方に関して新たな項目が設けられています。実務の根本に変化はないとは言え,特許の世界の移り変わりには激しいものがあります。新版は自分の頭の整理にも部下・後輩の指導にも役立つことでしょう。

自分では書かないあなたへ:本書の第2章は特許明細書作成の前段階について解説されています。つまり,先生が筆をとるより前の段階です。出願するかしないかの判断を含め,先生のせいにはできない,あなたに責任があるこの段階でのいろいろなヒントがこの章にはあります。あなたの先生は恐らく審査基準に精通していてどのように書けば特許されやすいかを熟知されていると思います。でも,権利行使のしやすさまで意識して書いてくださっているでしょうか?また諸外国の実務にまで精通していて外国語に翻訳された後のことまで考えて日本語明細書を書いてくださっているでしょうか?もし,大丈夫と即答できないなら,あなたの依頼の仕方には再考の余地がありそうです。本書を読んだあなたが依頼をすれば先生の書く特許明細書が劇的に良くなる,そんなこともあるかもしれません。

私個人的には,判決例がコンパクトにまとめられている第7章・第8章が気に入りました。

少しずつ読んで,基礎を固めたいと思います。

(会誌広報委員会  H.T.)

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