新刊書紹介

新刊書紹介

御社の特許戦略がダメな理由

編著 長谷川 曉司 著
出版元 中経出版 四六判 320p
発行年月日・価格 2010年3月25日発行 2,000円(税別)

本書の「まえがき」には,大手化学会社の長い知財経験の中で,筆者が感じた「特許はいったい何のために出願されるのか」というシンプルな疑問と,ノーベル賞を受賞した基本発明の特許が日本に存在するのに,ドイツの企業が成功した事例が示されている。私は,この答えが知りたくて,一気に本編を読みきった。そして,翌日から,自社技術の権利確保を重視していた出願と権利化活動に,コンペティターの動向調査を加えることにした。

本編は,実話に基づく三つの失敗事例から始まる。一つ目が,数値限定で権利化したために回避された事例。二つ目が,材料を限定したために回避された事例。三つ目は,最も性能が良い材料だけに着目し,同じ性能を発現する他の材料を見落としてしまった事例である。

第2章は,第1章の失敗事例を受けて,「特許の役割とは何か,特許戦略とは何か」について,守りと攻め,活用の具体的事例が示されている。

第3章は,第1章を振り返って,事業利益を最大化する特許戦略として,どのような活動が必要であったかが解説されている。この章において,事業に貢献するためには,自社技術を守る特許戦略ではなく,他社を排除する特許戦略が重要であることが明確になる。

第4章は,本書の最も重要な章であるが,ここにも読者を引き付ける事例が盛り込まれている。「第二次世界大戦に見る日本の戦略」と題し,負けた原因を戦略という視点から細かく分析し,特許戦略と結び付けて具体的活動を解説している。「他社を知ること」,「発明の本質を捉えること」,「三位一体で戦略を立案すること」という聞き慣れた言葉が非常に新鮮に感じるとともに,「コンペティターに勝つためには,自社技術を守るのではなく,他社を排除することが重要である」という筆者の主張が心に響く章である。

第5章は,読者が特許の役割と特許戦略を理解していることを前提に,具体的な実践事例を示している。理論だけでなく,事業で勝つための特許戦略が具体的活動に落とし込まれている本章は,説得力が有り,非常に参考になる。

本書を読み終え,私は,「特許は他社を排除する武器として捉え,出願の段階から他社を意識し,そのために,事業部との連携を強化するべきである」と感じた。

本書に興味を持たれた方は,まずは「まえがき」と「終わりに」を読んでいただきたい。特に,ノーベル賞やラーメン屋の話に感じるところがあった方にはお薦めである。新たな特許活動を提供してくれる一冊になると考える。

(会誌広報委員会    M.O)

新刊書紹介

バイオ知財入門−技術の基礎から特許戦略まで−

編著 森 康晃 編著,秋元浩,河原林裕,木山亮一,高島一 著
出版元 三和書籍 A5判 257p
発行年月日・価格 2010年2月20日発行 3,200円(税別)

バイオテクノロジーは,自然科学のあらゆる分野に及んでおり,例えば,医薬品や食品分野における化学物質,動植物,微生物等の利用,遺伝子治療や再生医療といった先端医療分野での応用等,人々の健康や生活の快適さの向上のために幅広い分野で産業応用がなされている。 そして,バイオテクノロジーを開発し,それを産業社会に活用していくためには,特許を中心とする知的財産の保護が重要であり,技術とともに知的財産権を学ぶことが不可欠となる。

本書は,表題の通り,バイオテクノロジーの基本とバイオ分野の知的財産に関する問題を分かり易く解説する入門書であり,バイオテクノロジーを知的財産の観点から解説した全く新しいテキストである。

本書は,バイオテクノロジーの基礎を解説する「技術編」(第1章〜第3章)とバイオ特許について解説する「知財編」(第4章〜第6章)から構成される。以下にその概要を紹介する。

「技術編」:第1章では,バイオテクノロジーの概要の説明に始まり,最近の医薬分野でのトレンドであるバイオ創薬やゲノム創薬に関する解説と,DNAや蛋白質といった生命科学の基本事項に関する解説を中心に構成されている。 第2章では,バイオテクノロジーの理解に不可欠なゲノム解析や組換えDNA技術について解説されている。第3章では,遺伝情報の利用,遺伝子診断・遺伝子治療,遺伝子組換え作物,再生医療,癌治療や環境問題でのバイオテクノロジーの応用など,最先端のバイオテクノロジーの応用例について解説されている。

「知財編」:第4章では,特許制度全般に関する解説に加え,化学物質や生物関連発明といったバイオ分野特有の特許の種類や概要についても解説されている。第5章では,iPS細胞やES細胞に関連する特許の諸論点について論じられると共に,バイオ関連の特許明細書の記載について具体的な明細書例を用いて解説されている。第6章では,リサーチツール特許や医療関連行為と特許といったバイオ特許に特有の問題点,医薬品業界における特許戦略,バイオベンチャーの実例や政策等について解説されている。

本書は入門書であることから,専門用語や重要なポイントを説明する「キーワード」,本文の理解度の向上と確認に役立つ「Q&A」,各項目で知識を深めるための「コラム」など,読者の理解を助けるための工夫もなされている。バイオテクノロジーというその技術の特殊性から,知財関係者の中でも「バイオ知財」は苦手と思われている方は少なくないのではないだろうか。そのような方の入門書として本書の一読をお薦めしたい。

(会誌広報委員会   K.H)

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