新刊書紹介

新刊書紹介

アライアンス戦略論

編著 安田 洋史 著
出版元 NTT出版 A5判 295p
発行年月日・価格 2010年6月3日発行 3,400円(税別)

 昨今,企業の経営環境は激しく変化しており,柔軟な対応が求められている。このような時代の下,より柔軟に企業経営を進めてゆくため,自社の経営資源だけではなく,パートナーの経営資源も利用するアライアンスが広い範囲で行われるようになってきている。メディア等を通じて,実際のアライアンスを見聞きすることは多いが,アライアンスとは,かなり広い概念の言葉であり,はっきりと理解できている方は少ないのではないだろうか。
 本書は,変化の時代の企業経営において必須となっているアライアンスについて,長年,電機メーカーにおいて,数多くのアライアンス・プロジェクトにかかわってきた筆者が,アライアンスの定義・形式から始まり,実践編では,交渉術や契約書の基本構成など,具体的な実務に関わるところまで触れながら,アライアンス全般を広く解説している。

 以下に,本書の内容について紹介する。本書の構成は,企業はなぜアライアンスを行うのかという「理論」,アライアンスをどのように把握するかという「分析」,アライアンスをいかに効率的に実施するかという「実践」,そしてそれを現実のビジネスに活用していく「応用」の4つの柱からなっている。
 まず,「理論」編(第1章〜第3章)では,アライアンスとは何か,その定義と分類から始まり,なぜ企業はアライアンスを行うのか,そして,具体的には,どのような組み方があるか,を解説している。
 「分析」編(第4章〜第6章)では,アライアンスの本質を把握するため,「どのような企業と,どのような経営資源が交換されているか」を分析するための「アライアンス・マトリックス」の考え方を解説し,最近のアライアンス事例で具体的な分析も紹介している。そして,半導体業界の売上高上位16社を対象に,800件を超えるアライアンスについて分析した結果から,アライアンスと企業競争力の関係を解説している。
 「実践」編(第7章〜第12章)では,アライアンスの基本ステップとして,アライアンス戦略策定,パートナー選定,条件交渉,契約書締結,アライアンス・プロジェクト運営・管理,アライアンス終結の概要を解説した上,各ステップについて,ケースを用いながら,実務上で検討すべき事柄を解説している。例えば,条件交渉のステップについては,効果的なネゴシエーション・スキルなども解説している。
 最後の「応用」編(第13章〜第15章)では,現実のビジネスでパートナーを活用する形態として,強い絆をもったアライアンスである合弁会社,スピードの時代へ対応するためのM&A,文化の壁を超えるグローバル・アライアンスの3つの形態を解説している。

本書は,アライアンスの全体像が掴めるとともに,アライアンスの分析手法も解説されており,アライアンス実務に直接,関わっていない初心者はもとより,企業戦略を検討されている方々にも役に立つ一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 T.T)

新刊書紹介

新しい理系キャリアの教科書―30代・理系人間は知財を武器に勝ち残れ―

編著 廣田 浩一 著
出版元 幻冬舎メディアコンサルティング 四六版 192p
発行年月日・価格 2010年6月29日発行 1,200円(税別)

 このまま研究を続けたいが,スター研究者になる自信はない…。
 理系のキャリア戦略と言われても,自分の専門性を深める以外ピンと来ない…。
 会社のM&Aでこの先どうなるか分からない…。
 ――皆さんの周りに,このような悩みを持つ30代の技術者・研究開発者はいないだろうか。
 もし心当たりがあれば,その悩める理系人間にそっと差し出して頂きたいのが本書である。

 本書は,研究開発職を経て弁理士となった筆者が,「30歳の壁」にぶち当たった全ての理系人間に対して贈る自己啓発書である。理系人間が専門性を活かしながらいかにしてキャリアパスを増やすかについて,「STEP1戦略を立てる(知財力を正しく認識する)」,「STEP2武器を手に入れる(知財の基礎知識と知財戦略を学ぶ)」,「STEP3武装する(知財力を身に付ける)」,という3つのステップに分類し,全5章に亘り分かりやすく解説している。

 STEP1は第1章と第2章から成り,第1章では「二〇世紀型モノづくり大国の終焉」と題して日本のメーカーが直面している危機について述べ,オープンイノベーション時代を勝ち抜くための必須条件として,本書のキーワードとなる「知財力」を掲げている。そして第2章では,なぜ「知財力」が理系キャリアに必要となるかについて,知財戦略をベースとした技術開発や特許訴訟の実例を挙げながらその重要性を説いている。
 STEP2は第3章と第4章から成り,第3章では知的財産とそれを保護する特許法などの知的財産法の概要が,知財に明るくない研究者でも理解できるようにやさしく解説されている。また,特許要件に関する法律的な説明のみでなく,特許権を取得する意義についても具体例を出しながら解説されており,より知財力の重要性を理解するのに役立っている。さらに,第4章では企業における知財戦略の最前線について10の実例が紹介されており,知財戦略のノウハウや醍醐味の一端を味わうことが出来る。STEP3は第5章から成り,どのように知財力を身につけるのが効率的なのか,さらに,そうした知識を身につけた後で,どのようにその知識を磨いていけばいいのかについて解説されている。

基本的に本書は研究職向けの知財解説書であり,専門書や弁理士試験の参考書ではないため,知財関係者には物足りなく思われるかもしれない。しかしながら,実際の最前線で行われている知財戦略の事例紹介もあり,自社の知財戦略を練る上での参考になると思われる。また,30代のみでなく,たとえ20代であろうが40代を超えていようが,将来のため,部下育成のため,理系人間であればどなたでも一度は手にとって頂きたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 S.K.)

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事業戦略と知的財産マネジメント

編著 経済産業省,特許庁 監修
工業所有権情報・研修館 企画
発明協会 B5判 244p
発行年月日・価格 2010年6月21日発行 858円(税別)

 「技術力で勝る日本が,なぜ事業で負けるのか」の著者である妹尾堅一郎氏が委員長をつとめる編集委員会によって本書は製作された。
 本書は,法律に基づく知的財産権の制度面の解説を主とする「産業財産権標準テキスト(総合編)」とセットで学ぶためのテキストとして製作され,日本企業の凋落は,「技術があれば勝てた時代から,その技術を普及させるための事業戦略がなければ勝てない時代となったためである」と位置づけ,経営の観点からビジネスモデルと知財マネジメントがどのように事業競争力を強化できるのかについて考察するものである。

以下に概要を紹介する。

 1部では,現在にいたるまでの成功モデルの変遷を示し,事業戦略を実行する際に大切な「事業リスクの最小化」と「事業機会の最大化」を確保するために必要な知財マネジメントの基本事項,標準化について解説されている。
 2部では,アップルの「ipod」などに代表される「完成品主導型モデル」や一製品多数技術製品に代表される「技術相互利用型モデル」など,ビジネスモデルごとの知財マネジメント例が紹介されており,ブランド化のマネジメント,更には中堅・中小企業経営の知財マネジメントについても検討されている。
 3部では,勝ち組になるためは知財マネジメントを織り込んだビジネスモデルの構築と事業戦略,研究開発戦略,知財戦略が三位一体となった経営を行うことが肝要であると説き,モデルに知財マネジメントを織り込んでいくことの重要性が解説がされている。

 大学の経営系学部3・4年生を主な読者ターゲットとしただけあり,知財畑外の人にはわかりづらいと思われる用語の解説を巻末に設け,本文記載事項の補足説明をする側註もこまめに設けるなど,知財とのかかわりが薄い人にも読みやすいように作られている。また,ふんだんに取り上げられた身近な製品や会社の事業の事例が,読者の興味を掘り起こすとともに,本書の理解を助けるものとなっている。
 本書にいう三位一体の経営を実現するためには,事業戦略や研究戦略の策定に関与する人間に知財戦略を盛り込むことの重要性を認識してもらうことが不可欠であるが,本書をテキストとして活用し,企画部門など他部門員の教育に役立てることができるだろう。

(紹介者 会誌広報委員 UE)

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