新刊書紹介

新刊書紹介

技術者のための特許英語の基本表現

編著 河本 修 著
出版元 朝倉書店 A5判 232p
発行年月日・価格 2011年2月25日発行 3,600円(税別)

 グローバル時代といわれる昨今,知財部門においても,例えば,外国出願して海外展開先で戦略的に特許を取得することは重要な課題である。リスクヘッジの面でも,自社製品やサービスが他者の権利を侵害しないよう,当該国の特許公報等を読んで,権利関係を確認しておくことは必須であろう。そんな訳で,日常業務の中で英文特許を相手にしなければならない知財担当者は少なくないと思う。
 とはいえ,英文特許は独特な表現や筋道に沿って書かれているため,理解するのが難しく,苦手意識を持っている方が多いのではないだろうか。本書は,これから英文特許を読む方や,日頃読んではいるものの中々慣れない・苦手意識が抜けないといった方に,是非お薦めしたい一冊である。
 本書の特徴として先ず,全体の構成が,英文特許の構成項目(発明の名称,要約,発明の背景,発明の概要,図面の簡単な説明,好ましい実施形態の説明,特許請求の範囲)に沿って配列されていることが挙げられる。このため,頭からざっと読んでいくことによって,英文特許の流れをつかむことができる。また,個別の項目について調べたいときにも,知りたい内容に簡単にたどり着けるというメリットがある。
 次に説明の仕方である。英文特許の内容全体を37の表現カテゴリーに分類し,それぞれについて特徴的な表現や語句の使い方を簡潔に説明した後,英語のキーワード別に米国特許公報から集めた数多くの実例(例文)を挙げている。この「例文が多い」というのが本書の最大の特徴で魅力あるところだと思う。
 各例文については,くどくどした逐語訳は付けない代わりに,主語・動詞・目的語・補足説明語句などに,種類を変えたアンダーラインを付すことで,理解を助けている。また英文中で省略してよい語句を{ }で示すとか,慣用語法のポイントを適宜説明するなどして,読者の便宜を図っている。英文特許が読みにくい原因は,著者も述べているように,「一文が長く,複文になっている」「関係代名詞や接続詞が多い」「修飾句が多い」などの特徴にあると考えられるので,上記のような工夫は理解力向上のために大変役立つと思われる。
 最終章に「科学技術文書に必要な英文法」の解説がある。通常の学校教育では中々習得できない,科学技術文書に特化した実践的な英語の知識が身に付けられる。この章は,特許明細書に限らず,学術論文や技術仕様書などにも使えると思われるので,是非一読を薦める。  本書の性格からして,必ずしも頭から通読する必要はなく,調べたい項目に関して適宜辞書的に引く,というのが一般的な使い方だろう。また特にこれといった目的はなくても,時間のある時にぱらぱらとあちこち眺めるのも楽しい。英語の苦手な知財担当者,英語の好きな知財担当者,どちらにも自信を持ってお薦めできる。

(紹介者 会誌広報委員 T.Y.)

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これからの特許の話をしよう−奥さまと私の特許講座−

編著 黒川 正弘 著
出版元 三和書籍 B6判 250p
発行年月日・価格 2011年3月10日発行 1,200円(税別)

 どこかで聞いたことがあるような題名だな,というのが本書の第一印象でした。このためあまり期待しないで読み始めましたが,第一印象に反して,読み始めたら一気に最後まで読了してしまいました。
 中堅総合化学会社の(おそらく)知的財産部で特許を担当する「私」が一杯飲みながら奥様に特許の歴史を話す,という形で本書は進められます。
 「私」は,ヒッタイトやローマといった古代時代に始まり現代に至るまでの技術の公開・保護や特許制度の歴史を,当時の国内・国際情勢や統治者・政府の政策などとからめて明快にテンポよく解説します。
 エリザベス1世が宝飾品を買いあさる資金欲しさに独占実施権許可証を有償で乱発することにより近代特許制度がイギリスではじまったとか,第3代アメリカ大統領のトマス・ジェファーソンが初代特許庁長官となり,大統領・特許庁長官・審査官の三足のわらじを履いたものの,大統領の仕事に専念したため無審査状態になってしまったなど,面白いサイドストーリーも満載です。  しかしなんといっても本書がすばらしいのは,前出のエリザベス1世が独占実施権許可証を発行することにより,閉鎖的だったギルド制をかいくぐって,新しい技術を国内に導入することを可能にしたとか,1860年代にまだヨーロッパに比べて技術が劣っていたアメリカは,プロ・パテント政策を取ることで発明・特許取得を奨励し,国内での技術開発を活性化した結果,産業を興すことができたなど,社会・経済情勢と特許制度が相互にどのように影響を与え合ったかが丁寧に述べられている点だと思います。
 また,プロ・パテント政策のときは,ミノルタ・ハネウェルで権利範囲を広く解釈する均等論が登場したのに対し,2003年にアメリカ連邦取引委員会の報告を受けると,e-Bay判決,KSR判決,特許率の低下等アンチ・パテント政策に傾いた状況になるなど,「特許は生き物」であり,特許の成立や権利範囲が,その時代の政策に大きく影響を受け変わることも指摘されています。大きな時代の流れを敏感にウォッチすることが自身の利益を守るために大切なのだということを,改めて感じさせられました。
 日本は2000年代にようやく政府が重い腰を上げ知的財産戦略大綱や知的財産推進計画を国策として立ち上げたものの,その後リーマンショックに端を発する不景気,中国などの新興国の追い上げに直面しています。著者によれば,少子化により研究者人口の減少が予測され,将来の見通しもあまり明るくないようですが,「これから日本が浮上するか沈んで行くか」いまが正念場なのではないでしょうか。
 「歴史は繰り返す」「歴史から学べ」とよく言われます。本書を一読してこれからの特許について考えてみてはいかがでしょうか?

(紹介者 会誌広報委員 U.E)

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標準 著作権法

編著 高林 龍 著
出版元 有斐閣 A5判 320p
発行年月日・価格 2010年12月18日発行 2,500円(税別)

 著作権というと,身近に存在するものであるが,複雑で分かりにくい権利であるというイメージを持っていた。一度,著作権法を基礎から勉強しようと考えたときに薦められたのが本書である。
 本書は,著者が長年学生向けに講義してきた内容をベースに,初めて著作権を学ぶ読者を想定して執筆されている。
 いわゆる「専門用語」や「法律用語」には,定義や説明が加えられているため大変読みやすい。例えば,「複製」と「翻案」との違いなども両者を比較しながら分かりやすく説明されている。また,文中にたくさん掲載されている具体例が本書の理解を助けてくれる。
 さらに,脚注には,判例や通説,有力説等に加え,著者の見解も展開されている。そのため,脚注も飛ばさずに読んだほうが,本文中の内容をより深く理解することができると思われる。
 また,特許法と著作権法とを比較しながら著作権の内容を説明している箇所がいくつかある。このような構成は,特許業務を行っている実務者や特許法を理解している読者にとって,他の基本書よりも著作権の理解を助けてくれると思われる。
 また,法律の基本書というと,分厚い本を目の前にして,「これをすべて読まなければならないのか」と,読む前から疲れてしまうことがある。しかし,本書は,基本書といいながらも分量が多すぎず,少なすぎずという適量でまとめられている。そのため,持ち運びがしやすく,通勤時に読み進めることができた。これは特長の一つとして挙げておきたい。しかし,適量にまとめられているとはいいながらも,本書は,著者自身が培ってきた裁判官としての経験や,大学で行ってきた講義の経験をもとに,丁寧に作成されている。このため,これさえ読んでおけば,著作権法の体系を外すことなく,さらに,初学者が学ぶべき事項がもれなくカバーされているという安心感を持って読み進むことができる。
 このように,本書は,著作権をこれから学ぼうという初学者,特に特許実務を経験して次に著作権を学ぼうと考えている読者にとって推奨の一冊であることは間違いない。

(紹介者 会誌広報委員 A.N.)

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