新刊書紹介

新刊書紹介

企業人・大学人のための知的財産権入門(第2版)−特許法を中心に−

編著 廣瀬 隆行 著
出版元 東京科学同人 A5判 232p
発行年月日・価格 2011年4月4日発行 2,800円(税別)

 本書は,2005年6月に発行された初版が改訂され,今般第2版として発行されたものです。第2版では,法改正の反映,著作権に関する記述の補充,種苗法と弁理士法の解説の追加,などが行われています。
 本書を一言で言うと,「経験の浅い特許実務者がデスクの片隅に置いておきたい本」といった感じではないでしょうか。特許実務者にとって辞書代わりに使える便利な一冊であり,実務上かゆいところに手が届く,という表現がぴったりの書籍です。平易な言葉で短く解説されていますので,知的財産権の全体像を早く掴みたい方などには最適な書籍です。ただし,弁理士受験を考えている方や,特定の分野(例えば著作権のみなど)を深く学びたい方は,内容にやや不足を感じるでしょう。
 知的財産権に関する書籍は,数え切れないほど出版されています。しかし,これらのほとんどは難解なものが多く,実務に直結する内容になっているものは,現状少ないと言わざるを得ません。本書は,特許実務に役立つ記載のみを充実させる一方,実務に関連が薄い事項はドライにバッサリと落とされています。このコンセプトは初版から第2版にも受け継がれています。このため本書は,知的財産権の全体を網羅している割には比較的薄い書籍となっており,持ち運びも苦になりません。
 本書の内容を具体的に見てみると,法解釈や判例解説といった観点ではなく,拒絶理由への対応や特許侵害訴訟での流れなど,あくまでも実務的観点からの解説で終始しています。例えば「及び」と「並びに」の使い方など,実務や学習を始めると最初に戸惑うであろうことから解説されており,まさに実務的,という印象を与えます。多くの解説図が掲載されていることも特徴です。特許実務において,オフィスアクションや庁手続の流れは複雑です。本書では,これらを時間軸でまとめた解説図が随所に挿入されていて,記憶に残りやすくなっています。特許実務の経験がある方は,本書に掲載されているような解説図を,一度はご自分で書いたことがあるのではないでしょうか。また,ありそうでなかなか無いのが公報の読み方の解説書ですが,本書では特許公報や国際公開公報のフロントページの具体例を載せ,各書誌事項を解説しています。また,私は企業の知的財産部員ですので,職務発明訴訟については気になるところですが,本書では過去の職務発明訴訟の一覧表があって勉強になります。さらに本書では,コラムやメモといった一口解説が随所に挿入されています。コラムでは判例などが,メモではより理解が深まるようなコメントなどが,それぞれ記載されていて,ここにも実務上知っておきたいことが満載です。
 今回,本書を紹介させていただいた私は,初版を会社のデスクに置いています。知的財産部員になりたての頃に買い求めたものです。忘れてしまったことを復習するのに,今でもときどき開くことがあります。今回を機に,デスクの初版を第2版に入れ替えようと思っています。

(紹介者 会誌広報委員 Y.K.)

新刊書紹介

商標の類否

編著 櫻木 信義 著
出版元 発明協会 A5判 488p
発行年月日・価格 2011年4月14日発行 4,000円(税別)

 採択しようとする商標が他人の先行登録商標と類似する場合には,商標登録が認められないのみならず,これを使用すれば,他人の商標権を侵害することになる。従って,他人の先行登録商標との類否判断は,採択しようとする商標の登録可能性及び使用可能性を判断するうえで,極めて重要な判断となる。
 一般に,商標の類否は「外観」「称呼」「観念」のいずれかが相紛らわしいかという基準で判断される。
 これらの三つの基準のうち,従来は,特に「称呼」が相紛らわしい場合,特許庁及び裁判所において類似商標と判断される傾向が強かったが,最近では,称呼の優位性は弱まる一方,取引の実情を考慮して類否判断がなされる傾向が強くなりつつなる。このため,称呼は相紛らわしくても,取引の実情を考慮すれば,混同は生じないという判断例も多く見られ,こうした判断例は上級審に進むほど顕著に現われる。
 このような最近の特許庁及び裁判所における商標の類否判断の傾向を含め,過去の審判決例の集大成ともいえるのが本書である。
 商標の類似といっても,様々なバリエーションがある。例えば,長音の有無による類否(例:「ハブガード」と「ハーブガード」),愛称や敬称等の有無による類否(例:「涼」と「涼くん」),語順の入替わりによる類否(例:「開運大吉」と「大吉開運」)など様々である。
 本書では,それぞれのバリエーションごとに古い審判決例から最近のものが列挙されているため,どの時点で判断傾向が変わったのかが概ね確認できるようになっている。
 また,結合商標の類否判断にあっては,要部認定の際に識別性の有無の判断も必要となることから,本書では,識別性に関する審判決例も豊富に掲載されている。従って,本書では,商標の類否に関する審判決例のみならず,識別性に関する審判決例も併せて確認することができる。
 出願商標が先行商標と類似であっても,商標が使用される商品が類似しない限り,出願商標は登録されるが,「商品の類似」についても判断が難しい。本書では,商品の類似に関する過去の審判決例も数多く挙げ,商品の類似に関する判断の指針を示している。
 本書は,出願前の商標調査における類否判断の参考となるのは勿論,先行商標を引用する拒絶理由に対する意見書での反論の根拠を探すのにも最適である。
 商標の類否からは離れるが,本書では不使用取消審判における「社会通念上同一の商標」に関する審判決例も挙げられているため,同審判を請求する場合,または請求された場合にも本書は有用である。
 本書は商標実務者にとって頼りになる一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 S.S.)

新刊書紹介

知的財産権侵害訴訟の今日的課題−村林隆一先生傘寿記念−

編著 「村林隆一先生傘寿記念 知的財産権侵害訴訟の今日的課題」編集委員会 編
出版元 青林書院 A5判 638p
発行年月日・価格 2011年4月20日発行 12,000円(税別)

 本書は,長年に亘って知的財産権侵害訴訟の分野を牽引してこられ,多くの最高裁判例等や数々の知的財産法の理論形成に寄与してこられた村林隆一先生の傘寿を祝賀して刊行された傘寿記念論文集である。

 本書には,知的財産分野において,第一線で活躍されている著名な学者,判事,弁護士,弁理士らによる31編の論文が寄稿されている。本書は論文集であるため,論文一編ごとに内容が完結している。一方で,各論文は関連するテーマ毎にまとめられているので,自分の興味のある事件を取り上げた論文を個別に読み進めていくこともできるし,また関連するテーマを論じた論文をまとめて読むことにより,そのテーマについての理解を深めることもできる。

 本書は,法分野を大別して手続法関係一般,創作法,標識法,著作権法,国際知財法の5つの章で取り扱っており,例えば創作法を扱う第2章では,機能クレーム,プロダクトバイプロセスクレーム,均等論,明細書記載不備,国内消尽論,先使用権における事業の準備,間接侵害,共有特許権の侵害,および意匠の要部認定と類否判断など,実務においてしばしば直面する問題について,判例とその考え方が解説され,さらに幾らかの提言も加えられた論文が掲載されている。
 また,国際知財法を扱う第5章では,近年活用が進んでいる米国の再審査制度と侵害訴訟との関係や,今後も増加することが見込まれる中国における特許侵害訴訟の実情と今後の動向について解説する論文が掲載されている。
 5つの章を通して,各論文はテーマを深く掘り下げて論じられており,大変興味深く読むことができる。

 本書には,知的財産分野において基礎的な事項から最新の話題に至るまで,興味深い内容を取り上げた論文が豊富に掲載されており,知的財産分野に携わっている期間がまだ短い実務家にとっては,各章で扱われている法制度や技術的範囲論を学ぶことによって自らの基礎固めに役立てることができる。また既に経験を積んできた実務家にとっては,扱われている種々の判例および学説を読み,テーマの論点を理解し,考えることによって,業務で直面している課題解決のためのヒントを見出すことができる。
 また,村林先生の人となりについても幾らか触れられており,この点も興味深い。
 実務家のみならず,知的財産に関連する仕事,研究に携わる方々に対しても,是非ともお薦めしたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 M.S.)

新刊書紹介

実務詳説 特許関係訴訟

編著 睇堯≠探子 著
出版元 きんざい A5判 344p
発行年月日・価格 2011年1月15日発行 3,600円(税別)

 本書は現役の知財高裁裁判官によって執筆された裁判実務の解説書である。
 特許訴訟では計画審理の導入により,原告・被告とも迅速な対応が求められている。一方,訴訟での攻防は多岐にわたるため,複雑な手続の理解は簡単ではない。本書では著者の豊富な経験と知見に基づく指針を解説し,さらに各種書面の記載例を豊富に収録し,実務的視点で知財訴訟を解説している。

以下,構成と内容について簡単に紹介する。

 「第1章 特許権侵害訴訟の手続的論点」では,特許侵害訴訟の概要として,手続の流れや理論的考察のみに留まらず,訴状,請求の趣旨,対象製品の特定方法,秘密保護手続(秘密保持命令申立てなど),和解条項などについて具体的な記載例や留意点が掲載されている。特に実例を題材とした訴状等の記載例は興味深く,実務でも大いに役立つ内容である。

 「第2章 特許権侵害訴訟の実体法的論点」では,「侵害訴訟の当事者の適格性」,「要件事実」,「技術的範囲の属否」,「特許権の効力の制限」,「無効論」,「損害論」の論点について解説が行われている。「要件事実」項では原因事実・抗弁の対応関係が図式化されており,理解の助けとなる。約100頁にわたり各種事例に応じた詳細な検討が行われており,本項だけでも最近の判例の傾向や学説を理解することができる。

 「第3章 国際化と特許関係訴訟」では,企業活動のグローバル化に伴う国際管轄に関して,管轄の有無,準拠法,さらに国境を越える複数主体について解説されている。

 「第4章 審決取消訴訟の実務」では,はじめに審決取消訴訟の手続の流れと記載例が説明され,手続当事者の適格性,審決の取消事由,判決の効力,訂正制度,専門委員制度との審決取消訴訟での論点について解説されている。

 知財関係訴訟に関する解説書は多数刊行されているが,それらの多くは一般民事訴訟との比較から知財訴訟での特異性を論じるものが多い。一方本書では,実務に即し,各種書面の具体例やチャートによる説明など丁寧かつ理解しやすい解説がなされている。充実した内容の一方,書籍自体はコンパクトで使い勝手がよい。

 訴訟に関わる人のみならず多くの実務者に役立つ書籍として,自信を持って推薦できる内容である。

(紹介者 会誌広報委員 S.Y.)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.