新刊書紹介

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知財ライセンス契約の法律相談[改訂版]

編著 山上 和則・藤川 義人 編
出版元 青林書院 A5判 1,122p
発行年月日・価格 2011年6月8日発行 9,000円(税別)

 知財ライセンス契約の対象となる範囲は極めて広く,実務に必要とされる専門知識を得る難しさは常日頃から誰しもが,感じているところでしょう。また,ライセンス契約は長期にわたることが多く,当該事業や製品ひいては自社の収益を左右する可能性もあることから,契約を担当する各企業の知財担当者の悩みはさらに深くなるのではないでしょうか。本書は2007年に発行されたものの改訂版であり,初版と同じく全三編に分け,契約実務に必要とされる法律知識や各業種や国ごとに異なるライセンス契約の現状について,網羅的に解説しています。第一編は概論となっていますが,概論といっても,総括的なものだけではなく,業界ごとあるいは,ライセンス対象ごとに具体的に特徴や注意点が解説されており,また典型的な契約書例が掲載されているので,なじみのない領域で契約交渉を進める際には役立つでしょう。「ライセンス契約各論」と題された第二編の冒頭では,法規制等が取り上げていますが,各論の中心となるのは,個別の契約条項に対する設問と回答です。契約の中心となる実施料,ライセンサーやライセンシーの義務に関する事項はもちろんのこと,契約期間や当事者の倒産等,見逃しがちではあるが知財のライセンスだからこそ注意を要する条項,あるいは仲裁や保険など各企業にとってはあまりなじみのない制度などについても丁寧に解説が加えられています。さらに,「世界各国のライセンス法制」を解説した第三編は,我が国を取り巻く経済環境等の変化に合わせ改訂により充実が図られています。初版で取り上げられていた19か国に加え,オーストラリアやメキシコ等を含めた全27か国について,各国の法や知的財産制度に加え,代理人の状況等も紹介し,契約締結の際の注意点を解説しています。
 多くの執筆者による共著でもあり,また1,000ページを超えるボリュームではありますが,設問やそれに対する回答の形式が揃っているため,ストレスなく読み進むことができ,通読すれば,知財ライセンス契約に関する体系的な知識の獲得につながる大変充実した内容となっています。また,各設問は独立しており,必要な部分のみを確認することもできますので,「新しい市場への展開が決まった」「相手方の提示した契約条項の判断がつかない」といった具体的な場面では,まさに,Q&Aとして大きな力を発揮すると思われます。
 改訂版ではありますが,単なる改訂ではなく,大幅な内容の充実が図られていますので,お手持ちでない方はもちろん,初版を既に活用されている方にとっても,改訂版に目を通す意義は大きいのではないでしょうか。本書は多くの知財担当者にとって広大な「知財ライセンス契約」の海へ漕ぎ出す際の羅針盤となると確信しています。

(紹介者 会誌広報委員 Y.Y.)

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エンターテインメント法

編著 金井 重彦・龍村 全 編著
出版元 学陽書房 A5判 632p
発行年月日・価格 2011年5月26日発行 7,200円(税別)

 心豊かで文化的な生活を送る上で,人間の遊びの精神を満たすこと,すなわちエンターテインメント・娯楽は欠かせない。マンガ,アニメ,ゲームなどは,今や日本オリジナルの文化として,立派に世界に誇れるものである。一方産業上の観点からも,ソフトウェアやコンテンツなど,エンターテインメントに関わるビジネスは,現代の産業界の中核を成すものといえる。コンテンツの流通や利用の手段も,テクノロジーの革新とともに,紙媒体・CD等の販売や劇場公演といった従来の姿から,デジタルコンテンツ,インターネット配信,バーチャルライブなどに急速に多様化している。このような中で,エンターテインメントを巡る法制度,権利関係,業界構造などは複雑を極め,知財担当者としてもなかなか全貌が掴めないのが正直なところだと思う。
 「エンターテインメント法」とは明確に定義のある言葉ではないが,著作権法をはじめとする各知的財産権法や,放送,契約,表現規制,ファイナンス等々,エンターテインメントビジネスの場に適用される様々な法律を総称したものを指す。更に「ソフトロー」と言われる,法律上の規定はないものの,業界内で従うべきルールや慣行(例えばプロ野球のドラフト制度),権利の形態(例えばパブリシティ権)なども,この分野では重要な規範であり,広義のエンターテインメント法といえる。
 本書は,このように多岐にわたり日々変化し続けるエンターテインメント法について,様々な方面の専門家が多様な切り口で論考したもので,他に類を見ない画期的な一冊である。例えば音楽業界の場合であれは,音楽著作権ビジネスについて書かれた本は比較的多い。これに対し,ゲームソフト,プロスポーツ,テレビCM等の業界については,まとまった解説を目にする機会はあまりない。
 内容が豊富なので全部は紹介し切れないが,特に印象に残ったテーマとして「プロスポーツ」の章を挙げたい。現代のプロスポーツは,FIFAワールドカップやオリンピックに見られるように,放送権を巡る巨大ビジネスとしての側面がある。しかし自分のように特許を相手にしている者には意外だが,このような放送権は巨額で取引される一方,権利侵害を受けた相手に対する差止請求等による保護が受けられないという,言わば「脆弱な権利」なのだそうだ。これはスポーツに関する「権利」の多くが,法的な保護対象というより当事者同士の個別契約の積み重ねであり,競技団体内部の規約を基本としているため,外部に対する第三者的効力が弱いということに起因する。まさにソフトローの世界である。このようなプロスポーツに特有な業界構造の中で,興行,スポンサーシップ,選手,放送,商品といった様々な主体・客体がどのような権利関係にあり,いかなる法的根拠に基づいて,いかに契約実務等を進めるべきかが,明確かつ具体的に論じられている。必ずしも自分の業務に直結するテーマではないが,教えられることが多く,とても面白く読めた。  エンターテインメントを巡る法律,契約,ビジネスモデルに興味のある方に,是非一読をお薦めする。

(紹介者 会誌広報委員 T.Y.)

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米国特許訴訟Q&A150問

編著 阿部・井窪・片山法律事務所 編
出版元 日本国際知的財産保護協会 A5判 357p
発行年月日・価格 2011年6月27日発行 4,800円(税別)

 本書は,米国特許訴訟に関して,基本事項から細かいところまでを一問一答形式で簡潔に解説した,「かゆい所に手が届く」書である。
 
 一通りの米国特許訴訟のエッセンスについて,流れ通りに整理・学習できる内容になっている。
 
 「訴訟」とはいっても,実際の知財渉外・訴訟への対応は,警告書への対応から始まる。一口に「警告」といっても内容は様々であり,その対応も,無視すべきものから先手を打って訴訟をすべきものやカウンター訴訟を検討すべきものまで様々である。本書は,第一章「訴訟が疑われる場合の対応」から解説されており,事業を行う者である当事者の立場から,より実践的な解説となっている。
 
 第二章では,提訴の際の代理人選定や費用削減のコツ,共同代理・防御の場合の費用はどうなるのか,専門家証人の選定やそのコツなど,実際に訴訟を行わなければならなくなった場合に当事者の立場から疑問に思うことを解説している。
 
 第三章では,訴訟手続全般について簡潔に解説されており,特許訴訟の全体像が理解できる。また,Q&A形式なので,例えば,「サマリージャッジメントを得るにはどうすればいいんだっけ?」と思った場合には,そこのQ&Aだけを読めば,予備知識をすぐに得ることができる。
 
 第四章以降ではディスカバリー,秘匿特権,クレーム解釈と侵害の判断,各種の抗弁,損害賠償,トライアル,控訴審,ITC手続など,大きな論点を各章ごとに分類し,各種重要論点の詳細が整理されている。e-ディスカバリーへの備えについても纏められているので,参考になるものと思われる。
 
 最後の第十四章では,特許訴訟を睨んだ特許明細書の書き方について纏められている。これは渉外部よりもむしろ外国出願部にとって有益であろう。米国出願に際し留意すべきエッセンシャルな事項が纏められている。出願実務者にとっては,本章だけ読んでもよい。僅か18ページではあるがエッセンスが詰め込まれている。
 
 本著は,米国訴訟に関して,知りたい情報にアクセスしやすい構成となっており,米国訴訟対応をする部門であれば,是非とも手許におきたいものであろう。

(紹介者 会誌広報委員 K.S.)

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知財担当者のための実務英文入門

編著 櫻井 孝 著
出版元 オーム社 A5判 200p
発行年月日・価格 2011年8月20日発行 2,400円(税別)

 知財部門に在籍していると,なんらかの形で英語と関わらざるを得ない。海外特許中間手続の書類は英文が中心であり,少なくとも庁から通知された内容を理解する必要がある。知財部門配属直後,米国出願の拒絶理由通知を見ても不可解な数字(今から思えば特許法条文や判決の引用),独特の言い回しなどのオンパレードに気をとられ,審査官の言わんとするところがわからなかったものだ。“person with anordinary skill in the art”など,なぜここで「芸術」が出てくるのか?と思ったものである。
 昨今では海外企業との技術契約案件も増えつつあり,英文契約がスタンダードとなることが多いだろう。これまた,学校では習わない,場合によっては辞書にも載っていない表現の宝庫である。
 本書はこのような,知財関連英文の基礎事項を知りたい,再確認したい方にふさわしい。分量も適切で読み通す気になるのではないだろうか。
 英文と和訳が同ページに載っているので力試しとばかり,英文をまず読み下し,その後和訳を確認してみた。見事に自信は打ち砕かれ,意外に理解できていない表現,単語が散見され,誤った解釈をしていることが多いのが再認識できた。
 本書掲載の英文を読んであらためて感じるのは,知財関連英文の一文の長さである。とにかく長い。英文の構造がどうなっているのか,まずは大まかに把握しないと混乱してしまう。どこまでが主語で,動詞がどれ,目的語は?というのがなかなかわかりづらい。ただ,読み進んでいくうちに,把握するこつが掴めるような気がしてくるから不思議である。
 本書の特徴の一つとして挙げられるのは,取り上げた題材だろう。英文特許明細や,拒絶理由対応に留まらず,英文契約,さらには,いわゆる「ラブレター」(特許侵害警告状)や訴状等が選択されている。さらには最近話題になったビルスキー判決の判決文も記載されている。判決文の日本語解説は目にする機会も多いが,直接原文を読むことは考えもしていなかったので,興味深かった。判決文原文は難解だが,簡潔かつ適切な解説がなされ,理解に大いに役立つ。
 知財部員はもちろん,技術部門など英文特許明細,英文契約にふれる機会のある他部門の方にも是非読んでいただきたい。認識不足だった点,誤解していた点など,意外な発見があろう。

(紹介者 会誌広報委員 A.N.)

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