新刊書紹介

新刊書紹介

企業再生と知的財産−知財活用の新たな局面−

編著 津野 孝 監修
春田 泰徳・鈴木 公明 著
出版元 経済産業調査会 A5判 190p
発行年月日・価格 22011年6月17日発行 1,600円(税別)

 2011年は,企業環境の悪化を招く東日本大震災,円高,タイの洪水などが連続し,「企業再生」は多くの日本企業に共通の課題となった。
 本書は,企業再生を成功に導くためには,知的財産の問題の検討が不可欠であると説いている。様々な企業再生の方法の中での知的財産の位置づけ,企業再生と知的財産との関係について平易に解説している。
 近年,「誰もが知っている企業が再生を必要とする事態に陥って」おり,企業再生は,決して対岸の火事ではない。「企業を再生するためには,事業面と財務面の改善をしなければならない」。しかし,「知的財産は,これまで企業再生が語られる場においては,あまり注目されてこなかった」。「企業再生を成功に導くためには,事業面,財務面での改善や,組織再編などの局面で知的財産の問題を積極的に検討することが不可欠であり,今後その重要性はさらに増すであろう」と説明している。
 知的財産は無形資産であるためバランスシートには計上されないことが多いが,企業に利益をもたらす経営資源である。本書は,以下のように知的財産を企業再生に活用していく手法について,具体的に解説している。
 先ずは財務と事業のデューデリジェンスを行った上で,SWOT分析などを活用して知的財産のデューデリジェンスを行っていく。再生可能性が高い事業について,知的財産権によって十分保護され,同業他社に対する参入障壁を築いているか,コア技術を保護する権利網に穴はないか,ノウハウについては管理状況が適切か,同業他社との比較において知的財産力は優っているか,などを精査した上で検討を行っていくことを述べている。こういった知財価値評価を行った上で,再生計画をどう作成すべきかについて記述されている。
 全体として財務についての説明が多いように思えるが,企業再生において知的財産がどのように関わっていくべきかといった観点での書籍はこれまでなかったため,初めてその領域について示した本書は価値ある書籍ではないかと考える。

(紹介者 会誌広報委員 Y.O.)

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「独りの力」から「つながりの力」へ 模倣品対策の新時代

編著 漆原 次郎 著
出版元 発明協会 新書判 194p
発行年月日・価格 2011年8月26日発行 953円(税別)

 権利化やライセンス交渉などと並んで,自社製品の模倣品対策は,特に海外に市場を持つメーカーの知財担当にとって重要な業務である。しかし模倣品対策は,そもそも法律や契約の外のできごとを扱う独特の世界であることから,何をどのような手順で進めればいいかといった教科書的な手本が少なく,全てケースバイケースの対応を取らざるを得ないという難しさがある。知財的には特許を取れば法律上の権利が保証されるのは確かだが,それを犯してまで侵害行為を強行してくる相手に対しては,知恵を絞った地道な対処を行わなければならないだろう。
 本書は,模倣品被害の最新事情,これに対してたたかった日本企業の対策事例,官・民・国際協力会議など各方面での取り組みの最新情報,将来の模倣品対策のあるべき姿,などについて分かりやすく紹介した好著である。
 一読して感じるのは,実際に関係者から得た生の声が豊富であるため,現場の実態が手に取るように分かることである。丹念な取材が本書にうまく結実しており,一般論や理想論に陥ることがなく,退屈せずに興味深く読み進めることができる。特に,国際展示会における日本企業と中国の模倣品メーカーとのやりとりなどには,臨場感がある。
 前半部分では,中国を中心にした模倣の実態が紹介されている。確かに,国民性や文化の違い,あるいは歴史的事情などにより,中国での模倣品被害が多いのは統計的にも事実だろう。しかし最近は中国においても,経済・産業の急成長と共に知財制度の整備が急速に進み,官民とも知財意識は高まっていると思われる。本書でも日中の「知的財産ワーキング・グループ」の取り組みが紹介されているが,そこからも中国政府の意識の高さが実感できる。中国のみならず,台湾,韓国なども模倣品被害の多い地域といわれているが,これらの国は日本にとって大切なパートナーでもある。今後も良好な関係を築いていくためには,官民いずれのレベルにおいても,お互いに協力しながら知的財産権侵害の撲滅に向けた努力を進めることが必要であろう。
 “「独りの力」から「つながりの力」”へと題されているように,本書を通して伝わってくるのは,「模倣品対策は独りではできない。皆の協力が大切だ」という主張である。「皆」には,日本と外国,官と民,企業同士,省庁間,JETROなどの独立法人など,様々なレベルがある。まさしく様々なレベルの「皆」が手をとりあって連携協力することが重要なのである。これは模倣品対策に限らず,これからの日本の復興全般にもいえることだと思う。
 本書の裏表紙には,皆が腕を組んで“ANTICOUNTERFEIT!”と声を上げているイラストが載っている。このイラストに本書の内容がよく現れていると思う。

(紹介者 会誌広報委員 T.Y.)

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