新刊書紹介

新刊書紹介

欧州特許出願実務ガイド

編著 酒井国際特許事務所企画室 編
出版元 経済産業調査会 A5判 360p
発行年月日・価格 2011年8月22日発行 3,500円(税別)

 本書は,出願人の立場に立って,欧州特許出願実務について詳しく解説している。実務上重要となるEPC2000のポイントや,最新の改正規則の重要ポイントについても解り易く表形式で纏められている。また,類書には記述の少ない,審判手続き,登録時及びその後の手続も詳しく解説されている。初学者には欧州特許条約の概要や,欧州特許制度の概要だけでも非常に参考になるであろう。

 欧州独特の料金体系や,手続言語,締約国の指定,優先権の申立,手続書類等の形式的ポイントについても詳しく解説されているため,出願時に,特に気になる事項については,必ず知ることができると思われる。

 また,欧州独特の進歩性判断手法である「課題解決アプローチ」についての解説では,当該アプローチの各ステップ,すなわち,「最も関連した先行技術の特定」,「客観的技術課題の設定」,「進歩性の評価(could-wouldアプローチ)」まで,具体例を交えながら解り易く解説されている。

 さらに,何かと通知(communication)が多いと感じる欧州特許出願実務であるが,その一つの原因とも思われる欧州サーチレポートがどのような流れで発行されているのか,類型ごとに図を用いて解説されている。「なるほど,今回はこれが原因でサーチレポートの前にこのcommunicationが来たのか。」ということがわかると,仕事(実務)が楽しくなると思われる。

 最後に,新規事項追加違反が厳しいイメージのある欧州の補正要件に関して,本書のアドバイスは参考になる。欧州特許出願で補正可能な範囲は,「出願当初の出願内容を超える主題を含めないこと(EPC123条(2))」と規定されているが,一般論としては,「補正可能な範囲は当業者の知識を持って出願当初の明細書および図面から直接的且つ明確に導き出せるものに限られる」と解説されている。ここで,国際特許事務所として長年培ってきた実務ノウハウの登場である。注記に,「明細書中の文言と異なる文言を用いてクレームを補正すると,往々にしてEPC123条(2)の要件に該当しないと指摘される。」と記載されている。

 このような実務ノウハウが随所に散りばめられているのである。なるほど,これは実務家にとって,参考になる。

 本書は,欧州への特許出願を担当する実務家が是非とも手許においておきたい書籍である。

(紹介者 会誌広報委員 K.S.)

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審決例・判例から学ぶ韓国特許制度のポイント

編著 権 東勇・松居 祥二 著
出版元 発明協会 A5判 568p
発行年月日・価格 2011年8月22日発行 4,600円(税別)

 紹介者は,韓国の特許法については日本の特許法を基に制定された,という程度の知識しか持たない初学者だが,本書では韓国特許法のポイントが要領よくまとめられ,疑義のある項目については判決・審決例からその外延がつかめるため,分かりやすかった。
 また,小見出しや判例・審決例で内容に2〜3ページ以内で区切りがついているため,まとまった時間が取れなくとも,ちょっと時間があるときに切りの良い所まで少しずつ読み進めることができたので,時間のない人でもさほど苦労なく読み進められると思われる。
 本書は,韓国特許法の内容を出願手続,特許要件,審判,(審決取消)訴訟,に分けて,それぞれポイントを概説して,判例・審決例で具体的な規定の外延をつかむ構成となっている。
 特許要件については,新規性・進歩性の判断は日本と大差ないように感じたが,これは,TRIPS協定以来の国際的な制度調和の結果のように思われた。また,特徴的なのは,医薬物質の塩化合物・水和物・結晶多形体・光学異性体,用途発明やバイオテクノロジー発明など化学・薬学関係の記載が充実していることで,化学系の読者にとっては特に役立つ内容となっている。
 審判については,日本には相当するものがない(敢えて言えば判定制度に近いかもしれない)権利範囲確認審判についても詳しく触れられており,興味深かった。
 巻末に現行の韓国特許法(2011年現在)が掲載されているが,日本同様,韓国でも特許法の改正が頻繁にあるので,その時その時で最新の情報をチェックする必要があると思われる。
 全体を通して見ると,ハングルを解さない人でも,韓国の特許法関係の豊富な判例に接することができ,便利でお勧めできる。
 ただ,判例のナンバリングについては,小見出しごとになっているので,「詳細は前出のものを参照」と書かれているところで該当ページを参照するのが分かりづらかった。改版時の改善を期待するものである。

(紹介者 会誌広報委員 N.I.)

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知的財産戦略 技術で事業を強くするために

編著 丸島 儀一 著
出版元 ダイヤモンド社 A5判 328p
発行年月日・価格 2011年10月6日発行 3,600円(税別)

 40年に渡りキヤノン特許部隊を率いてこられた著者による知財戦略に関する待望の書籍が出版された。知的財産戦略に関する書籍は数多く出版されているが,それらとは一味違う,現場で培った戦略論が数多く論じられている。実務経験に基づく書籍であるため,その一言一句に説得力があり,企業の知財担当者にとってすぐに実践に使えるバイブルとなる教科書ではないだろうか。
 以下,目次を示す。あらゆる角度から検討されていることがうかがえる。

第1章 知的財産経営とは何か
第2章  事業競争力を高める知財活動環境の構築
第3章 研究開発における知的財産戦略
第4章  事業戦略に適った知的財産権の形成戦略
第5章 事業を強くする知的財産活用
第6章 技術の国際標準化戦略
第7章 アライアンス(提携)戦略
第8章 紛争の予防と解決の活動
第9章 知的財産立国,技術立国への論点

 本書の特色の一つは,数多く掲載されている網掛けのコラムである。著者の経験談が詳細に記載されている。入社当時のことから,ゼロックスに対抗するためにどのような特許戦略をとってきたのか,といった古い話だけかと思いきや,決してそんなことはなく,ごく最近の話題にまでふれている。例えば,デジタルカメラへの移行の話が掲載されている。キヤノンはフィルム一眼レフカメラではトップメーカーであったもののデジタルカメラへの移行では後塵を拝する立場になってしまったが,半導体メーカーと協力し,いかにして移行することができたのか,ということが詳細に記載されていて大変興味深い。アップルのスマートフォンによるクローズド戦略やグーグルのAndroidによるオープン戦略についても書かれている。また最近の法改正で「ライセンシーの当然保護」の内容を含む法律が公布されたことについても触れている。そのほかにも多くのエピソードや著者の意見を知ることができ,コラムを読むだけでも楽しい。
 著者は「あとがき」において,「相手の権利を尊重し,自社の権利を大事にするのが,グローバルな視点で見た場合,日本企業にふさわしい生き残りの戦略であると考える」と説いている。40年に及ぶ知財キャリアだからこそ言える言葉である。本書をじっくりと読み,知的財産を生かす経営とはいかにあるべきか,を学ぶには最適な一冊ではないかと思う。

(紹介者 会誌広報委員 Y.O.)

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