新刊書紹介

新刊書紹介

決定版 改正米国特許法全理解 −2011年改正法により何が変わるか−

編著 河野 英仁 著
出版元 ILS出版 A5判 200p
発行年月日・価格 2012年1月15日発行 3,000円(税別)

 2011年9月16日オバマ大統領による米国特許法改正法案(Leahy-Smith America InventsAct,以下AIA)へのサインによって,米国特許法は大改正されることになった。改正の目玉はなんといっても先発明主義から先願主義への 移行である。今回の改正は非常に多岐にわたっており,特許の権利化,有効性判断,特許交渉,訴訟などあらゆる場面で日本企業の知財活動に 影響を与えるため,改正内容を正確に把握しておくことは,将来の知財戦略を考える上で非常に重要なことである。

AIAではオバマ大統領のサイン日を基準に各規定が段階的に施行されるため,第1章で各規定の施行日がまとめられている。今後の交渉, 訴訟で扱う特許は先発明主義に基づくものと,先願主義に基づくものとが混在して扱われていくため,このようなまとめは実務者にとって大 変ありがたい。

第2章から第21章で各規定の内容が説明されている。各規定の説明では,改正前,改正後の条文が表を使って比較されている。また,複雑 な規定については,理解しやすいように図を用いて解説されている。

特に今回の改正の目玉である102条の規定は, (a)項の原則および(b)項,(c)項の例外規定があり,どのような規定となっているか理解しにくくなっているため,図を用いた解説はあり がたい。また,102条(b)項の新規制喪失の例外規定によれば,例外適用期間が「1年以内」となっているが,欧州,日本及び中国はいずれ も「6月以内」としており,優先権を用いて米国に出願する際は注意が必要である。これについても表を用いて注意点が説明されており,理 解しやすくなっている。

もう一つの大きな改正点として,特許権者以外の者が請求できる付与後レビュー制度が新たに導入された。当事者系レビュー,査定系再審 査と制度比較された表が掲載されている。従前はビジネス方法特許に対してのみ認められていた先使用権が,ビジネス方法特許以外に も拡大適用された。本規定は既に施行されている。日本における先使用権の規定とはいろいろと異なる点もあり,今後の規則,判例などにアンテナをはっておくことが実務者には必要であろう。

今回非常に多くの改正がなされているが,米国は判例法の国である。今後どのような判例がでてくるか,継続して注意していく必要がある が,まずはその前にきちんとした改正法の理解が必要となる。そのために実務者にとって本書は必須書籍ではないかと思う。

(紹介者 会誌広報委員 Y.O.)

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PATENT PRACTICE IN JAPAN AND EUROPE ― Liber Amicorum for Guntram Rahn ―

編著 Bernd Hansen, Dirk Schüssler-Langeheine 編
出版元 Wolters Kluwer 24.8×16cm 827p
発行年月日・価格 2011年6月20日発行 $265

 本書は,JIPAの賛助会員でもあるHoff mann-Eitle特許法律事務所のパートナーの一人として,また長年に亘って日独の知的財産分野で弁 護士活動をされてきたRahn先生の退職記念を祝し,また日独友好条約締結150周年を記念して,同事務所のHansen弁護士とLangeheine弁 護士の発案によって,ドイツ,日本等における知的財産分野の60名以上の有識者がそれぞれの知的財産専門分野について執筆された論文(総 数54本)を纏め,全世界に向けて出版されたものです。

日本からは20名の裁判官,弁護士,学者,産業界の有識者が執筆され,またドイツからは25名の有識者が執筆され,更に日独以外の国から も20名の有識者が執筆されており,さながら各国におけるこの分野の有識者が一堂に会した感がする書籍です。

本書は,全8部から構成され,第1部:知的財産の一般的課題,第2部:特許手続と特許性要件,第3部:特許訴訟制度,第4部:特許訴 訟〜手続法,第5部:特許訴訟〜実体法,第6部:医薬分野における特許実務,第7部:職務発明法,第8部:実用新案法,の各部において, それぞれ日独を中心とした各国法について,各論者の考えが詳述されています。

ドイツ特許法(各国法)を理解することは,ドイツ(各国)で特許を取得する際に必須であるばかりでなく,ドイツ民事訴訟法(各国法) を理解することは同国(各国)で特許訴訟を(原告のみならず被告としても)進めるに当たって必須となりますが,本書には特にこれら重要な 事項について執筆された論説(自説)が収められております。

特に,興味を引く論説としては,以下のようなものがあります。

  • ・ The Court of Justice of the European Union
  • ・ Keeping the Patent-Eligibility Door Open for New Technology
  • ・ The New German Nullity Procedural Law: A Means to Shorten the Length of the Proceedings ?
  • ・ Protection of Confidential Information in Patent Litigation in Germany
  • ・ The German Act on Employees’ Inventions:Time to say Goodbye ?
  • ・ Corporate Remuneration System for Employees’ Inventions in Japan and Germany
  • 結語として,JIPAで副理事長まで務めていただいた鈴木元昭氏(JFEテクノリサーチ)が,Rahn先生を“日独間の民間知財分野の架け橋” と評していますが,日本企業の実務家のみならず,裁判官,弁護士,学者の多くが,時には同先生と意見を交わし,時には教え・指導を受け,両国の知財分野の発展に大きな貢献をしてきた ことはまぎれもない事実です。

    日本だけではなく,ヨーロッパ等で事業展開しているグローバル企業の実務家にとって,それぞれの国の知的財産制度,司法制度の考え方 を熟知することは必須であり,1冊の書籍でこれだけのテーマについて紹介された書籍は他にはないかと思われますので,お薦めします。

    (紹介者 会誌広報委員 H.D.)

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    ビジネスモデルイノベーション

    編著 渡部 俊也 編
    新宅 純二郎,妹尾 堅一郎,小川 紘一,立本 博文,高梨 千賀子 著
    出版元 白桃書房 A5判 210P
    発行年月日・価格 2011年11月16日発行 2,500円(税別)

     「東京大学知的資産経営総括寄付講座シリーズ(全3巻)」は2007年10月より2011年9月までの間,東京大学に設置された知的資産経営総 括寄付講座による研究成果のハイライトをまとめたものである。

    上記寄附講座の目的は,知的資産が組織の競争力や収益に結びつくメカニズムを学際的に探求することによって,そこで必要なイノベーシ ョンマネジメントを明らかにし,技術開発とビジネスモデルが知的資産と相互作用を起こして利益を創出するという好循環が生まれるための経営の要諦を明らかにすることにある。第1巻では,知的資産を競争力に結びつける競争戦略とそれを実現するビジネスモデルについての議 論がまとめられている。

    初めに,上記目的の必要性を理解してもらってから,各章の説明を行うこととする。

    DVD技術は1994年ごろから開発が始まり,必須特許の90%以上を日本企業が取得しているにもかかわらず,日本企業のシェアは20%以下 である。液晶技術においても,日本登録特許の98.5%を日本企業が取得しているにもかかわらず,液晶パネルのシェアは10%前後となってい る。つまり,特許の数や質を中心とした排他権にのみ注力した伝統的な知財管理が全く通用しないということである。

    以下に,本書の内容について紹介する。第1章の「コンセンサス標準をめぐる競争戦略」(新宅純二郎)では,オープン(標準化)クローズ(差 別化)の切り分けについての重要性を説いている。第2章の「標準規格をめぐる競争戦略」(立本博文・高梨千賀子)では,複数企業の合意で 決まる標準規格によって普及はするが,利益を上げるためには,クローズ領域に自社の付加価値を創出するポジショニング戦略が重要であることを説いている。第3章の「知財立国のジレンマ」(小川紘一)では,オープン環境において, 知財をビジネスモデルの中でどのように活用し,企業の国際競争力にどう寄与させるかということにフォーカスした知財マネージメントが重要であることを説いている。第4章の「単体・単層から複合体・複層へ」(妹尾堅一郎)では,製品をシステムまで取り込んだ複合体とし,ビジネス領域をネットワークやアプリケーションのレイヤーにまで視野に入れた立体的モデルとして組み立てることの重要性について説いている。第5章の「ロボット機械としての電気自動車」(妹尾堅一郎)では,自動車が電気に変わることにより,組み合わせ型の製品となり,スマートグリッドの世界では,複合体・複層化へ加速することを指摘している。第6章の「アジアの製造業における新たなキャッチアップと製造技術プラットフォーム」(新宅純二郎)では日本企業が供給するコア部品,材料およびノウハウまで織り込んだ製造装置の導入が,韓国企業の短期キャッチアップの成功理由であるとい うことを論じている。

    この本を読み終え,“知財部門,R&D部門,事業企画部門と一体となった組織横断型のタスクフォースを組み,ビジネスモデル全体の中で 知財の活用方法を検討する仕組みの構築”が必要であると感じた。

    (紹介者 会誌広報委員 M.O)

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    年報知的財産法2011

    編著 高林龍,三村量一,竹中俊子 編
    出版元 日本評論社 B5判 264p
    発行年月日・価格 2011年12月10日発行 4,700円(税別)

    昨年は,日本,米国で相次いで特許法改正案が成立するなど,知財を巡る動きの大きい1年だった。そのような2011年の知的財産法に関す る情報を様々な面から論ずべく,各分野の気鋭の研究者・実務家が結集してまとめ上げたのが本書「年報知的財産法2011」である。 本書の構成を簡単に紹介する。

    巻頭は,本書の編者による座談会で幕を開ける。特許,著作権,商標,不競の各法域のホットな話題に関して,活発で中身の濃い議論が交 わされており読み応えがある。

    続いて,判例,学説,政策・産業界,諸外国などの分野における2011年の動向を分析・紹介する章となる。各分野の豊富なトピックに,そ れぞれの専門家が詳しい解説を与えており,本書のメインパートとなる部分である。いずれも力のこもった素晴らしい解説で,読後得るもの が非常に大きかった。

    最後に今年度版の特集記事である「電子出版をめぐる著作権法上の課題」で締めくくられる。 昨年は電子書籍端末やコンテンツが急速に普及した年でもあった。同時に電子書籍に関する著作権上の問題もにわかに顕在化してきており, 実務家の関心も高いところである。この分野の専門家たちによる本章の論説は,どれもタイムリーかつ充実した内容で,教えられるところが 多い。

    以上が本書の全体構成であるが,メインパートの中の「学説の動向」では,この1年に発行された知的財産権法に関する書籍や論文が法域 毎に紹介されている。紹介文献は,書店で入手可能な基本書・概説書から学術誌に掲載された専門的な論説まで多岐にわたり,他に類を見な いほど緻密に網羅されている。更に単なる文献リストに留まることなく,各分野の専門家が熟読した上で的確な解説,評価を付しているとこ ろが大きな特徴である。最近は文献サーチにインターネットを使うことも多く,本による本の紹介は相対的に減ってきているように感じられ る。しかし,キーワードを頼りに文字通り機械的に検索しても必ずしも有益な情報が得られるとは限らないし,膨大な検索結果からどれが本 当に必要なものかを見極めることも簡単ではない。その点,専門家の手引きにより必要な文献に正しく導いてくれる優れたガイドブックは依 然として大変貴重である。この意味で,本書の文献ガイドとしての役割が大きいことが分かる。

    実務家にとっては,1冊で年間を通した知財の動きを概観することができ,色々な分野のまとまった情報を得たい,というのが欲張りな要 望であるが,本書はそれを満足させてくれる年報である。

    今年もまた色々な動きがあり,12月には「年報知的財産法2012」が出ることと思う。そこでは「日本の産業界が再生に向けて大きく前進し た1年であった」と総括されていることを願う。

    (紹介者 会誌広報委員 T.Y.)

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