新刊書紹介

新刊書紹介

特許法における明細書による開示の役割 ─特許権の権利保護範囲決定の 仕組みについての考察─

編著 前田 健 著
出版元 商事法務 A5判 434p
発行年月日・価格 2012年7月1日発行 8,000円(税別)

本書は,現在神戸大学大学院法学研究科で准 教授として教鞭をとられている著者が東京大学 に提出した助教論文に加筆修正が加えられ出版 された研究書である。

特許を取得するうえで,特許請求の範囲と発 明の詳細な説明とはどのような関係にあるの か,記載要件上,発明の詳細な説明は権利範囲 にどの程度影響するのか,多くの実務家の興味 のあることと思う。紹介者も実務者の一人とし て,記載要件の位置付け・理論的な体系を知る よい機会と考え,本書を手に取った。

ご存知の通り,拒絶理由や無効理由の対象と なるのは,特許法36条4項1号(実施可能要件), 36条6項1号(サポート要件),36条6項2号(明 確性要件)の3要件である。本書ではこれらの 法概念上の位置付け,相互関係に関して,法改 正・歴史的な側面,諸外国との比較法の側面, 審査基準や裁判例に基づく実体的な側面から網 羅的な調査・分析が行われ,それぞれの条文の 役割の体系的な解明が試みられている。さらに記載要件に関連して,優先権主張の有効な範囲, 補正・訂正の許容される範囲,引用発明として の認定等も詳細に検証されるとともに,記載要 件を主眼においた特許権の保護範囲,均等論や 特殊クレームにおける権利範囲の検討まで議論 が及ぶ。

本書では一貫して,「実施可能要件」と「サ ポート要件」は表裏一体との立場をとっている。 特許請求の範囲からの検証か,発明の詳細な説 明からの検証か,の視点・方向の差異であり, 実質的には両者は同一の要件であるとして多く の検証が行われている。

一方,本書でも言及がある通り,最近,知財 高裁は記載要件の3要件の在り方・役割分担に 対しそれぞれ別個に意義を見いだし,独立した 要件であることが判示されており,各要件の考 え方に一石を投じている。今後も記載要件の解 釈に関する動向からは目を離せない。

本書は,冒頭に述べたように,実務書という よりは,研究書であり,特に理論体系の理解を 求める方にお勧めしたい。特許法における記載 要件の理論を知ることは実務者にも有益であ り,紹介者には記載要件について考え直すよい 機会となった。より一歩進んだ理解,考察をさ れたい方はトライされてはいかがだろうか。

(紹介者 会誌広報委員  S.Y.)

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新・注解 不正競争防止法

編著 小野 昌延 編著
出版元 青林書院 上巻A5判 848p,下巻A5判 730p
発行年月日・価格 2012年6月15日発行 上巻9,300円,下巻8,000円(税別)
前回改訂から5年を経て,「新・注解 不正 競争防止法」が改訂された。昨今の日本を取り 巻く情勢や日本国内の社会構造変化によって同 法の持つ意義は,これまで以上に高まっている。

また,最近の報道により,自社の情報流出等が もはや対岸の火事ではなく,社内制度等を早急 に見直す必要性を感じている方も多いのではな いだろうか。このような状況下での本書の改訂 は,まさに「待望」といって良いだろう。

それにしても,分厚い。書店でこの本を目に したとき,わずか31条のみの不正競争防止法に これほどまでの解説が必要なのかと正直,感じ た。しかしながら多くの裁判例等によって補わ れている同法だからこそ,これほどの解説が必 要なのだと,読後には納得していた。不正競争 防止法の「今」を知るためには,日々蓄積され る裁判例や度重なる法改正が必要となるが,最 新の裁判例・学説等を網羅し,また,頻繁な法 改正に対応しつつ,さらに,経験豊富な弁護士・ 弁理士の諸先生方が執筆者として名を連ねる本 書の役割は大きく,まさに,日々実務に追われ る知財関係者の「頼れる一冊」となろう。

ところで本書は,出版社自らが喧伝するよう に「不競法のコンメンタールの決定版」である ことは読者諸氏も認めるところであろう。本来, コンメンタールは,通読するものではなく,必 要箇所のみをいわばつまみ食い的に参照するよ うな使い方が一般的だろう。だが,特許法を中心とした他の知財関連の法律に比較し,不正競 争防止法を専門に担当する知財関係者はそれほ ど多くはないと思われる。このような状況で本 書は,「不競法の基本書の決定版」でもあると 私は思っている。業務上関係する全ての法律の 意義・社会的役割等を理解することは有益であ る一方,日常業務であまり携わることのない分 野について,基本書等を通読した上に,常日頃 から裁判例等に目を通すのは容易なことではな い。

本書は,コンメンタールとしての解説はもち ろんのこと,冒頭の充実した総論部分や各条項 における詳細な論点解説等もなされている。私 自身,読後には不正競争防止法の各条項の理解 が高まったとともに,漠然と捉えていた同法の 意義・論点等が自分の中に取り込まれている感 覚があり,まさに,一冊の基本書にじっくりと 取り組んだような効果を感じている。確かに分 量は多いものの,基本書を兼ねていると考えれ ば,決して多すぎることはないと思われる。

ぜひ,連休等,時間的な余裕のあるときに, 一読をおすすめする。逐条解説独特の読みにく さ・理解しづらさ等の抵抗感を,それほど感じ ないため,スムーズに本書を読み進めることが できる。それは,多くの執筆者が関わられてい るとは思えないほど統一感をもって執筆されて いることも大きな理由と思われる。ここにも, 本書にかける編者の強い意志・思いを感じる。

しかも,はしがきにおいて編者が本書刊行直 後にもかかわらず,時代の要請を意識し,次の 改訂を見据えておられることは驚きであり,改 めて深い敬意を感じるところである。

(紹介者 会誌広報委員  Y.Y.)

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現代知的財産法講座 知的財産法学の歴史的鳥瞰

編著 高林 龍・三村 量一・竹中 俊子  編集代表
出版元 日本評論社 A5判 400p
発行年月日・価格 2012年6月10日発行 4,200円(税別)
現代知的財産法講座は,今後10年,20年とい った長い期間にわたって読み続けられる,知的 財産法学の英知を集めた講座として企画され, 全4巻で構成されている。

本書は第4巻「泰斗編」であり,泰斗に相応 しい執筆者14名の論考が編まれている。以下に, 各論考を掲載順に示す(「 」は本書の表題)。 「昭和34年法(特許法)の技術的範囲について」 では,特許法施行当時の技術的範囲の考え方や, 70条,36条の変遷が巡られている。「特許ライ センス契約と当然対抗」では,平成23年度法改 正のうち,実務に及ぼす影響が大きい通常実施 権許諾契約の解釈運用の問題点が検討され,「ク レーム解釈覚書」では,リパーゼ事件などを題 材に特許請求の範囲の解釈について大筋を率直 に述べられている。「権利濫用の抗弁から権利 行使制限立法への変遷」では,キルビー抗弁か ら権利行使制限立法への変遷過程が俯瞰・整理 され「差止請求権の在り方と差止請求権のない 実用新案権の創設」では,差止請求権について, 特許制度の目的からみて一考を要する8つの場 合をあげ検討されている。

続く意匠2編「デザインの本質と意匠保護」「意匠制度の将来」では,美感に関わる問題や 保護制度の拡充が考察されている。著作権に関 しては「日本著作権史素描」において,印刷技 術の始まりから著作権法と貸与権の創設等の歴 史を辿り「著作物の表現上の本質的特徴につい て」で,著作物の本質的特徴を裁判所は判断で きるのか検討がなされ「わが国著作権法におけ る著作者人格権と職務著作」では,著作権法制 の原点と目される創作者・著作者の位置づけに 取り組まれている。

その他,例えば,「芸能プロダクションの生 成とそれを巡る若干の問題」では,プロダクシ ョンの生成過程や著作隣接権をもつ可能性が考 察され,「法曹60年を顧みて」では,昭和戦前 のうどんの友事件から商標法の分野の論点を指 摘されている。営業秘密保護に関しては「日本 の不正競争防止法における営業秘密の保護の強 化と日米欧の比較」「TRIPS協定の交渉によっ てもたらされた営業秘密保護規定の整備」にお いて,民事規制の類型,刑事罰の類型が理解し やすく説明され,国際取引法の一裁判例として ワウケシャ事件を解説されている。

歴史的鳥瞰という表題の通り,各論考の内容 は広く,上記説明は極々一点でしかない事をご 承知置きいただきたい。本書は即,実務に役立 つ類の書ではないが,知的財産法学の重厚な礎 を学ぶには良書であろう。読む前は怯んだが理 解しやすく,知識や見解が蓄えられる実感があ り,意外に楽しく読めたことも記しておく。

(紹介者 会誌広報委員 K.I.)

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