新刊書紹介

新刊書紹介

イノベーターの知財マネジメント 
「技術の生まれる瞬間」から「オープンイノベーションの収益化」まで

編著 渡部 俊也 著
出版元 白桃書房 A5判 360p
発行年月日・価格 2012年9月26日発行 4,000円(税別)
本書は,サブタイトルにもあるように知財が 生まれる川上から,権利活用の川下までにおい て,イノベーションを生み出すためにどのよう な知財マネジメントを行えばいいのか,といっ たことが,筆者の経験を踏まえて事例を交えつ つ詳細に検討された内容となっている。特に知 財マネジメントに関与しているマネジャーが抱 えている悩み,すなわち「自分たちの生み出す 知的財産権が,どのように企業に貢献している のか分からない,または,企業の競争力と収益 に,明確に貢献していないかもしれない」とい う懸念に対して,過去の成功事例を挙げながら, 実際に知財の創造や活用の場面で,組織がどの ようなマネジメントを行うとどのような結果が 期待できるかについて,実証的データやケース を用いて検討している。そして,企業が生み出 した不確実な技術を対象とする知財の使い方や オープンな知財の使い方を見出そうとしてい る。

2〜4章の不確実性の高い技術に関する知財 マネジメントでは,不確実性を相当程度含む技 術についての基本的な知財マネジメントの考え 方を述べている。即ち,技術が完成し市場に受 け入れられるまでの多額の投資に対して特許出 願をして権利化するのか,秘匿するのか,とい った戦略についての考え方を解説している。事例としては,カーボンナノチューブ,コカコー ラ, 垂直磁気記録方式研究,iPS細胞研究, LED開発,電気自動車などが挙げられている。 5章の技術を独占するための知財マネジメン トでは,技術独占と参入障壁のためのプロプラ エタリー(proprietary)な伝統的な知財マネ ジメントについて述べている。特許制度が生ま れてから行われているのがこの戦略であり,大 企業から中小企業,医薬品から素材技術,リサ ーチツールなどの川上技術からビジネスモデル の特許化に至るまでの事例をあげて説明してい る。事例としては,白色LED,デジタルカメラ, リサーチツール,逆オークションなどが挙げら れている。

6〜7章のオープンな知財マネジメントの機 能と仕組みでは,「技術の共有化」を促進して イノベーションを誘発するオープンな知財マネ ジメントを解説している。特にライセンス契約 の戦略性について着目し,事例としては,光触 媒技術,半導体技術,技術標準,ソフトウェア など様々な戦略が挙げられている。

8〜9章のオープンイノベーション戦略を含 む多様なイノベーション戦略に関する知財マネ ジメントでは,プロプラエタリーからオープン イノベーションまでのバリエーションで行われ る知財マネジメントを整理し,知的資産を収益 に結び付けるためのモデルを紹介している。

「製品,市場,企業の特異性によって,知財 マネジメントが異なるのだろう」という漠然と したイメージはあったが,本書により明確にな った。日本企業がとるべき知財戦略を練る上で 参考になる一冊だろう。

(紹介者 会誌広報委員  Y.O.)

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現代知的財産法講座供|療財産法の実務的発展

編著 高林 龍・三村量一・竹中俊子 編集代表
出版元 日本評論社,A5判,448p
発行年月日・価格 2012年9月20日発行 4,700円(税別)
本書は,知的財産法学の現時点における英知 を集めた講座として企画された全4巻の第2巻 目である。第1巻では研究者と実務家による理 論的探究として執筆されているのに対して,本 書の第2巻では裁判官,弁護士ら錚々たる10名 を超える著者によって実務的発展として執筆さ れている。執筆カテゴリーは第1巻と同様に「特 許法」,「著作権法」,「商標法・不正競争法」の 3つのカテゴリーに分かれておりそれぞれ各テ ーマに沿って論説されている。

本書のテーマと執筆者は以下のとおりであ る。

  • 特許法(7テーマ)
    発明とは何か,新規性,進歩性,記載要件; 飯村 敏明著/クレーム解釈(1);森 義之著 /クレーム解釈(2);東海林 保著/特許権の 消尽;三村 量一著/無効の抗弁;岩坪 哲著 /損害賠償;田 和彦著/職務発明対価請求 訴訟について;設樂 隆一著
  • 著作権法(3テーマ)
    著作物性と著作物の複製・翻案;睇眞規子 著/著作者人格権;小倉 秀夫著/共有著作 権,著作者人格権の行使;椙山 敬士著
  • 商標法・不正競争防止法(3テーマ)
    商標権の行使と商標の機能;松村 信夫著/ 不正競争防止法2条1項3号の形態模倣と先行 者の地位;古城 春実著/営業秘密の国際的侵害行為に関する適用準拠法;飯塚 卓也著
企業の実務者は知的財産法の中では特許法に かかわるさまざまな問題に直面することが多い ため上記3つのカテゴリーのうち「特許法」に 関するテーマの割合が多いことに納得できる。

「特許法」のカテゴリーでは,特許庁におけ る出願手続きや拒絶対応,あるいは訴訟等の紛 争処理で対応するために企業の実務家が知って おくべき重要なテーマを取り上げており審査基 準や判例の論考を通して各テーマが丁寧に解説 されている。

「著作権法」のカテゴリーでは,著作権につ いて支分権として中心的地位を占める複製権と 翻案権をテーマとして取り上げており著作権訴 訟の判例から丁寧な論説を行っている。他の重 要テーマとしては著作者人格権を取り上げてい る。

「商標法・不競法」のカテゴリーでは,商標 権の権利行使とその制限をめぐる判例及び学説 の議論を考察し問題提起を行っている。また, 新しいタイプの商標として音の商標が導入され た場合における将来的課題も述べられており, とても参考になる。

このように本書は,著名な執筆者による最良 の論説書として学生から企業の実務者らにとっ てお薦めできる必読の書であろう。知財歴が浅 い紹介者にとって,読みやすい解説であると感 じた。

そして企業の実務者として本書からあらたな 知識を習得しあるいは再確認して実務的基盤の 拡充を図るためにも役立つものである。

(紹介者 会誌広報委員  T.O.)

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黒船特許の正体 Apple,Amazon,Googleの知財戦略を読み解く

編著 松倉 秀実 著
出版元 インプレスR&D A5判 72p
発行年月日・価格 2012年6月21日発行 印刷書籍版1,080円,電子書籍版680円(税込)
本書は,電子雑誌「On Deck」で2011年9月 号から2012年3月号までに掲載された記事を1 冊にまとめ,再編集した書籍である。

誰もが日常生活で一度は利用しているであろ う機器,サービスで現代の世界市場を席巻して いる米国3社(アップル,アマゾン,グーグル) のビジネスを支える知財戦略とはどのようなも のか,IT企業のみならず様々な業界の企業知 財実務者にとって大変興味深い副タイトルであ る。本書では上記3社を「黒船」に見立てて, 彼らのビジネスモデルを検証し,そのビジネス モデルを支える知財戦略(特に特許戦略)とは どのようなものか検証・分析している。具体的 には,第1章ではスマートフォンやタブレット 端末に代表される電子機器を販売するアップル のビジネスモデルを検証している。彼らは iPhoneやiPadなどのハードウェアを製造・販売 するのみならず,これらハードウェアに提供さ れるソフトウェア・コンテンツもすべて統合管 理することによって収益を上げるビジネスモデ ル「ハード&サービス複合企業」であることに 着目し,このビジネスモデルを支える特許とは どのようなものか分析している。第2章では, インターネットでの書籍,日用品の販売事業を中心に行うアマゾンのビジネスモデルについて 検証している。さらに,1990年代末の「ビジネ スモデル特許」ブームを巻き起こした,アマゾ ンのワンクリック特許が彼らのビジネスモデル に与えた影響についても触れられている。第3 章では,世界中の情報を整理,出力するインタ ーネット検索サービスを無償でユーザーに提供 するグーグルのビジネスモデルを取り上げ,他 のIT企業のビジネスモデルとの比較,アップ ルに対抗するための特許ポートフォリオの確保 とアップルとの特許訴訟の今後について検証, 分析している。第4章では,これら3社の最近 の日本出願をピックアップし,出願内容の特徴 を解説している。

このように世界的に有名なIT企業のビジネ スモデルと各社の保有特許について,特許公報 図面を引用しながら解説し,ビジネスモデルの 違いによる各社の知財戦略の違いがわかりやす く説明されている。本書は主に特許を切り口と した内容ではあるが,特許実務の詳細な専門知 識がない方や,IT業界以外の方にとっても読 みやすいものとなっている。本自体も大変スリ ムであり,興味深く一気に読めるものであった。 なお,本書は一般書店での販売はしていない。 発行元が運営する電子書籍販売サービスで電子 書籍が販売されているほか,印刷書籍が本書紹 介のインターネット書店を通じて販売されてい る。比較的手頃な価格でもあるので,興味を持 たれた方は一度,インターネットで検索してみ てはいかがだろうか。

(紹介者 会誌広報委員 Y.A.)

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