新刊書紹介

新刊書紹介

知財訴訟の訴状・答弁書の書き方(上・下巻)

編著 横井 康真,磯田 直也 著
出版元 山の手総合研究所 A4判 336p(上巻),351p(下巻)
発行年月日・価格 2012年7月1日発行 各6,000円(税別)
本書は,弁理士付記代理業務試験の参考書で ある。法領域は,特許,実用新案,意匠,商標, 不正競争防止法の各法にわたり,複数の法領域 をカバーしている。各法において,「訴状,答 弁書の記載事項」を解説し,さらに実務的な「実 質的な記載事項」があり,H15年からH23年ま での過去の出題問題と解答を併せて掲載してい る。主には,侵害訴訟,不正競争行為による訴 訟について,各法毎に解説され,整理しながら 読み進むことができる。文章は,難解な用語, 表現は少なく,的確で簡易な用語で表現されて いる。説明中に必要な条文番号も付記してあっ て,対応条文からも訴状,答弁書の記載事項の 流れも大体は把握できる。本文以外でも,注記 には判決の紹介もある。このように,充実した 情報でわかりやすい参考書である。試験の参考 書としては,ほぼ磐石なのであろう。

試験を受ける方は,もちろんであるが,試験 を受けない知財部員にもお勧めできる内容が多 く,実務の参考書としても活用できそうである。 まずは,訴状や答弁書において,記載事項を把握できる点や,それぞれの基礎知識も習得で きる点で活用できる。訴状や答弁書の記載事項 については,訴状そのものの定義から記載すべ き事項,裁判管轄から留意点まで網羅的に解説 されている。各解説は,基礎的なことを正確に 記載してあり,かつコンパクトであるので読み やすく,手早く理解できる。知識のチェックシ ートにも応用できるのではなかろうか。

また,基礎知識の習得だけではなく,実務へ の応用として,活用できる。各章「実質的な記 載事項」では,具体的な「記載例」が記載され ており,さらに踏み込んだ内容となっている。 例えば,実務では請求すべき事案,または抗弁 としたい事情が雑駁にはあるが,具体的に記載 するとなると,やはり難しいものである,そこ で,本書の解説と「記載例」は大いに参考にな ると思われる。

企業における知財部門では,代理人が作成し た訴状案,答弁書案を確認することが大半であ る中,代理人の作成した訴状案,答弁書案を査 読する機会に,本書を参考されるのも一案では なかろうか。

最後に,過去の試験問題による演習問題を試 しに取組んでみたが,全く正解しえなかった。 基礎力の不足を痛感させられたと共に,私にと っては,本書の必要性を如実に証明した答弁(証 拠)となったようである。

(紹介者 会誌広報委員  H.M.)

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ロイヤルティの実務詳解−ライセンス契約をめぐる法務・会計・税務と監査手法−

編著 淵邊 善彦,吉野 仁之,寺内 章太郎, 長谷部 智一郎 著
出版元 中央経済社 A5判 330p
発行年月日・価格 2012年9月26日発行 3,400円(税別)
日本企業は,グローバル競争の中,海外での 事業拡大を必要とされており,海外企業との技 術提携も日常的に行われるようになってきてい る。昨今は,アジア新興国の企業との技術提携 が活発化してきている。

このような技術提携に伴いライセンスビジネ スも拡大しているが,ライセンス契約どおりに, ロイヤルティが支払われているか,しっかりと チェックできている企業は,まだ少ないであろ う。

本書は,ロイヤルティ実務に焦点を当て,解 説しているもので,執筆者の1人は,本特集号 の「M&A・アライアンスと知的財産」の執筆 者である淵邊 善彦弁護士である。2008年3月 に出版された「ロイヤルティの実務 ライセン スビジネスでの契約と監査のノウハウ」の続編 にあたるものである。以下の章で展開されてい る。

序章 オープンイノベーションの時代
第1章 知的財産の種類と活用
第2章 ライセンス契約の法務
第3章 ライセンス契約の会計・税務
第4章 ロイヤルティの決定
第5章 ロイヤルティ監査の実務
第6章 ロイヤルティと独占禁止法
第7章 ロイヤルティに関する紛争

以下に,本書の内容について紹介する。タイ トルからすると,専門的な内容と想像する方も おられると思うが,序盤は前提となる知的財産 権の種類や知的財産の活用方法,ライセンス契 約の種類・形態,ロイヤルティの規定方法,会 計処理など基礎的な内容について,要所に図表 を用いて,丁寧に解説されている。ライセンス 実務に直接関わっていない方や初心者の方でも 理解しやすく構成されている。また,知的財産 の活用方法では,知財リースや証券化,信託, 担保,知財M&Aなど,新しい活用方法も取り 上げられている。

ロイヤルティ実務の詳細は, 第4章以降で取 り上げられている。ロイヤルティ監査について は,その準備や申し込みなど具体的な実務プロ セス/ポイントから始まり, 監査における実務 上の問題点は,4つの具体的なケースを図表で 示してわかりやすく解説されている。また,実 際のロイヤルティに関する裁判例も26例取り上 げ,実務で問題となりやすいポイントを解説し ている。

なお,巻末には,特許通常実施権許諾契約書, ライセンス契約書サンプル,ロイヤルティ報告 書フォームが掲載されており,参考となる。ア ルファベット順,50音順の用語による索引もま とめられており,調べやすくまとめられている。 本書は,ロイヤリティ実務に関わる基礎的な 内容から実務の詳細まで一冊に,わかりやすく まとまっており,手元に置いておくと役立つ一 冊である。

(紹介者 会誌広報委員   T.T.)

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知的財産に携わる人のための標準民事手続法

編著 高林 龍 著
出版元 発明推進協会 A5判 224p
発行年月日・価格 2012年12月18日発行 1,800円(税別)
読者の皆様に朗報です。 「標準特許法」・「標準著作権法」に続いて, 早稲田大学 高林龍教授ご執筆の「標準」シリ ーズ第3段「標準民事手続法」が刊行されまし た。

本書のタイトル「民事手続法」の対象法域は, 司法制度の概況,民事訴訟法の基礎知識,訴訟 進行の解説,判決の執行・保全に代表される訴 訟手続き全般になっています。

タイトルの第一印象から「コンメンタールの ような条文解説ではないか」・「眠たくなるよう な難しい内容ではないか」と不安がありました が,読み始めた途端,良い意味での衝撃と感動 を感じ,皆様に紹介する次第であります。

裁判官・研究者として豊富な経験をお持ちの 高林先生ならではの軽快さ,洒脱な表現が多く 用いられるともに,程良い頁数からも読みやす さへの配慮が感じられました。それでいて基礎 事項が網羅されており,民事訴訟の開始前から執行手続きまでの全体像が手に取るように俯瞰 できる稀有な解説書となっています。理系出身 で法律知識が皆無の紹介者には民訴法・関係法 の基本理念や法曹関係者の考え方が少しは分か ったような気分となり,目から鱗が落ちる一冊 でした。

本書のなかで高林先生ご自身の経験談が記載 された一節(民事執行の項目)をご紹介いたし ます。

『執行官と同道して現場に赴いたこともある が,暴力団員が執行妨害をして脅したり,家財 道具の差押さえをする際に罵声を浴びせたりし て,ハードな仕事である。競売事件に暴力団が 絡んで一般人の競落を妨害したり,競売物件を 暴力団が不法占拠して売却代金を安くしたりす るという病理現象(マンガの「ナニワ金融道」 はこの辺の描写がリアルである。)があるが, 執行手続の適正,迅速な実行は司法制度への信 頼を得るためには不可欠である。』

辛い実務に対しても,法曹界の役割・決意を 表明されておられ,真摯な姿勢に改めて感銘を 受けました。

すべての知財関係者にお勧めしたい一冊で す。

(紹介者 会誌広報委員 S.Y.)

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良い戦略,悪い戦略

編著 リチャード・P・ルメルト 著 村井 章子 訳
出版元 日本経済新聞出版社 四六判 412p
発行年月日・価格 2012年6月22日発行 2,000円(税別)
私が本書と出会ったのは,「事業戦略に知財 戦略を組込む」という漠然としたテーマの推進 プロジェクトを担当することになったことがき っかけである。

社内の報告でよく耳にする『戦略』とは,そ もそも何なのか?その表現を使うことによっ て,凄いことをやっている気になるが,非常に 曖昧で抽象的であることが多い。本書は,『戦略』 について,良い事例と悪い事例を示しながらさ まざまな視点から定義し,明快に解説した書籍 である。

例えば,「戦略とは,ポイントを見極め(最 も効果が上がるところ),そこに狙いを絞り, 手持ちのリソースと行動を集中するという明確 なものであり,曖昧な言葉を使って,明確な方 向を示さないものは,悪い戦略である」と定義 されている。

本書の構成は,大きく3つの部に分かれ,1 つの部が複数の章からなっている。各部の始め には,各章で解説されるポイントが示されてい るため,本文を読み進めるための予備知識とな り,非常に役立つ。

第1部では,良い戦略の例と悪い戦略の例を 挙げながら,良い戦略の基本構造(カーネル= 「核」)である「診断,基本方針,行動」の解説で締めくくっている。この部を読むだけでも, 社内の報告資料が基本構造に基づいた良い戦略 になっているかどうかの判断が出来る。

第2部では,良い戦略を立てる上での9つの ポイントを解説している。その中で,最も印象 的だったのは「敏感なアンテナで大きなうねり を感じとる」という意識と感性の重要性である。 例えば,記録媒体の変化やハードからソフトへ の変化等,環境変化をいち早く察知して,方針 と行動に反映することが重要となる。

第3部では,より良い戦略を練るために役立 つテクニックや注意点が解説されている。例え ば,思考法のテクニックとしては3つの習慣「第 一に,近視眼的な見方を断ち切り,広い視野を 持つための手段(例えばリスト)を持つ」「第 二に,自分の判断に疑義を提出する習慣をつけ る」「第三に,重要な判断を下したら記録に残 す習慣をつける」を身に付けることが重要であ ると述べている。

本書の特徴的なところは,良い戦略事例(ア ップル,ウォルマート,シスコシステムズ,湾 岸戦争,NASAの月面着陸,国家プロジェクト, スターバックス,IBM,セブン−イレブン,エ ヌビディア等)だけでなく,悪い戦略事例も詳 細分析とともに容赦なく実名を挙げている点で ある。

これから,知的財産部員も戦略的思考と行動 が求められる時代である。中堅幹部職とマネジ メント職の方には読んでもらいたい一冊であ る。

(紹介者 会誌広報委員 M.O.)

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