新刊書紹介

新刊書紹介

ロシア知的財産制度と実務

編著 黒瀬 雅志 編著
伊藤 武泰,谷口 登,木本 大介著
出版元 経済産業調査会 A5判 320p
発行年月日・価格 2013年5月8日発行 3,200円(税別)
 2012年8月22日,ロシアは156番目のWTO加盟国となった。1993年にロシア政府がGATT加 盟申請してから実に19年越しとなる。これに伴い,日本企業のロシアの知的財産制度に対する関心も高まりつつある。ロシアの知的財産法については,AIPPI(日本国際知的財産保護協会), やJETRO(日本貿易振興機構)からいくつか文献等が発行はされているものの,基本的にロ シア人により執筆された論文の翻訳文であるため,日本の実務担当者にとっては,やや読みにくく物足りなく感じることもあった。そこで本書は,ロシアの知的財産制度について平易に解 説する目的で,4名の弁理士が,それぞれの専門分野に分かれて,実務的な経験も踏まえつつ執筆されたものである。

  本書の特徴は,ロシア知的財産制度の概要を体系的に理解し,権利取得からエンフォースメ ント,ライセンスに至るまで幅広く記載されていることにある。なおユーラシア特許についても解説されている。

 権利取得に関しては,特許,実用新案,意匠, 商標についてはもちろん,営業秘密の保護制度や,著作権制度,動植物の新品種の保護制度まで網羅され,ロシア知的財産制度の基本法であるロシア民法第4部を参照しながら幅広く解説 されている。ロシアでの権利化実務を担当する際には非常に判り易くまとまっている。

 エンフォースメントについては,民事的救済 措置,行政的救済措置,刑事的救済措置から,税関による水際措置,その他の解決手段について解説されていて,ロシアで侵害行為が発生した場合には役立つ内容となっている。

 ライセンスについては,ボリュームは少ないものの,これからロシアで契約実務をしようとする場合には参考になるだろう。

 以上のように,本書はロシア知的財産法について,実務的な観点で幅広く記載されている。 現在ロシアの実務を担当している方には,もう 少し詳細な解説が欲しい部分もあるが,特に,これからロシアでの実務を担当される方にとっては非常に有用な一冊となろう。

   

(紹介者 会誌広報委員 S.I)

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米国発明法(AIA)・新規則の解説

編著 山口 洋一郎 著
出版元 日本機械輸出組合 B5判 372p
発行年月日・価格 2013年6月4日発行 3,000円(税込)
 America Invents Act:AIAが2011年9月16日に成立し,米国特許制度が先発明主義から先願主義に移行する大改正が行われてから,改正 法を盛り込んだ数多くの米国特許法に関する書籍が発行されている。知財管理誌においてもいくつかの書籍を紹介してきている。それぞれが特徴的なまとめ方をしており,本コーナーではそれらの書籍の紹介をしてきたが,今回は,米国在住で度々日本においてセミナーを実施されているのでご存じの方も数多くおられると思われる米国弁護士山口洋一郎氏が執筆されたAIAに関する書籍を紹介する。

  本書の特徴は,特許法改正部分のみならず,新規則の部分についても掲載されている点にあ る。現在発刊されている書籍の殆どが2011年の本法成立年に発行されたものが多く,規則の部 分まで踏み込んだ書籍は少ないのではないだろうか。規則が原文と和訳が併記されているので わかりやすくなっている。敢えて不満を言うなら,索引がないため,何ページに何条の規則が記載されているか,を探しにくい点かと思う。

 もう一つの特徴としては,本法制定となる背景となる問題点について解説し,それがどのように解決されたのか,という観点でまとめられている点が挙げられる。例えば,特許虚偽表示訴訟について2〜3年前に非常に多くの訴訟が パテントトロールによって提起されたが,その点についても本書で触れられている。本改正後,訴訟適格がなくなったすべての案件が却下されている。当時,非常に話題性があり,企業にとって由々しき問題であったため,山口氏にお願いして知財管理誌において原稿をご執筆いただ いたことがある。議会ではいち早くこの問題に注目し,改正に向けて動いていたが,時間切れで一旦廃案になった経緯などが分かりやすく記 載されている。その他,損害賠償額の算定や,もちろん先願主義への移行に関する経緯もわかりやすく解説されている。また,今後の判例動向をみるべき部分(例えば,「public use」や「on sale」の解釈)についても丁寧に解説がなされている。

 さて,本書の特徴について説明させていただいてきて,最後に興味のある方は是非「書店」 にて購入を,と薦めたくなるのだが,本書籍は残念ながら書店には並べられていない。日本機械輸出組合のホームページから直接申し込む必要がある点ご注意願いたい。

(紹介者 会誌広報委員 Y.O)

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