新刊書紹介

新刊書紹介

体系化する知的財産法(上)・(下)

編著 辰巳 直彦 著
出版元 青林書院 A5判 上巻352p 下巻366p
発行年月日・価格 2013年11月18日発行 各3,400円(税別)
 大学に入って,或いは企業に就職し,知的財 産部に配属されて,これから知的財産法につい て勉強を開始しようと思い立ったとき,まずは 知的財産法の全体を把握したいと思うのではな いだろうか。しかしながら,入門書では物足り ない,かといって専門書では難しすぎる。まず は,そんなジレンマを感じる方に本書をお薦め する。「まずは」と言ったのは,本書は,紹介 者のように知財実務に携わっている方々にもお 薦めだからだ。

 本書は,その書名からも分かる通り,知的財 産法を体系的な視点からまとめ上げたものであ る。目次を見ていただこう。

 第1章から順に,知的財産法と社会,特許法 −発明と特許要件,特許手続,特許権の効力と 活用,特許発明の技術的範囲と特許権侵害,実 用新案法,意匠法,種苗法(以上,上巻),著 作権法−著作物と著作者の権利,著作権の内容 的・時間的制限,著作権の活用と侵害,不正競 争防止法,商標法,半導体集積回路保護法,不 法行為法による知的財産の保護,そして,知的 財産法を巡る国際条約と国際関係(以上,下巻), と全16章からなっており,知的財産法が体系化 されている。

 上下巻に分かれていることや索引が下巻にし かついていない,或いは図表が少ないといった 点に関しては,読者層によって意見の分かれる ところであろう。しかし,手にとって読み始め ると分かることだが,本書は専門書にしてはと ても読みやすい。また,実務者にとって物足り なさを感じさせない。

 内部構成は,「本文」,補足的な説明が書かれ ている「網掛け部分」,さらに本文に関連する トピックスが簡潔にまとめられている「ピック アップ」から成っている。本文は,自然な文章 の流れの中に条文が散りばめられていたり,判 例のみならず,身近な具体例を交えることによ り,用語等の理解を促すようにしたりと工夫が 窺える。このような丁寧な説明が読みやすさに 繋がっているのであろう。

 もちろん,体系化されているので,実務で必 要な箇所だけを摘み読みしてもよい。そのよう な場合にも,十分参考になる。更に詳しく知り たい場合には,本書を足掛かりとして,より特 化した専門書に当たったり,判例を研究したり するとよい。予備知識なしに飛び込むよりも余 程よい結果が得られるであろう。

 ところで,紹介者の専門分野は特許だが,知 財ミックスなる言葉があるように,次第に「特 許だけ」分かるというのは通用しなくなってき ている。これから自分の専門分野を広げていこ うと考えている方も,読んでみてはどうだろう か。  

(紹介者 会誌広報委員 H.M.)

新刊書紹介

それどんな商品だよ!
本当にあったへんな商標

編著 友利 昴 著
出版元 イースト・プレス A6判 218p
発行年月日・価格 2013年10月11日発行 571円(税別)
   本書は,日本の特許庁に出願・登録された商 標の中でユニークなもの等を,著者独特の視点 により抽出し,軽妙なタッチで紹介するもので ある。

「それどんな商品だよ! ベスト・オブ・へ んなネーミング」「有名ブランドを守れ! ? 著 名人・大企業の意外な商標」等,4つのパート に分けられており,各パートにおいて,取り上 げる商標とその権利者等,指定商品・役務,出 願日,登録日を記載し,それぞれについて2〜 3ページの解説を付ける形で構成されている。 紹介されている商標についてはここでは挙げな いが,一見して「へんな商標」と思われるもの だけでなく,権利者等,指定商品・役務,出願・ 登録に至るまでの経緯等との関係で見ると「へ んな商標」にふさわしいと思われるものも紹介 している。また,各パートの間には,日本の第 1号登録商標や,戦時・戦後の商標事情につい てのコラムも掲載されている。

 商標に関する書籍は,法律や判例の解説,出 願・登録手続の実務,ネーミング手法,ブラン ドマネージメントといった実務者や専門家向け に書かれたものがほとんどであるが,本書は, この分野では珍しく,商標を「笑う」ことが主 目的の,いわば娯楽本の範疇に入るものである という点で異彩を放っている。時折登場する和 田ラヂヲ氏のシュールなイラストも本書に妙に マッチしており,何とも言えない雰囲気を醸し 出している。

 しかし,この本が秀逸なのは,ただ単に面白 いというだけでなく,商標実務者やビジネスマ ンの視点からの鋭い洞察・分析に基づく記載が 随所に散りばめられている点にある。

 たとえば,商標実務者の多くが携わる,出願, 異議申立,譲渡,ライセンス,訴訟,模倣品対 策といった業務についても,本書の主目的を損 なうことなく,さりげなく触れられている。ま た,商品名採択に至るまでの過程や,商品化ビ ジネスやキャラクタービジネスの現状等につい ても,ユーモアを交えつつ巧みに言及されてい る。このことが,本書に単なる娯楽本以上の厚 みをもたらしているのである。

 これは,著者が一級知的財産管理技能士の資 格も持ちながら企業で商標業務に従事している というバックグラウンドを有していることもも ちろんだが,商標ネーミングの珍妙な点だけに 焦点を当てるのではなく,その商標が採択され るに至った背景にある,商標を取り巻く人々の 心や企業の戦略にまで思いを馳せることができ る,著者の類まれな想像力に拠るところが大き いであろう。

 よって,何らかの形で商標に触れたことのあ る方々であれば,本書の内容に共感を覚えるこ とも多いだろうし,また,そうでない人達にと っても,商標の面白さや奥深さを感じ取ること ができる一冊に仕上がっている。

 「仕事に活かす!」と意気込んで読むものと は違うかもしれないが,知財の魅力を再認識す るという意味でも,常日頃から真剣に知財業務 に取り組んでいる方にこそ,ぜひ手に取ってい ただきたい。そんな一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 T.K.)

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