新刊書紹介

新刊書紹介

米国特許法逐条解説(第6版)

編著 ヘンリー幸田 著
出版元 発明推進協会 A5判 890p
発行年月日・価格 2013年9月4日発行 9,000円(税別)
 2011年1月,米国議会に特許法を改正する上 院案が提出された。その後異例のスピードで司 法委員会の承認を取得したことは,10年以上の 間議論されてきた先発明主義から先願主義への 移行などの大改正の実現を予感させるものであ った。

 そして同年9月16日,オバマ大統領は米国特 許法を改正する米国発明法(America Invents Act:AIA)案に署名し,当該法律はついに成 立した。改正内容の施行日は条文によって異な るが,このAIAの発効によって,1790年以来こ だわってきた先発明主義から先願主義へ移行, 当事者系再審査から付与後レビューへの衣替 え,マーキングトロールの抑制などを含む大改 正が実現したのである。

 AIA自体を解説した書籍や改正内容を盛り込 んだ米国特許法の解説書は日本語・英語を含め て数多く発行されている。しかし,日本語での 全条文逐条解説は本書だけだと思われる。今更 説明するまでもないが,本書では,日米両国に おいて長年第一線で活躍するニューヨーク州弁 護士ヘンリー幸田氏が全ての条文について解説 を付す。重要条文,特に第10章などの特許要件, 第12章〜第14章などの審査手続,第28章,第29 章などの特許訴訟に関連する条文については, 条文解説だけでなく立法趣旨,用語解説,実務 的観点,判例等を項目別に解説しており,単な る逐条解説の枠を超えている。特にAIAで改正 された部分については,AIA前後の規定や立法 経緯などにも触れられている。書棚に備えて辞 書的活用をするだけでなく,米国特許法の教科 書としての価値も非常に高い。本書の後半部分 は資料編として1.AIA改正法の概要と試行時 期,根拠条文,2.付与後レビューと当事者系 レビューの対比,3.米国特許法(原文),4. 米国特許法施行規則(原文),5.バイオ関連 特許出願ガイドライン(原文)が収録されてい る。英語で検討した方が良いような場合はこれ らを参照することもできる。

 特許に関わる実務家の中で米国特許法に触れ ない方はいないといっても過言ではない。本書 は旧版までに実務家必携という地位を確立して おり,待望の改訂版である。890ページ,大型 本ということもあり,携帯には些か不向きであ るが,教科書・辞書として個人所有でデスクの 上に置いておき,適時活用をするのが良いだろ う。さもなくば,企業の知的財産部や特許事務 所・法律事務所の書棚に一冊は備えたい。  

(紹介者 会誌広報委員 AO)

新刊書紹介

日本の知財戦略

編著 中原 裕彦 著
出版元 金融財政事情研究会 四六判 240p
発行年月日・価格 2013年12月24日発行 1,800円(税別)
   昨今日本では,「技術で勝って事業で負ける」 と言われて久しい。リーマンショック以降各社 この大きな課題で悩んでいるものと思われる。
 本書は,この事態の打開策や事業戦略,研究 開発戦略,知財戦略を三位一体で運営していく ための課題を提言するものである。
 また本書の著者は現役の官僚で,現在内閣府 規制改革推進室参事官を務められており,過去 大蔵省,法務省,経産省と様々な省庁を経験さ れ,また立法作業にも多く携わってきた方であ る。

 本書の構成を紹介すると,最初に知的財産法 の基本的考え方として,基本的視座や知的資産 経営の今日的意義とは何かについて,本書の切 り口として述べられている。
その後,特許法,意匠法,商標法,著作権法, 不正競争防止法の各制度の基本的な概要と仕組 みや事件等が述べられている。

 特許法では,米国はなぜ先願主義へ移行した のか,判決を事例に消尽の課題の説明,職務発 明が抱える課題,特許訴訟等を簡潔に分かりや すく説明されている。
 意匠法では,意匠法の今後の課題や韓国のデ ザイン強化の動き,デザインの今日的意義につ いて述べられている。商標法では,基本的な概要に触れつつも,最 近の動向である新しい商標や地域団体商標の 他,並行輸入やマドリッドプロトコル,模倣品 対策等についても述べられている。
 著作権法では,基本的概要の他,よく事例と して取り上げられるクラブ・キャッツアイ事 件,まねきTV事件,ロクラク事件等の判例か らの課題や近時の話題である自炊問題,Google books訴訟や電子書籍問題等も織り交ぜて分か りやすく説明されている。
 不正競争防止法では,ブランド保護や営業秘 密保護のあり方について説明されているが,特 に営業秘密保護については,図解や指針含め詳 しく説明されている。

 最後に本書の締めとして,三位一体が抱える 課題,特に組織論だけではなく方法論が重要で あると述べられている。その方法論を説明する 上で法と経営の観点からいくつかの仮想事例で 説明している。
 本書は,制度の基本的事項や仕組み,事件等 を簡潔に分かりやすく説明しているのが特徴で ある。会誌広報委員の紹介者が言うのもおかし いかもしれないが,知財管理誌の「今更聞けな いシリーズ」よりも更に要点を絞って簡潔に説 明されているのでとても分かりやすく,初学者 や経営層で知財を俯瞰して見られる方々にとて も参考になるではと思われる。
 本書のサイズやページ数から,読むには時間 がかからず,知財の初学者が知財全般を俯瞰す る上では参考になろう。またどちらかと言うと お忙しい経営層の方々に読んでいただき,知財 の動向や今後の考え方の参考になる最適な一冊 でないかと思われる。

(紹介者 会誌広報委員 H.M.)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.