新刊書紹介

新刊書紹介

職務発明規定変更及び相当対価算定の法律実務

編著 高橋 淳 著
出版元 経済産業調査会 A5判 240p
発行年月日・価格 2014年5月9日発行 2,500円(税別)
 本書は,職務発明制度を社内に導入,運用, 変更する際における実務上の問題点を挙げると ともに,具体的な解決策を示す実践的な書籍で ある。

 上特許法35条4項を反対解釈すれば,企業の職 務発明規定において「相当の対価」を定める際 の手続が合理的であれば,企業は従業員から「相 当の対価」の訴訟を起こされても,敗訴するこ とを回避できる。そして,「相当の対価」を決 定するための基準の策定に際して,使用者と従 業員との間における情報開示,協議,意見聴取 の側面から手続が合理的でなければならないと 定められている。しかし,具体的にどのような プロセスを経た場合なら合理的であるといえる のかは判然としない。

 本書においては,職務発明に関する現行法に ついて解説をしたうえで,「相当の対価」の算 定方式の実務的な検討をしている。また,職務 発明規定を従業者に不利益変更する際の留意点 を,企業年金基金の規定を従業者にとって不利 益変更したことの合理性について争われた年金 減額訴訟判決を参考にしつつ,具体的に考察し ている。職務発明規定を運用する際の実務上の 問題点を列挙して,具体的な解決策についても 言及している。

  本書の特徴を3点挙げる。1点目は,読みや すさ,わかりやすさである。240頁とコンパク トである上,各章ごとにはじめに概要を整理し て,その後に詳細な解説が続くので理解しやす い。

 2点目は単なる職務発明規定の解説に終始す ることなく,著者の見解が詳細に述べられてい ることである。例えば第2章で述べられている 「日本企業が職務発明制度を導入する際に,そ もそも日本型人事システムは給料ではなく,次 の仕事の内容で報いるシステムであって,使用 者と雇用者との長期の継続的関係を前提として 賃金は生活保障の観点から設計されている。金 銭を主とした成果主義型の動機付けシステムを そのまま適用することは適切ではないことに留 意する必要がある。」との見解には,感銘を受 けた。

 3点目は,具体的で実践的な内容になってい ることである。多くの企業が職務発明規定を定 める際に,出向社員・派遣社員による発明の取 扱い,出願せずノウハウとした発明の取扱いに は頭を悩ませたのではないだろうか。また,職 務発明規定の従業員への開示の仕方,説明会の 開催の仕方についても頭を悩ませたのではない だろうか。本書はこれらの問題の対応策につい て言及している。

 社内の職務発明規定の作成,運用,変更の実 務に携わっている方は是非ご一読してみてはい かがだろうか。  

(紹介者 会誌広報委員 Y.M)

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