新刊書紹介

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特許審決取消判決の分析 −事例からみる知財高裁の実務−

編著 大阪弁護士会 知的財産法実務研究会 編
出版元 商事法務 B5判 208p
発行年月日・価格 2015年3月20日発行 3,000円(税別)
 わが国の特許訴訟件数は,2012年では187件と,米国の5千件以上に比してはるかに少ない。 このことは,わが国では原告の勝訴率が米国よりも低いため,訴訟による特許権の無効を恐れ交渉による解決を好む傾向にあることが一因と考えられている。

 しかしながら,近年,特に業界大手同士の特許侵害事件が紙面を賑わせている。それに伴い,特許権の無効を争った審決取消訴訟もまた注目を集めている。

 本書では,行政判断と司法判断が異なった特許審決取消訴訟に着目し,知的財産高等裁判所(知財高裁)が設立された平成17年4月1日から平成25年3月31日までの8年度分にわたる389件もの裁判例を分析し,論点ごとに分類がなされている。

 第1章,第2章では,進歩性について「機械・ 電機・その他」と「化学・医薬」とのそれぞれについて司法判断や審査基準を基に解説され,特に化学・医療分野については作用・効果が重視された裁判例を分類し,紹介している。

 第3章では,記載要件としてサポート要件,可能要件,明確性要件について検討がなされている。特にサポート要件については,平成17年の大合議判決(偏光フィルムの製造法事件)がその後の裁判例に与えた影響について検討されている。また,各記載要件間の関係について論じられた裁判例についても触れている。

 第4章〜第6章では,補正・訂正,審決取消訴訟とその手続きについて,特許権の保護対象・特許の登録要件および出願に関して,それぞれ論点ごとに分類,整理されている。補正・訂正以外の章については裁判例自体が少ないな がらも,例えば手続き上の瑕疵の有無が問題になった裁判例もあり,実務の上では気を付けたい点である。

 以上の通り,本書は膨大な裁判例を分類整理し, 個々に分析がなされた類書にない内容となっている。本書を手にすれば,裁判の論点が多岐にわたることが理解できよう。問題に直面した際には,まず本書を確認し類似する論点の 有無を探す,といった活用方法が考えられる。

 折しも政府の動きとして,本年夏に策定される知的財産推進計画2015に向けて,「特許権者 の立証負担を軽減するための 証拠収集手続の強化」が検討されており,一部には原告の勝訴率向上に繋がるといった見方がある。

 今後は,わが国でも特許訴訟件数が増加することが予想され,それに 伴う審決取消訴訟もまた増加が見込まれる。これから審決取消訴訟を担当する方も,すでに担当している実務者にとっても,職場に置いておきたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 Y.K.

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